新車試乗レポート
更新日:2026.02.28 / 掲載日:2026.02.28
【ポルシェ タイカン ターボGT】ここまで振り切ればもう天晴れ!【工藤貴宏】

文●工藤貴宏 写真●澤田和久、内藤敬仁
EV(電気自動車)は地球にやさしいエコな乗り物。
……おそらくそれが多くの人にとってのEVのイメージでしょう。そもそもEVを普及させようとしている理由は「二酸化炭素の排出量を減らして地球温暖化を防ごう」ってことですから、“EV=地球にやさしい”と結びつくのは当然のこと。
ただし、(二酸化炭素削減という視点で見るとバッテリーを作る際に大量の二酸化炭素を排出するので)EVが本当に地球にやさしいかは意見が分かれるところですが。
スポーツカーメーカーであるポルシェならではの電気自動車

というわけで今回注目するのは、ポルシェ初のEVモデル「タイカン」。実はこのタイカンがEVとして異例なのは、「地球にやさしい」なんてポルシェ自身はひとことも言っていないこと。市販モデルが発表されたのは2019年のフランクフルトモーターショーで筆者が幸運にもそのデビューに立ち会ったのですが、リリースのどこを読んでも「地球環境」なんて文字が出てこなかったのをよく覚えています。実に正直(笑)。
じゃあどうしてポルシェがEVを送り出したかといえば、政治の影響。当時は「EVこそバラ色の未来。EVを出さない自動車メーカーはいじめてやる(意訳)」というのがドイツも含めた欧州の政治の姿勢で、EVを売らないととんでもないペナルティとなりましたからね(今もそうですが)。そのせいで今、欧州のだいたいの自動車メーカーがEV選択の失敗で大損害を被っているのは界隈に詳しい人ならご存じのことでしょう。

ではポルシェは初のEVを「地球にやさしい」ではなくどうアピールしたか。それは「ポルシェ史上もっとも速い加速」でした。言われてみれば確かにそうだ。なんとわかりやすい特徴のアピール(笑)。
タイカンがワールドプレミアされたその時のポルシェブースはどこもかしこも「加速が凄い」というアピールだらけで、ディスプレイではかつてのF1マシンやチーター、それからロケットとタイカンの加速を比較する表示なんかもおこなわれていました。「ポルシェはそうきたか」と感心しましたね。ポルシェを買おうとする人たちに「地球環境に優しい」なんてアピールしてもまったくもって響かないであろうことは、ポルシェが一番わかっていたのでしょう。
いうまでもないけれど、タイカンの加速は本当に速い。当初用意されたグレードは「ターボ」と「ターボS」で「ターボチャージャーが付いていないのに『ターボ』とはこれ如何に?」と突っ込みたくなる気持ちはともかく、前者は最高出力625PS(ローンチコントロール使用時は680PS)/最大トルク850Nmで0-100km/hの加速タイムが3.2秒。後者は最高出力625PS(ローンチコントロール使用時は761PS)/最大トルク1050Nmで0-100km/hの加速タイムは2.8秒というとんでもないタイムだったわけです。そこをEVのアピールポイントにしようというのだから実に清々しい。
タイカンの最強モデル「ターボGT」をテストドライブ

さて、そんなタイカンのデビューから6年とちょっと。最強モデル「タイカン・ターボGT」の最高出力は789PSに到達し、ローンチコントロール使用時にはなんと1034PS、そしてオーバーブースト機能を使えば2秒間だけ1108PSまで昇華。まさかの1000PS超えですよ……。いやそれどころか1100PS超え……‼ 本気⁉
そして0-100km/hの加速タイムはたったの2.3秒。0-200km/h加速(初期の「ターボS」で9.8秒)はまさかの6.6秒。なんてこった……!

というわけで先日「1000PS超えのポルシェに試乗」というありがたい機会を頂いたわけですが、対面してみてビックリ。「パープルスカイメタリック」でファンキーなボディカラーは好みでオーダーできるからともかくとしても、「エアロブレード」と呼ぶ板をサイドに組み合わせたフロントスポイラーをはじめ、リヤのダックテール状のスポイラーなどカーボンパーツがふんだんに使われていてただならぬ雰囲気。カーボンセラミックのフロントブレーキはローターもキャリパーもとんでもない大きさだし。見るからに「普通じゃないオーラ」がすごすぎる。さすがです。

サプライズは室内にもありました。試乗車には「3Dプリント ボディフォームフルバケットシート(ミディアム硬度)」というオプションで40万1000円のシートが装着されているが、これはひとことでいえばカーボンシェルのフルバケットシート。ガッチリと身体をホールドしてくれるけれど、4ドアセダンにリクライニングもできないフルバケットシートを装着するなんて潔すぎる。さすがポルシェだ。
アクセルを踏み込むと凶暴性が牙を向く

というわけで試乗といきましょう。
まずお伝えしたいのは、アクセルを踏み込みさえしなければフツーのEVだということ。扱いづらさみたいなのは一切なくて、それこそ低い着座位置からくる視界の狭さと四隅がつかみにくい車体の大きさを除けば、日産「リーフ」あたりと変わらない運転しやすさだ。静かで、滑らかで、快適性だって高い。そういう意味ではしっかりEVしている。
いっぽうで、ひとたびアクセルを踏み込めば、もっともふさわしい言葉は「暴力的」のひところでしょうね。アクセルを踏んだ瞬間に怒涛の加速が乗員を襲い、いうなれば「瞬間ワープ装置」といってもいいかも。発進加速はもちろん中間加速も驚異的な加速度で、あまりのGの強さにドライバー自身が脳震盪(のうしんとう)をおこすかと思うほど。助手席や後席に人が乗っている場合は、アクセルを踏み込むのは避けたほうがいいでしょう。

念のためお伝えしておくと、これは「ローンチモード」や「オーバーブースト」は使わない状態。しかも公道試乗。もしもサーキットで本来の性能を放ったら、いったいどんな世界にドライバーを誘い込んでくれるのだろうか。きっと未知との遭遇に違いない。
ただ、ポルシェの名誉のために伝えておくと「加速の速さ」だけがこのクルマの能力ではない。ハンドルを切ればスッと軽快にターンインし、旋回中の安定感も抜群。なによりクルマを操る感覚が楽しいのはさすがポルシェ。たとえEVであっても、そこは人々のポルシェに対する期待を裏切ることのないようにしっかりと織り込んでいることがよくわかるってもんです。

ついでにいうと、音をしっかりと聞かせてくれるのもドライビングプレジャーを盛り上げてくれる大きな理由。走行モードを「スポーツプラス」にしてアクセルを踏み込むとガソリンエンジンの排気音を思わせる野太い音がドライバーの耳に届くけれど、これはもちろん合成音。室内のスピーカーからだけ流れているのかと思いきや、車外でも聞こえるらしい。
それもガソリンエンジンの音に近づけているということは「EVでもやっぱり求めるのはガソリンエンジンの感覚なんだね」という気分にもなってくるのはここだけの内緒としておきましょう。
「EVはつまらない」と思っているクルマ好きにこそ乗って欲しい

というわけで、まさかの1000PSオーバーとなった最新で最強のタイカン。今回の試乗ではその能力の3割くらいしか引き出せなかったわけですが「乗ればしっかりポルシェ」であり「ドライビングプレジャーが詰まっている」ということが十分に理解できました。
「EVはつまんない」なんていう人に、ぜひおすすめです。これとガソリンエンジン搭載の「911」を2台所有するなんて、クルマ好きだったらたまらないでしょうね。