新車試乗レポート
更新日:2025.07.10 / 掲載日:2025.07.10
スズキ eビターラは電気自動車の起爆剤になるか!?【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
スズキから内燃機関を持たないBEVが日本でも情報解禁となった。名前はe(イー)ビターラ。名前から察せられるように、彼ら初の電気自動車である。スズキが投じるBEV世界戦略車の第1弾だ。
eビターラはスズキの世界戦略電気自動車

「日本でも」としたのはグローバルでは昨年11月にイタリア・、ミラノでお披露目されている。「なぜイタリア?」という質問の返答は、イタリアでスズキはメジャーかつ高く評価されているかららしい。特にビターラ人気は高いとか。ビターラは日本でいうところのエスクードに当たる。
そして今年1月第二のお膝元インドで、2月に東京でお披露目された。スズキはBEVもちゃんとやっていきますというアピールだ。生産はインドのグジャラート工場。そこから世界のマーケットへデリバリーするとアナウンスされた。
そんなeビターラのプロトタイプを走らせた。まだ認証前ということでクローズドエリアでの試乗となる。場所はお馴染み袖ヶ浦フォレストウェイ。静粛性や乗り心地は置いといて、運動性能を知るにはグッドな環境である。
トヨタ、ダイハツと共同開発したパワーユニットを搭載

ではその概要だが、パワーユニットはトヨタ、ダイハツとの共同開発。イニシアチブを取るのはBEVで先行しているトヨタで、モーターとインバーターを効率よく一体化したeAxle(イーアクスル)を採用する。eビターラではそれをフロントアクスルに設置した2WDと前後に配した4WDをラインナップする。後者は前後を協調制御し、オートモードでは路面状態や加減速で最適なトルク配分を行う。ちなみに、トヨタ版のモデルはアーバンクルーザー。メインとなる生産工場はeビターラと同じだそうだ。
バッテリーはリチウムイオン電池を採用し、効率よく配置する。そのために開発されたのがBEV専用プラットフォームのHEARTECT-eと呼ばれるもの。ハイテン材を使った軽量かつ高剛性なフレームは高電圧保護を可能にし、広い室内スペースを確保する。リアシートの足元は広そうだ。電池の容量は2WDの低出力版が49kWh、高出力版と4WDモデルは61kWhとなる。
また、寒冷地など気温の低い状態では急速充電前にバッテリーを温めることが可能。それにより充電時間を短くする。走行前も同じで、電池を温めておけば出力を確保することができる。この辺のバッテリーの温度管理は、昨今BEVにおいて重要な機能と目されている。
高い実力を予感したサーキットでのテスト

といったeビターラを実際に走らせた感想は、かなり完成度が高い。制限速度を設けてはいたがサーキット走行した上で、運動性能の高さを感じた。特に4WDモデルは高い速度域で安定感抜群の走りを見せた。ステアリングに対する応答性は良く、コーナーでは前輪を駆りながらクリッピングポイントへ鼻先を向けて走り込んでいく。でもってリアもしっかりトラクションを効かせながらボディを前へ押し出す。コーナーの入り口と出口でトルク配分は異なるよう制御されているが、そのバランスは実によくできていた。なんとも気持ちの良い走りだ。この一連のスポーティな動きはどことなくスイフトスポーツに通じる。

2WDの走りも当然悪くない。特に速度域が高くなるとどんどん気持ち良さが伝わってくる。中間加速の鋭さはBEVならではのものだ。が、走り出しは少々車体の重さを感じさせる。もちろんリアルに重量があるのは4WDモデルだが、2つのモーターが作動することで、それを見事に打ち消している。なので、その分2WDはアクセルを深く踏んでしまいトルクステアが発生する。まぁ、サーキットという特殊な環境なのでそれで評価は下せないが、4WDの走りがかなりスポーティだっただけにそこに優劣が生じた。



とはいえ、街中で走れば違った印象になるのは想像がつく。信号から信号の間で、ガバッとアクセルを踏む環境はないからだ。ゆっくり動き出しパーシャルで走っていると、きっと新たな発見ができるであろう。
というのがプロトタイプ試乗会でのeビターラの印象。スタイリングの出来はよく、コンパクトなサイズながら寸詰まり感はない。スタイリッシュで室内も広いのだから文句なし。そしてこのスポーティな走り。ここ数年のスズキの良いところが前面に現れている。となると気になるのは価格。BEVは高いという印象があるが、もしかしたらこのクルマがそこに風穴を開けてくれるかもしれない。