新車試乗レポート
更新日:2025.03.30 / 掲載日:2025.03.28

もう一度ワゴンとSUVについて考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文⚫︎池田直渡 写真●トヨタ

 「4車系で群として戦う」というコンセプトで登場した16代目のクラウンにいわゆるワゴンボディとして、エステートがデビューしたことは皆さんすでにご存知の通り。

 エステートはなかなかの出来で、クラウンシリーズの中で筆者は一番気に入っている。とても良くできたクルマである。と予め断ってから書き出そう。すでに何度か書いてきた通り、クラウンは14代目まで、後席の居住性に皺寄せをしないど真ん中のセダンとして、頑張り続けた。が、そういうセダンを守りたい作り手たちにマーケットは冷たかった。年を追うごとに販売台数は下がり続け、ついに何らかの手を打たなければならなくなった。

 そうしてクーペライクセダンに姿を変えた15代目が登場する。15代目はリヤの居住性や乗降のための「頭入れ」を思い切って削り、その代わりに欧州で流行りのクーペ的ルーフラインを与えられて登場した。

 しかしながら、クラウンの伝統は重く、引き継ぐべきデザインのキー要素が多すぎて、セダンとして大事な要素を削ったにも関わらず残念ながらスタイリッシュな仕上がりにはならなかった。

 そこで16代目は、売れ筋のSUVの要素を取り入れて、セダンとSUVのクロスオーバーの方向へとシフトした。中核車種は名前からしてクラウンクロスオーバーである。そうやって大きな変化をした分、おいてきぼりになるセダンユーザーのためにはMIRAIのストレッチボディで法人ニーズまでをカバーした。

 しかしながらもっと本格的にSUV志向の顧客にはクロスオーバーでは足りないかも知れない。そこを補う任務をこなすのがクラウンスポーツである。

新型クラウン(エステート)は、ステーションワゴンとSUVのクロスオーバー的なプロポーションで登場した

 さて、残る一台、クラウンエステートはどうあるべきか、明らかに既存顧客ケアを志向するセダンを除けば、16代目のテーマはSUV化である。当然そのコンセプトはエステートにも影響した。旧来の乗用車との比較で明らかに座面がたかく、乗り降りの際にも腰を落とす必要がない。ある意味ではとても良いことでもあるのだが、そもそも床面が高い。床面が高ければ座面があがり、人のサイズは急に小さくはならないので、座面が上がればルーフも上がる。結果エステートは全てが上へ移動したクルマに仕上がった。

 今の時代に、端正なワゴンを望むのは贅沢なことはわかっているが、新型クラウンエステートのフロントフェンダーとしっかり繋がったAピラーや、Cピラーの後ろでキックアップするウエストラインを見ると、デザインのセオリーはクルマをひとつの塊としてデザインするSUVの手法にしか見えない。

キャビンの空間設計も背もたれを立たせて座らせるSUVライクな

 しかし、原点に帰れば、ワゴンとはセダンに荷室のユーティリティーを加えた車種である。低重心を実現するセダンの走りをそのままにユーティリティースペースを備えるから、走りが良い。本来そこがミニバンやSUVと一線を画す部分である。つまりワゴンとは走りとユーティリティの両方に妥協しない欲張りなクルマなのである。

 ちょっと昔を思い出して11代目S70系のエステートの写真を見て欲しい。フロントフェンダーラインからテールまで美しく一直線に引かれたウエストライン。その上に箱を二段重ねにした様に載るグリーンハウス。

11代目クラウン(S170)で復活したクラウンエステートはいまだに根強いファンがいる名車

 実質的にセダンが売れずに死滅して、ベース車両の選択肢がない今、ワゴンもまた旧来のしきたり通りに作れないのはわからないでもない。けれども、すっきりと低く、見た目にも重心の低いワゴンを求めるユーザーはどうしたら良いのだろうか。そういう保守本流のワゴンが欲しい人にとって、選択肢が少ない。

 わが国のワゴンの代表格だったスバルのレガシィツーリングワゴン(現アウトバック)は、奇しくもこの記事の掲載日の一週間後、3月31日をもって終売だし、ホンダ・オデッセイはスライドドアでワゴンというよりミニバンだ。マツダ6はワゴンのみならずセダンもすでにカタログから消えている。国産の純然たるワゴンはカローラツーリングと旧モデルのフィールダーだけになってしまった。

 そういう人にはクラウンエステートはまさに希望の星だったと思う。もう一度念を押しておくが、クラウンエステートは、サーキットで試乗した限りでは走りのレベルも高いので、そこを犠牲にしたクルマとは言えない。しかしながら、あの形はやはりSUVの仲間に見えて仕方がない。同業者にもそこを嘆く人は多い。

 猫も杓子もSUVというか、今この国ではSUVとミニバンとトールワゴンの軽自動車しか売れない。しかもその売れ筋のSUVがオールマイティ過ぎて、セダンもワゴンもみんな飲み込んでしまう。パッセンジャーの居住空間にゆとりがあって、ラゲッジスペースも十分に備えて、走りだって悪くない。だったらSUVに集約されて行くのは当然と言えば当然のこと。四の五の言っても売れないものはビジネスとしてサステイナブルではない。淘汰されても仕方がないじゃないか。それは正論なのだけれど、どうもSUVとミニバンしか選択肢がなくなるのは嫌で仕方ない。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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