新車試乗レポート
更新日:2025.02.22 / 掲載日:2025.02.22
道具感たっぷりのイタリア製ミニバンに大満足【フィアット ドブロ】【九島辰也】

文●九島辰也 写真●フィアット
1983年にリリースされたダッジ キャラバンとプリムス ボイジャーを起点とするミニバン。その使いやすさの良さに当時アメリカのマーケットでは“マジックワゴン”なんて呼ばれていました。発想の原点はベースボールママ。近所の子供達をダッジラムバンのショートボディに乗せて練習場に連れて行っていた主婦たちの意見から生まれたとも言われています。
そんなミニバンは80年代アメリカで大ヒットし、90年代になると日本へ飛び火しました。日産エルグランドやトヨタ エスティマ、マツダMPVなんてのがそれです。その頃“ミニバン”なのに小さくないと思った方は多いでしょう。この場合の“ミニ”はフルサイズバンに対して小さいという意味でした。
それじゃヨーロッパではどうかというと、ミニバンブームは日本のようにはなりませんでした。そもそも道が狭いヨーロッパの実情を鑑みると、そぐわないからです。なので、一般家庭では普及されず、空港やホテルの送迎用としてのニーズに応えました。メルセデス・ベンツVクラスやVWユーロワゴンなどがそれにあたります。
なんて背景からすると今回ステアリングを握ったフィアット ドブロは、珍しいヨーロッパ製ミニバンとなります。しかもグループを通して、プジョー リフター、シトロエン ベルランゴと三兄弟でラインナップされているのだから驚き。ヨーロッパにミニバンブーム到来!なんて錯覚しちゃいます。


これらのクルマが生まれた背景にはSUVブームの多様性があると考えられます。より多くの積載性を求める人向けにつくられました。なので、ご覧のようにデザインがミニバンぽくありません。ワイルドであり、アーバンテイストを取り入れた姿はまさにSUV的でしょう。いわゆるミニバンとはテイストが違います。
しかも、これらは多額の投資から生まれたモデルではないので、値段が抑えられます。元はコマーシャルビークル。つまり、商業車をベースにつくっています。ルノーカングーやVクラスと同じ。シンプルにいえば、すでにあったものの化粧直しといったところです。この価格は魅力です。

そんなドブロを三日間お借りしてテストドライブしました。SUVはともかく、普段ミニバンを借りることはないので、とても新鮮です。
試乗車はドブロ マキシ。3列シート7名乗車のモデルでした。ドブロには2つのボディタイプがありますが、長い方です。とはいえ、全長は4770mmしかありません。いまどきは5m近いクルマがザラにありますから、ロングボディでこれは得した気になります。さらにいえば、全幅1850mmに抑えられます。これは個人的に日々愛用しているW212型Eクラスと同じなので、とても運転しやすく感じました。この頃は全幅1900mmオーバーのクルマが多いですからね。このくらいだと楽です。ちなみに、ショートボディの全長は4405mmで定員は5名となります。

運転席に座った印象は、収納スペースの多さに驚きました。「これって日本車?」ってくらいあります。センターコンソールはもちろん、上下二段になるグローブボックス、ダッシュボード上、それに頭上にも。もしかしたら日本製ミニバンにインスパイアされたのかもしれませんね。
ですが走りはまるでフランス車。乗り心地は柔らかく快適です。それでいて速度を上げていくとその先にしっかりした安定感が顔を出します。このセッティングはさすが。コーナリング時もキャビンをフラットに保つので荷物が暴れることはないでしょう。兄弟車であるリフターやベルランゴとの共通性を感じます。もしかしたらフランス人はワインケースを運ぶためにこの乗り心地を完成させたのかもしれません。ワインに優しい乗り心地を求めたのかも。長く走っているとそんなことを感じました。

とはいえ、ネガティブさもあります。道路の繋ぎ目の強い入力に対しては大きな振動があります。一発で収めますが、少々強め。これはタイヤが関係しているのかもしれません。16インチということを考えればもっとタイヤが入力を吸収してもいいかと。最近はそれができるラグジュアリーSUV用タイヤなどが増えていますから、その辺に替えるといいかも。OEタイヤはちょっと硬めかな。
なんて感じで珍しくミニバンで走り回りました。結論は満足。デザイン、ボディカラー、ホイールデザインも悪くありません。これは相当趣味のクルマとして活躍してくれそうです。もしこのクルマが自宅のガレージにあったらどう使うか……なんて妄想するテストドライブでした。