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更新日:2023.05.17 / 掲載日:2023.05.12
空冷ワーゲンがどうしてこんなに魅力的なのか【九島辰也】
文と写真●九島辰也 取材協力●TOA International(トーアインターナショナル)
ザ・ビートルの生産終了から月日が経ちました。最後はあまり話題に上らなかった気がします。個人的には好きなクルマで、いつか本気で所有したいと考えていました。ギターメーカーフェンダーとのコラボモデルは本当にカッコよかった。もし音楽関係の仕事に従事していたら真っ先に飛びついたと思います。
三世代目となるザ・ビートルがカッコよく見えたのはそれまでとは違いマニッシュだったからでしょう。二代目がフェミニンでしたので、その反動ではないかと。デビュー時デザイナーをインタビューした時そんな話を口にしていました。きっと空冷ビートルの解釈を二代目とは別の角度から見直したのだと思います。可愛らしさがフューチャーされがちですが、魅力の要因はそれだけではなく、もっと多岐に渡ったのかもしれません。
今なぜそんな話をするかというと、先日友人が経営する空冷ワーゲン専門店に遊びに行ったからです。場所は三浦半島の南端。城ヶ島大橋の袂です。
金網に覆われたそこはまるでカリフォルニアにあるバックヤードビルダーのようでした。ハンティントンビーチにあるクラシックポルシェの専門店を思い出したほどです。あるんですよね、こういうの。椰子の木が植えてあったりして。めちゃめちゃカリフォルニアの匂いがします。LAのダウンタウンにもこんなスピードショップやボディショップが並んでいます。
そんな作りなのは、オーナーである友人がアメリカに精通しているから。若い頃はあちらで行われるドラッグレースにカスタムした空冷ワーゲンで参戦していました。何年もエントリーしていたんですから本気です。日本じゃマイナーなドラッグレースですが、カリフォルニアでは人気のモータースポーツなんです。昔そのスナップを見せてもらったことがありますが、かなり本格的でした。
そんな空冷ワーゲンに強いこだわりを持ったオーナーのショップだけにフツーとはちょっと違います。皆さんがイメージするカーショップだと売り物のクルマが何台か並んでいてそのフロントウィンドウに値札がついていますが、ここはそれだけではありません。完成車も数台展示されますが、一台一台オーダーを受けてベース車両から仕上げるのを得意とします。
そのメリットはというと、自分好みに仕上げられます。オリジナル重視のクラシックカーもそうですし、中身を現代化したハイテックにしたり、ハードウェアから日常使いのできる仕様にすることも可能です。もちろん、レーシングカーにすることも。いわゆるフルオーダー。英国的にいえば“ビスポーク”、イタリア風なら“スミズーラ”ですね。
さらにいえば、メインはビートルではなく、タイプ3だということも特徴。ノッチバック(2ドアセダン)やステーションワゴン、ファストバックといったさまざまなボディタイプを扱います。伺った時にはピックアップトラックまでありました。お見事! 個人的にもビートルよりタイプ3の方が好みなので、見ているだけでワクワクします。もしかしたら日本でこれだけタイプ3に絞っているショップは他にないかもですね。
オーナーの空冷ワーゲン愛の深さを知る術は他にもあります。2階オフィスの奥にあるスペースがそれで、大量のミニカーや新車時のカタログ、資料となる雑誌、当時の看板などが並びます。驚いたのはディファレンシャルギア部分のカットモデル。これはかつて本社で新人整備士の研修用に使われていたそうです。もはやミュージアム状態。ワーゲン本社のあるウォルフスブルクのアウトシュタット(ドイツ語で“自動車の街”の意味)のミュージアム館長に知らせたくなりました。きっと目が点になることでしょう。
ということで、今週は空冷ワーゲンを再考してみました。ワーゲンバスと呼ばれるタイプ2は高値維持ですが、タイプ3はそこまで高くなく手に入れられそうです。電動化の進む昨今ですが、今一度こんなクルマを愛車にするのは悪くないですよね。そういえば、その昔空冷ワーゲンの専門誌でかなりディープな取材を続けていたのを思い出しました。20年以上前。あの頃はもっとたくさん専門ショップがありましたっけ。バタバタうるさい空冷エンジンの音が懐かしいなぁ。