新車試乗レポート
更新日:2024.12.04 / 掲載日:2024.12.04
【G 580 with EQテクノロジー】電気になってもこいつはスーパー【九島辰也】

文●九島辰也 写真●ユニット・コンパス
世界中で人気のメルセデス・ベンツGクラス。通称ゲレンデヴァーゲンと呼ばれるこのクルマは日本でも人気で、ここ数年は新車の納期が遅れたこともあり、中古車マーケットが高騰した。ここにきてようやく落ち着いてきたが、一部モデルは高値をキープしている。ブームの前に所有していたことを思い出すと、もっと長く乗っていればと後悔してしまうほどだ。
4モーターを搭載する電気自動車版Gクラス

そんなGクラスに新種が登場した。メルセデスの電動化戦略に基づいて生まれたBEVのG 580 with EQテクノロジーである。EQGとならなかったのは名前が複雑になってきたからだ。EQS SUVあたりから少々おかしくなってきた。なので、今後はBEVに関しては“with EQテクノロジー”という扱いになると思われる。試乗したのはそのエディションワン。発売を記念してあらかじめオプション装備を多めに装着したモデルだ。
BEVのG580 with EQテクノロジーの見どころはプラットフォームに他ならない。他のEQシリーズが使うモノコックフレームではなく、通常のGクラス同様ラダーフレームが採用された。理由はオフロード性能やトーイングキャパシティに妥協を持たないためだが、これには苦労があったと思われる。フロアをフラットにしてバッテリーセルを効率よく並べられるモノコックとは違いラダー自体が障害物になるからだ。そこで開発陣はバッテリーセルから再設計し、それを効率良く並べることを計画、達成した。あまり汎用性のある技術開発ではないだけに、見事である。
ラダーフレームの次に注目したいのはモーターだ。なんとこいつは前後左右のタイヤを独立して制御かつ駆動させるため、それぞれのタイヤのデフに近い部分にモーターが取り付けられた。つまり、その数は4つ。スーパーカーに搭載される3モーターでも珍しいのに、このクルマはそれを上回った。
内燃機関モデルと同等以上のオフロード性能

これだけのモーターを用意した目的はプラットフォームの選択と同じでオフロード性能の維持と向上である。内燃機関では3つのデフとそれをロックさせる機構でオフロード性能を高めていたが、今回はそれとはまったく異なる方式で、同等いやそれ以上のパフォーマンスを再現しようと考えた。この辺の経緯はぜひ開発者に聞きたいところだが、その機会がないのは残念でならない。
電気自動車だから実現できた新機能を体験

よって、4つのモーターを手に入れたことで高いオフロード性能を手に入れたのだが、それと同時に新たな武器も手中に収めた。それが“Gターン”。“Gターン”は言うなればその場回転。左右のタイヤを逆回転させることで、ステアリングを切ることなく車両をターンさせることができる。オフロードでは道幅が狭くUターンすることがままならないシーンがあるため、有効手段となる。作動はスイッチを押して行うが、路面がフラットでステアリングを真っ直ぐにするのが条件。回転は左右を選ぶことができ、最大720度回転する。これを実際にオフロードで試したが、実にユニークだった。路面状況で多少タイヤが滑るため真円にはならないが、ほぼその場回転した。いやはやお見事。操作はもちろんオフロード限定。アスファルトの上でやったらあっという間にタイヤの溝が無くなる。
もうひとつ“Gステアリング”というのもある。これはコーナー内側の後輪にブレーキをかけ、回転半径を極端に小さくする技だ。これも有意義。こちらもリアルに試したが、まさに急角度でターンしてくれる。レクサスLXのターンアシスト機能と同じだ。これ以外にも低速クルーズコントロールやトランスペアレントボンネットなどオフロード用の装備はかなり充実している。BEVになってもオフロード性能を落とさないというのが今回のテーマのようだ。それにローレンジモードがあることを忘れてはならない。各車輪のモーターにそれぞれ2速のトランスミッションが装備され、減速比を2:1にすることでトルクを高めている。




それじゃオンロードでの一般走行はというと、こちらは快適さが際立った。ドライブモードを“コンフォート”にしておけば文字通り終始快適な走りを提供してくれる。乗り心地も内燃機関車よりいいかもしれない。時として “スポーツ”を使うのもいいだろう。それと“インディビジュアル”があり、オフロード用に“トレイル”と“ロック”がある。ちなみにタイヤサイズは275/50R20だった。



電気Gクラスは、ある意味でスーパーカー
というのがBEVになったGクラス。グレードはひとつでステアリングは左右から選べる。スーパーカーを含めいろんなクルマに乗ってきた方にはおもしろい選択肢かもしれない。知れば知るほど、こいつもある意味スーパーカーである。