新車試乗レポート
更新日:2024.08.05 / 掲載日:2024.08.05
エンジンの咆哮と小鳥の囀りと【マクラーレン アルトゥーラ スパイダー】

文●石井昌道 写真●マクラーレン
2010年にマクラーレン・オートモティブが設立されてから約10年が経ち、まったく新しいHPH(ハイパフォーマンス・ハイブリッド)のスーパーカーを開発。その第一弾がアルトゥーラで、モノコックやパワートレーンなどすべてが新規開発され、これからのマクラーレンの中核をなすモデルとなる。クーペは2021年に登場しているが、今年になってオープントップのスパイダーが加わり、早くも日本上陸を果たした。
高性能ハイブリッドカーにオープンモデルが登場

そのアルトゥーラ・スパイダーに夏真っ盛りで東京は30度台後半の猛暑が続くなか、爽やかな気候の岩手県・安比高原で試乗。オープンエアドライブを堪能するには理想的な場所なのだが、天気はあいにく荒れ模様でスタートするときにはどしゃ降りとなってしまった。
スーパースポーツの太いタイヤとハイブリッドスポーツかつスパイダーとしては異例に軽い車両重量の組み合わせは耐ハイドロプレーニングとして最悪なので慎重に走り始めたが、マクラーレンの常で視界やドライビングポジションなど運転環境がすこぶる良好なのが救い。水がたまっている路面を避けながらワインディングロードを走らせていると、ウエット路面に対してサスペンションがしなやかで追従性が良く、タイヤもしっかりとグリップしている濃厚な接地感が得られて自信を持たせてくれる。

カーボンモノコックによってボディ剛性がすさまじく高く、それによってサスペンションがきちんと動くのはもちろんのこと、プロアクティブ・ダンピング・コントロールが路面状況に応じて減衰力を適切にコントロールしていることも効いている。スパイダーの登場とともにクーペも含めてソフトウエアのアップデートがなされているが、ダンピングの応答速度は最大90%も向上しているのだ。
エレクトリックモードではモーターだけで走行

街中に移ってからはエレクトリックモードを試してみる。ほとんど無音かと思いきやアクセルを踏み込んでいくとヒューンという電気的なサウンドがわずかに聞こえてくる。自然な加速感として適度な音質・音量だろう。電気モーターの最高出力は95PSに過ぎないので速くはないが、街中から郊外路程度までは普通に走れる。
高速道路に足を踏み入れて100km/h程度まで速度をあげると加速が鈍くなってきたのでハイブリッドとなるコンフォートモードに切り替えた。背後で目覚めたV6エンジンは、精緻でこの上なくスムーズに回転するというのが第一印象。
V6のバンク角といえば90度が一般的だが、アルトゥーラのそれは、あえて120度とされている。幅が広く搭載性が悪くなるので敬遠されがちなのだが、120度は等間隔点火がなされるので完全バランスとなるのが大いなるメリットなのだ。




しばらく走っていたら進行方向の空が明るくなり、ラッキーなことに雨があがった。アルトゥーラ・スパイダーのルーフは、50km/h以下ならば11秒で開閉が可能だが、さすがに高速道路を走行中は無理なのでパーキングエリアに飛び込んでオープンへ。この辺りはそもそも雨が降っていなかったのか、路面もドライになっていよいよスパイダーを堪能することになる。
本線への合流でアクセルを踏み込んでいくと、ルーフを開けたことによってサウンドが直に耳に届くようになる。スーパースポーツとしては音量は控えめだが、乾いた音質で官能性は十分。加速は、電気モーターによってトルクの落ち込む回転域などがなく、フラットにグイグイと速度をのせていく。
700馬力をもてあまさない脅威的なシャシー能力

しばらく高速クルージングを味わった後は、せっかく晴れたのだから再びワインディングロードへ。電気モーターがエンジンのアシスト役となるスポーツモードに切り替えてコーナーの連続を堪能した。
アップデートによってシフトスピードは従来比で25%早くなったというが、スポーツモードでは心地良いショックとともに電光石火でシフトアップしていく。ウエットでも感じた濃厚な接地感はドライでも健在で、路面が荒れていてもビタビタにタイヤを押しつけている。
ステアリング操作に対する反応も正確無比で、これ以上ない一体感だ。コーナーを攻めた走りでもサスペンションはあいかわらずしなやかで大きなギャップなどがあっても挙動が安定している。アップデートによって従来の605PSから700PSとなってもまったく持て余すことはない。しなやかだからといってソフトすぎることはまったくなく、常にシャキッとしていてスポーティだ。快適性とのバランスが凄まじく高いのは、さすがは新規開発されたモノコックゆえだろう。
オープン化によるネガティブは感じられなかった

スパイダー化に伴うデメリットを感じることは、少なくとも公道では皆無だった。カーボンモノコックはルーフを剛体としていないので、剛性感が劣ることはなく、重量増はわずか62kgなので体感できるほどではない。
スポーツモードで走り続けるとエンジンが常に稼働しているのでバッテリーの電力が増えてきた。そこで最後はクルマもドライバーもクールダウンするべくEモードに切り替えると、木々が風に揺れる音や鳥の鳴き声までもが聞こえてきた。
新世代のHPH(ハイパフォーマンス・ハイブリッド)にオープンエアドライブの組み合わせは新鮮な体験をもたらしてくれるのだ。