新車試乗レポート
更新日:2024.02.26 / 掲載日:2024.02.26

マイカー利用も可能な軽自動車登録の電気配送車【ASF 2.0】

文●工藤貴宏 写真●内藤敬仁、澤田和久

 このクルマはなんだろう?

 家の近所で見慣れないクルマとすれ違ったのは少し前のこと。ドラッグストア「マツモトキヨシ(マツキヨココカラ)」の配達車両と思われるそのクルマは、軽自動車のワンボックス商用バンのように見えたものの、どのメーカーのなんという車種なのかまったく不明。筆者はそれなりにクルマに詳しいと思っていますが、どれだけ記憶をフル回転させて辿って考えても見たことのないクルマだったのです。

 そしてある日「ASF」という会社の「ASF2.0」というクルマに試乗することに。そんなブランド知らないなあ……と思いながらも試乗場所を訪れ、そのクルマを見てびっくり。あの時すれ違ったマツモトキヨシの配達車じゃないですか。これがASFなのか? 気になっていたクルマに再び対面できる日が来るなんて!

日本企業と中国メーカーがコラボした商用BEV

AFS2.0

 というわけでこの「ASF2.0」は、ひとことでいえば「ASFという日本の会社が企画して中国の会社に生産を委託した、軽自動車サイズの商用バンEV」。恥ずかしながら筆者はよく知りませんでしたが。

 知らなかった理由はおそらく3つ。ひとつは大手自動車メーカーの車両ではないから。ふたつめは納車が始まったのも2023年4月とまだ新しいから。そして3つめは、乗用車仕様はなく、主に配達などの業務車両として販売されているじゃないでしょうかね。どれも言い訳ですが……。

 というわけで車両についてもう少しお伝えしておこう。まず「ASF」がどんな会社かといえば……クルマ好きならその名を聞いてきっと思い浮かべるであろうアウディの車体構造(ASF=アウディ・スペース・フレーム)はまったく関係なし。日本の規格にあわせたオリジナルのEV(電気自動車)をゼロから作って普及させることを目的としたベンチャー企業で、ASFとは「アンド・スマート・フュチャー」とのこと。クルマの規格や開発にはじまり、製造委託、メンテナンスやリース、保険、そしてバッテリーの再利用などEVの普及をトータルでサポートする会社なのだという。なるほど。

 主要株主は大手総合商社の双日をはじめ、コスモ石油マーケティング、オリエントコープレーション、JA三井リース、そしてオートバックスセブン(カー用品量販店のオートバックスを運営する会社)など錚々たる顔ぶれ。自動車メーカーじゃないのにどうしてオリジナルなクルマを生み出せるのかといえばそこがポイントで、上汽通用五菱汽車という中国の自動車メーカーに車両開発と生産を任せているから。いわゆるファブレス企業(自前で生産設備を持たずに外注先に製造委託するメーカー)ですね。クルマだと珍しいですが、家電業界ではよくある話です。トースターとかスマホで話題の「バルミューダ」とか。

ところで、「宏光MINI EV」というクルマを知っていますか? 少し前に中国で爆発的にヒットし、現地で最も売れている電気自動車として君臨したミニサイズの激安EVですが、実はそれも上汽通用五菱汽車のクルマ。「五菱(ウーリン)」というブランドを展開している上汽通用五菱汽車は日本ではほぼ知られていない会社。なのですが、現地ではしっかり存在感のある会社なのです。

 同社は2009年には中国ではじめて年間100万台を生産した中国メーカーとなった会社で、実はゼネラルモータース(GM)をはじめとする3社による合弁会社。そんな背景もあり、GMブランド向けの車両開発や生産も担っていて、一部モデルは中東や北アフリカ、東南アジアなどへ輸出されて「シボレー」として販売しているんです。たとえばかつて日本でも一時期販売していた「シボレー・キャプティバ」の現行世代は同社が開発・生産を担当。中国生産のシボレーブランドで各地へと輸出されていると聞けば、輸入車事情に詳しい人でも驚くのではないでしょうか。つまりASF2.0は日本企業の企画により中国で委託生産され、日本へ輸入される電気自動車というわけです。

軽自動車サイズに配送車ならではの使い勝手を盛り込む

 そんなASF2.0の開発の背景にあるのは佐川急便やマツキヨココカラで配達を担う小型車両のEV化。佐川急便の配達車両のうち約6000台(4WDがないので非降雪地域が中心)をEVに置き換える話も背景にあって、スタートしたプロジェクトなのだとか。

 車体が軽自動車サイズなのも、企画したのが日本企業だから。車体を見ると全長と全幅は軽自動車の基準を満たしつつも、一般的な軽バンと比べると天井は高め。これはもちろんたくさんの荷物を積むことを考えているからです。家庭やオフィスへのデリバリーは、それほど重くない荷物が中心。だけど昨今はネット通販などで大きめの箱が使われることも多いから、荷室の広さは重要なポイント。

 ちなみに車体はウーリンの車種と共通というわけではなく、現時点では日本向けのオリジナル。だから日本独自の規格である軽自動車サイズに作れたというわけです。

 荷室のフロアはフラットで荷室長は約1.7m。たとえばビールケースなら33個、みかん箱なら68個積めるスペース。天井を見ると大きな室内灯が5個も組み込まれていたり、運転席&助手席の頭上に大きな“棚”が組み込まれているのも、佐川急便から現場の声として採用された装備なのだとか。床下に引き出しを兼ねた台車収納スペースがあるのも便利。商用の軽バンにもかかわらずキーレスエントリーや電動格納式ドアミラーが備わっているのも贅沢、というか気が利いていますね。運行管理のための車載通信端末も組み込まれています。

 気になるEVとしての走行性能は、30kWhのバッテリーを搭載して1充電の航続可能距離はメーカー計測値で209km(WLTCモードでの計測値は243km)。実はこれ、いま購入できる軽自動車の商用バンとしては最長を誇るもの。街中での配送業務はそれほど多い距離を走るわけではないとはいえ、やはりバッテリー切れは心配。そういう面でも、業務車両としての使いやすさを考えているのでしょう。充電は普通充電(6kWで空の状態から6~7時間)のほか、CHAdeMO規格の急速充電にも対応します。

 運転席に座るとワンボックス(キャブオーバーモデル)独特の運転姿勢などは想定内ですが、ウインカーレバーが日本車と同じように右側についていたのは驚きました。日本向け開発だから当然と言えば当然だけど、普通の輸入車は左側のままでここまで作り込んでないですからねぇ。運転操作自体は国産車と同じで、特に輸入車を感じさせる部分はありません。

 運転感覚は、いわば商用車の感覚。EVだから静かだしスムーズな発進加速をみせてくれるもの、路面の凹凸を拾いがちない乗り心地や旋回中の車体の挙動などは軽バンそのもの。だから、乗用車のように快適に使おうという人にはすこし違うかもです。いっぽうで近場を移動するための電気自動車で広い荷室が欲しいというなら、メリットのある選択肢となるでしょうね。

個人ユーザーもリース契約できる

 生まれた背景もあって業務車両としてのフリート販売が中心だけど、もし個人で使いたいという人にはコスモのマイカーリースとして用意。契約や納車だけでなくメンテナンスも近所のコスモ石油で可能なのが何かと忙しい自営業者にとって便利そうじゃないですか。

 税金や整備&車検にフルメンテナンスも含めた契約期間72カ月(月あたりの走行距離1000km)の場合、補助金を含めて計算すると自家用車の場合は月あたり3万9380円(税込み)。さらに補助金が多い事業用車(黒ナンバー登録)だと2万9260円となる。地域によってはさらに補助金が上乗せされて、東京都の場合は自家用車扱いで月々3万3220円。事業用車だと2万2990円とかなり安い。もしも東京で宅配の仕事を始めるのなら、かなりリーズナブルな選択となることは断言できます。

 お米屋さんや酒屋さん、そして花屋さんの配達車両にもいかがですか?

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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