新車試乗レポート
更新日:2023.03.29 / 掲載日:2023.03.28

【アクア ヤリスクロス/GRスポーツ】人気モデルに加わった「スポーツ」という個性

文と写真●ユニット・コンパス

 トヨタのスポーツブランドであるGRから「アクア GRスポーツ」と「ヤリスクロス GRスポーツ」に試乗できる機会が与えられた。ベースモデルの人気が高いだけに、どんな仕上がりなのか気になっていた方も多いだろう。

人気のコンパクトモデルに「GRスポーツ」という個性が加わった

アクア GRスポーツ(左)とアクア(右)

 「もっといいクルマ」活動に力を入れているトヨタにとって、GRはいまや欠かせない存在になりつつある。というのも、GRが走る実験室としてモータースポーツでノウハウを獲得、それを市販車の開発に取り入れるという流れができているからだ。勝負に勝つために、速くて壊れないクルマを作り、そこで得られた知見を市販車づくりに還元する。そういう循環だ。

 さらにGRは市販車も手がけている。頂点に立つのがGRMNという台数限定の超高性能モデル。その次に、スープラや86といったGR専用車がレギュラーモデルとして並ぶ。では今回試乗する「GRスポーツ」とは?

 答えは、メジャーな市販車をベースにした、多くの人たちが気軽に購入できるカジュアルなスポーティグレードという位置付けだ。ノーマルモデルの上に立つのではなく、キャラクターの異なるひとつのグレードという考え方だそうだ。

「いい人」だったアクアがGRスポーツで“チョイワル”に

アクア GRスポーツ

 まずはアクア GRスポーツから紹介しよう。

 ベースとなったアクアがフルモデルチェンジしたのは2021年7月のこと。初代は世界で187万台を販売した大ヒットモデルだけに、新型は全方位で成長を感じさせる仕上がりとなっている。初代から乗り換えたユーザーが「いいクルマになったなぁ」と素直につぶやいてしまうような新型なのだが、一方で初代が備えていたコンパクトカーらしいキビキビ感が若干失われたのも事実。実際ユーザーからも、GRスポーツ登場を期待する声が多かったという。

 GRスポーツのベースとなっているのは「G」グレード。専用エクステリアによって雰囲気はガラッと変わっている。シャープで機能性を追求したイメージだ。フロントバンパーの開口部はGRに共通するデザインで、ファンならひと目でGRスポーツだと見抜くだろう。

 比較試乗した「Z」グレードとの価格差は19万5000円。ベースとなった「G」とは34万7000円〜35万6000円の価格差。デザインの違いに加えて、専用剛性アップパーツ、専用チューニングサスペンション、専用電動パワーステアリング制御が投入されている。価格差も抑えられているし、パワステの再セッティングのように自動車メーカーでしかできないプログラムが採用されているところに価値がある。

アクア GRスポーツ。パネルの塗装や表皮素材の変更で、運転に集中しやすいスポーティな空間を演出している

 インテリアも黒基調シルバー加飾でまとめられていて、ステアリングは専用の3本スポーク。GRロゴのついたこれもおなじみのアイテム。GR開発チームこだわりの形状で非常に扱いやすい。シートは表皮がヌバックと合成皮革のコンビネーションに変更されていた。

比較で試乗したアクア Z オプション装着車。上質さをねらった素材選びがなされている

 まずはノーマルを試乗する。アクアの魅力はコンパクトでありながら上質なこと。試乗を行ったエリアは富士スピードウェイ周辺ということもあって、アップダウンとカーブがほどよく登場するスピードレンジもまぁまぁ高めな道。そこを地元ドライバーと同じペースで走ったのだが、路面のうねりや荒れを上手にいなしてくれるので、ドライバーは揺れも少なく快適に走ることができた。

 ノーマル車のシート表皮はなめらかな仕立ての合成皮革が使われていて、小さいけれども品のいいクルマに乗っている気分にさせてくれる。すべての手応えや質感がそうした方向性でまとめられているのも印象的だった。

 続いてアクア GRスポーツに乗り換える。シャープなデザインの顔つきはなかなか変化が大きく、これは所有欲をくすぐるだろう。シートに腰かけて走り出すと、まずステアリングの違いが気に入った。専用ステアリングは手に吸い付くようで、ノーマルに比べてより運転しているという意識が高くなる。

 先ほどと同じコースを走ると、確かにスポーティ。クルマの動きに一体感がある。シートが滑りにくい素材になっているのもいい。身体が揺すられにくいからだ。これも一体感のある走りに貢献している。タイヤはブリヂストンのポテンザ RE050Aが装着される。言わずと知れたプレミアム系スポーティタイヤだ。これをチョイスしたところにエンジニアたちのねらいが見て取れる。つまり、ノーマルに対してスポーティさを際立たせつつも、コンフォート性能はできるかぎり確保したいという考え方だ。ドライブモードを「POWER+」に変更すると、ステアリングの手ごたえがしっかりした。このときの力強さと操っている感覚の強さは、初代アクアの走りが好きだった人たちにも喜ばれるに違いない。

 ステアリング操作に対するクルマの動きに遅れがすくなく、意のままに操れる感覚があるアクア GRスポーツだが、あくまでも「ノーマルに比べてスポーティ」という範疇に収められているのも大人っぽくて好印象。運転に気をつければ、助手席からクレームが来ることもないだろう。

アクア GRスポーツ

見た目以上に中身が凄いヤリスクロス GRスポーツ

ヤリスクロス GRスポーツ

 続いてヤリスクロス GRスポーツについて紹介しよう。

 TNGA世代になったトヨタ製コンパクトのなかでも、運転する楽しさという部分で突出しているヤリスシリーズ。ヤリスクロスは、ルックスどおりSUVライクな使い勝手のよさが人気を集めているモデル。では、そのスポーティバージョンとは?

 エクステリアの変更点はアクアに比べると若干大人しい。ノーマルを生かしながら、グリルやフォグベゼルといった細部が専用部品になる程度だ。ルックス的には軽やかな専用デザインの18インチホイールの影響が大きいだろう。

 インテリアの変更点は、専用ステアリングを中心にアルミペダルや専用表皮のスポーティフロントシートといったところ。ベースになっているのはアクアと同じく「G」グレードだが、比較した「Z」グレードがダッシュボードの色をツートンカラーにして楽しさと華やかさを演出するのに対して、GRスポーツは黒一色でシックだ。価格は275万円(ハイブリッド車)で、「G」との価格差は36万5000円。比較した「Z」との価格差は14万4000円になる。

ヤリスクロス GRスポーツのインテリア。すべりにくく、スポーティな印象のエアヌバックが各所に効果的に使われている
ヤリスクロス Zのインテリア。SUVテイストのカジュアルな色と素材
サポート性に優れる専用スポーティフロントシート

 まずはノーマルのヤリスクロス Zを走らせる。ひさしぶりにステアリングを握ったヤリスクロスだったが、これがなんとも痛快で良くできたコンパクトカーだった。

 なにしろクルマの動きが軽やかで、気分まで軽く、アクティブな心持ちになる。アクアがレザー素材のスニーカーだとしたら、ヤリスクロスはジョギングシューズのよう。それでいてスピードが上がっても視界があまり揺すられないのは最新トヨタ車のいいところ。売れているのも納得の完成度だ。

 ではそれをスポーティに仕立てたGRスポーツはどうだったのか。

 結論から言えば、めちゃめちゃおもしろいコンパクトカーになっていた。まず、コンパクトカーの魅力である、軽快感、機敏さがワンランクアップしている。そして、クルマとの一体感が高く、操作に対するクルマの反応が正確なので、より自信を持って運転できる。これはぜひ、オトナのクルマ好きにも試してもらいたい。欧州製コンパクトカーみたいなキレのいい走りはクセになりそうだ。

 タイヤはファルケン FK510が装着される。小まわり性能を犠牲にしないために、タイヤサイズはノーマルと変えられないという制約のなかで、目指すべきスポーティな走りを実現するためにチョイスした銘柄だ。このタイヤがサスペンションの味付けとマッチしていて、非常に良い仕事をしていると感じた。

 じつはヤリスクロス GRスポーツの見どころは目に見えないところに集中している。

 資料によると、剛性アップパーツや専用サスペンション、電動パワーステアリング制御の再調整に加えて、モーターの過渡特性を最適化することでアクセルに対するレスポンスをアップさせているという。これはGRスポーツとしては初の試みだ。それを受け止めるために、ハイブリッド車はドライブシャフトまで強化型を装着するという。見た目に反してかなり気合の入った内容だ。

 GRスポーツで果たしてここまでやる必要があったのか? 試乗後に開発エンジニアと話をするチャンスがあったが、今回のアクアとヤリスクロスについてはGR側としてもチャレンジの側面があったと教えてくれた。メーカーの立場として、GRとして何が出来て何をやるべきなのかを話し合った。その結果、アフターマーケットでカバーできる要素はアフターマーケットに任せ、メーカーにしかできない領域を作り込むべきだという結論にたどり着いたのだという。

GRの聖地である富士スピードウェイを背景に

まとめ

 安心、安全を確保したうえで、どれだけクルマ好きのドライバーを納得させられるか。今回試乗したアクアとヤリスクロスのGRスポーツには、エンジニアたちの職人的こだわりを強く感じた。ベースグレードに比べたら価格差はあるが、これを購入後自分自身でカスタマイズしたらこの金額では決して収まらない。ここをスタート地点に、さらに自分らしい1台を作り上げていくのも楽しいカーライフだろう。

 だが、GRにはさらなる期待を込めて注文を投げかけたい。スープラや86といったスポーツカーとは別に、ノーマルモデルをベースにしたGR流のこだわりが詰まった上位モデルを手掛けてもらいたいのだ。コストパフォーマンスに優れた良心的商品だけでは、人々の心は掴めない。憧れになるようなモデルがあってこそ、裾野であるGRスポーツもまた広がるはずだ。

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グーネットマガジン編集部

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1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
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また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
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