新車試乗レポート
更新日:2022.07.29 / 掲載日:2022.07.29

【試乗レポート BMW 2シリーズクーペ】走りを、BMWを愛するドライバーへ

文●大音安弘 写真●ユニット・コンパス

 最新のBMWは、大きくふたつに分けることが出来る。コンパクトクラスを担う1シリーズと2シリーズ。そして、ミッドサイズ以上モデルとなる3シリーズ以上だ。その最大の違いは、前者がFFベースであるのに対して、後者はBMW伝統のFRベースであることだ。コンパクトなボディを最大限活かすべく、1シリーズと2シリーズをFF化したことは、室内広さやラゲッジスペースには有利。特に後席のゆとりが増すため、実にクレバーな選択だといえる。しかし、その定義に反するコンパクトクラスの異端児が、今回の主役、2シリーズクーペだ。4ドアクーペの「2シリーズグランクーペ」がFFベースに対して、なんと先代同様に、FRレイアウトを踏襲している。

2シリーズのなかでもクーペは特別な存在

 なぜ他の2シリーズが共有化を図らなかったのだろうか。それは高級車の中でも、コンパクトなFRモデルは貴重であり、その存在自体がプレミアムであることを意味する。そして、BMWの持ち味である優れた前後バランスと後輪駆動を基本とした走りの良さを出来るだけライトウェイトで楽しんで欲しいという願いも込められているのだろう。ただ最大の狙いは、次世代M2の開発ためだ。現在のMラインは、バランス重視の「Mパフォーマンスモデル」と、サーキットユースの生粋のMである「Mハイパフォーマンスモデル」に分かれているが、現在まで「Mハイパフォーマンスモデル」は、FFベース車は存在しない。それを裏付けるように、今年10月、新型M2のワールドプレミアが予告されている。こちらの導入も今から楽しみだ。

 今回、試乗したのは、新型2シリーズクーペのMパフォーマンスモデル「M240i Xdrive」だ。先代よりも一回り程サイズアップされ、全長4.5m越え、全幅1.8m越えとなってしまったが、それでも現行3シリーズよりずっとコンパクト。最大の違いは、FRから4WD化されたことだ。このため、車両重量も150㎏増となっている。現在のBMWラインアップは、高出力モデルは、4WDが基本となっているため、この点は仕方ないところ。但し、主力となる直4モデルは、FRのまま。車重も40kg増に留められているのは、朗報だろう。

新しくも古典的なスポーツカーのデザイン文脈を踏襲

 まずはデザインを見ていこう。コンパクトなキドニーグリルとシャープなヘッドライトのフロントマスクは、なかなかクール。ボディスタイルも古典的なロングノーズショートデッキに仕上げられており、伝説の名車「2002」とイメージが重なる。つまり、古いBMWファンにも受け入れやすいスタイリングに纏められている。特にベース車の前後バンパー形状はすっきりとしたものなので、正統派クーペの愛好者にもおススメしやすい。各部には最新BMWデザインがちりばめられているが、全体的にはオールドファッション。ただそこがこのクルマの魅力だと思う。

クーペであっても室内は実用的

 インテリアは、他の現行BMWと近いデザインで、ダッシュボードを低く配置した前方視界を重視したもの。日本仕様の場合、メーターパネルは全車デジタル仕様のみとなる。シートは、がっちりとホールドしてくれるスポーツシートが全車標準に。後席は2名乗車仕様となるが、意外と実用的に仕上げられているので、時々後部に人を乗せる機会がある人でも困ることはないだろう。

伝統の直6エンジンはやはり魅力的だ

 試乗車である「M240i xDrive」は、3.0L直列6気筒DOHCターボを搭載。その実力は、最高出力387ps、最大トルク500Nmとパワフル。でもドライバーを一番歓喜させるのは、伝統の直6のフィールとサウンドだ。飛ばさずとも、BMWにドライブしているという気持ちの高ぶりを与えてくれる。Mスポーツサスペンションの感触はしっかりとしたものだが、硬さによる不快さもないので、ロングドライブでも疲れにくいはず。操作系統の最大の違いは、最新のMスポーツ及びMモデルに採用されるステアリングだ。それはベース車よりも肉厚なものとなっており、握るというよりは掴む感覚。他モデルも同様なので、その操作感には、だいぶ慣れてきたものの、やはり昔の細身のステアリングが懐かしい。欧米人よりも手が小さい日本人には、ベース車のステアリングの方がしっくりと来るだろう。高速でのスタビリティの良さなど4WD化で、さらに先代よりハイパワー車のスリリングな動きは抑制され、運転が楽になった。ただ4WD化の影響か、交差点や緩いカーブをアクセルオフで抜ける際、ちょっと引っかかるような動きを見せるようになった。そのタイミングだけは、従来型のFRがちょっと恋しくなる。ぜひ次なる機会は、FRの4気筒を試してみたい。ただ全般的にM240i xDriveは好印象であり、今回、ロングドライブやワインディングに連れ出せなかったのが、残念に思えたほどだ。

まとめ

 BMWの革新の象徴のひとつであるコンパクトクラスの中で、往年のBMWらしさを強く受け継ぐ、2シリーズクーペ。今回は、直4モデルには乗れていないが、M240i xDriveの良さを考えると、FR車としての魅力は十分だろう。確かにエントリーグレードで500万円越えと安くはないが、BMW好きを十分納得させる価値を持つ。それでも318iよりも安いことをお忘れなく。1シリーズもFF化された今、いつまでコンパクトクラスのFRが継承されるかは不明だが、敢えて2シリーズクーペをFRで残したことは、マーケティング戦略というよりも、よりBMWらしいモデルを残したかったからではないかと勘ぐってしまう。きっと、このクルマはBMWからの長年のファンに向けての最後の贈り物かもしれない。特にM240i xDriveに目を向ける人は、きっと予算に余裕があり、3シリーズやより上位の4シリーズも気になるはず。上位モデルだけに、コンフォート性能を含めた総合力は高い。しかし、走ってナンボのBMW。2シリーズのコンパクトさは、走りの面でも大きな魅力となる。ぜひ2シリーズを飛び越えず、試してから決断を下して欲しい。積載性などの実用性は、3シリーズ以上の上級車には負ける。ただBMWらしさについては、負けていない。いやそれ以上だ。だからこそBMWを愛する人に乗って欲しい。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ