新車試乗レポート
更新日:2022.07.12 / 掲載日:2022.07.12

【試乗レポート 日産 サクラ】軽自動車のEVはゲームチェンジャーになりえる存在

文●工藤貴宏 写真●ユニット・コンパス

 これは軽自動車の概念を変えるゲームチェンジャーになりえる。話題の日産サクラに乗ってそんなことを感じました。

日産初の量産軽自動車EV

 サクラは日産としてはじめての量産軽自動車EV(電気自動車)で、車体などのベースはガソリンエンジンを積んだ軽自動車の「デイズ」。そんな知識を持って実車に接したのですが、はっきりいってクルマとしては全然違います。まず見た目にデイズの面影はまったくなく、サクラ専用のデザインになっているのです。

 日産としては「デイズの派生モデルではなく、日産のEVシリーズの1台としてとらえて欲しい」とのこと。確かに言われてみればスタイリングは先日登場したばかりのSUVがた電気自動車「アリア」と共通のテイストを感じさせますね。どことなく先進的です。

インテリアもベースになったデイズとは別モノ

 インテリアもデイズとは異なるオリジナル。ダッシュボードはもちろん、ドアトリム(ドアの内張り)まで専用で作られているのだからびっくりですよ。ここまで違うとは…!

 室内に乗り込んで実感した美点は、インテリアの質感が高いこと。はっきりいって軽自動車とは思えない上質な雰囲気です。それからシートの座り心地がいいこと。開発者によると「フロントシートに関しては(デイズに対して)表皮が異なるだけ」とのことですが、その表皮の違いによる絶妙な柔らかさが座り心地をよくしているのでしょう。

 ちなみにリヤシートはデイズと床の高さは同じながら、座面の前端が高くなって床との高低差が増しています。これによって着座姿勢が最適化されたのも見逃せないポイント。居住性がよくなっています。理由はバッテリー積載のためかと思ったらそうではなく、着座姿勢のための変更なのだとか。

 それにしても、パッケージングはよくできていますね。EV化したからといってガソリン車に対して居住スペースの犠牲がなく、空間として異なるのは荷室の床下スペースのみ(ガソリンFF車と比べると荷室床下収納が狭く4WD車と同等)。秀逸な設計です。

 さて、そんなサクラのEVとしてのスペックを確認しておくと、一般的な家庭用の普通充電器(2.9kW)での充電時間はバッテリーがからの状態から満充電までで約8時間。自宅に帰ったら、寝ている間に充電が完了するというわけです。

 いっぽうで急速充電気を使うと約40分で満充電できますが、電力受け入れ能力の都合上大型EVに比べると充電速度は抑えめ。急速充電は従量ではなく時間課金制だから外出先での急速充電器利用は普通充電よりもコストパフォーマンスが悪くなるのでオススメしません。サクラは自宅で充電できる環境があるユーザーとのマッチングがいいでしょう。

 航続距離は「WLTCモード」と呼ばれるカタログ記載の燃費を計測する走行基準で180キロ。はっきりいって遠乗りは難しいですが、日常生活ならこれでカバーできます。家で充電して、街乗りなど近距離移動に活用する。それがサクラのベストな使い方ですね。

軽自動車の常識を覆す力強い走り

 そんなサクラ、控えめに言っても走りはスゴい。ポイントはふたつ。ひとつは加速がスムーズで力強いこと。一般的な軽自動車(自然吸気エンジン搭載車)は“ちょっと力が足りないかな”と思う状況があるのですが、サクラにはそれがないのです。

 とにかく走りが力強い。急な上り坂もストレスなくグングン登っていくのです。「これは本当に軽自動車?」というほどの感覚で、これこそが「軽自動車の概念を変えるゲームチェンジャー」と思った最大の理由。加速の際にブーン!とエンジン音が大きくなり、エンジンが頑張っている…って感じは全くないのです(そもそもエンジンを積んでいないのですが)。むしろ涼しい顔して余裕綽綽。

 理由は、モーターが発生するトルクにありました。トルクとはエンジンやモーターが瞬時に発生できる力強さですが、サクラのその値は195Nm。数字だけをみてもピンと来ないかもしれませんが、何を隠そうこの値はターボエンジンを積んだ軽自動車の約2倍に相当し、自然吸気ガソリンエンジンでいえば排気量2.0Lと同等のレベル。そんな力をもって軽自動車を走らせるのですから、発進加速が力強くて峠道もスイスイ登っていきます。こんな感覚、今までの軽自動車ではちょっとありえませえんでした。

 また加速のスムーズさもさすが。普通の軽自動車と比べると、ディーゼル機関車からリニアモーターカーに乗り換えたくらい違う。そこまで滑らかなんです。一度味わうと、もう普通の軽自動車には戻れない身体になってしまうから気を付けないといけませんけどね(笑)

 もうひとつ美点だと感じたのは、ハンドリングの良さ。理由としてガソリン車に対して強化された車体で剛性がしっかりしているのもあります。しかしそれだけではなく、バッテリー搭載による低重心化、そして操縦性を大きく左右する前後重量配分はフロント45:リヤ55ほどとまるでスポーツカーのようなバランスなのです。交差点などでスッと曲がり始めることに驚きましたが、そんな前後重量配分を聞いて納得ですよ。

 サクラは、ハンドリングでもいままでの軽乗用車とはレベルが違うことを実感しました。

まとめ

 というわけで結論。

 サクラはどんな人にお勧めか。それはもう、充電環境がある一戸建てで複数台所有の家庭のセカンドカーに最適です。郊外では、1人に1台のクルマがないと生活しにくかったりとセカンドカーとして軽自動車を所有する家庭も多いですよね。そんな環境なら遠くへドライブに出かけるときは「セレナ」や「エクストレイル」などほかのクルマ。いっぽうで近距離はサクラとすればベストな組み合わせ。近年ガソリンスタンドが減っていますが、サクラならガソリンスタンドに行く必要もありません。

 いっぽうで、自宅に充電設備がなかったり、電気自動車でも頻繁に遠出するので急速充電に頼ろうとする人にはあまりお勧めできないのが正直なところ。充電速度の問題や、そもそも航続距離の短さから急速充電の利用を前提とした電気自動車生活には適さないからです。そこだけはしっかり押さえてくべきでしょう。

 いずれにしろ、モーターならではの快適で力強い走りは、軽自動車のゲームチェンジャーになりえる存在。2台持ちなどで毎日の近距離移動の足となる軽自動車を求めているのなら、サクラほど適したクルマはないでしょう。断言できます。

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工藤貴宏(くどう たかひろ)

ライタープロフィール

工藤貴宏(くどう たかひろ)

学生時代のアルバイトから数えると、自動車メディア歴が四半世紀を超えるスポーツカー好きの自動車ライター。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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