新車試乗レポート
更新日:2022.06.24 / 掲載日:2022.06.20

【試乗レポート アウディ Q4 e-tron】戦略的な価格で普及を目指す電気SUV

文●大音安弘 写真●アウディ

 昨今、EVシフトに積極的な姿勢を見せる欧州自動車メーカーだが、日本でもEVモデルの展開に積極的な姿勢をみせるブランドのひとつがドイツのアウディだ。2020年秋のクーペSUV「e-tronスポーツバック」を皮切りに、スタンダードSUV「e-tron」、4ドアクーペ「e-tron GT」、電動車初のRSモデル「RS e-tron GT」など、続々と新EVを導入してきた。しかし、それらはいずれも1000万円クラスのものばかり。高価なアウディといえど、価格では上位モデルに位置するだけに、アウディユーザーのEVシフトには繋がりにくい状況ともいえた。しかし、その状況を大きく変化させることを予感させる新型EVが、2022年1月、日本導入が発表された。それがコンパクトSUV「Q4 e-tron」シリーズだ。

エントリープライスを武器にする電気SUV

アウディ Q4 e-tron

 その名が示すように、アウディの既存ラインアップに盛り込まれた初のEVで、Q3とQ5の間に位置する日本でも扱いやすいボディサイズと599万円からというエントリープライスを武器とする。駆動用リチウムイオンバッテリーは、82kWhと大容量で、欧州値での一充電走行距離は、516kmと公表されている。現在、予約は受け付けているものの、導入は今秋以降とされている。そのため、まだ日本仕様のQ4も存在しないのが現状だ。しかし、今回、限られた時間ではあるが、欧州仕様のQ4 e-tronに試乗する機会を得た。

アウディ Q4 e-tron

 用意されたQ4 e-tronは、アウディジャパンが全国販売店の展示イベントで使用している車両で、欧州仕様車に手を加え、日本法規に適応させたもの。このため、実際の日本仕様とは異なる点があることを前置きしておきたい。仕様は、日本での最上位となるスポーティなデザインの「40 Sライン」だ。ボディサイズは、全長4588mm×全幅1865mm×全高1632mmと、国産車ではトヨタRAV4とほぼ同等。ただホイールベースは、同クラス車では長めの2764mmを確保する。そのビジュアルは、まさにアウディらしいもの。デザイン面でも、エンジンモデルであるQ3とQ5と並べても違和感はない。EVなので、フロントグリルに穴はないが、通常のグリルに戻し、フロントにエンジンを積めば、エンジン車のQ4が出来るはずと連想させるほどだ。しかし、同車はVWグループで共有するEV専用プラットフォーム「MEB」を初採用したピュアなアウディEVであり、それが優れたスペース効率を生む鍵ともなっている。現在、日本には、スタンダードな「Q4 e-tron」しかないようで、クーペSUV「Q4 e-tronスポーツバック」とは対面できなかったが、こちらはよりアグレッシブなデザインとなる特徴を持ちながら、価格差は26万円ほどなので、より多くのユーザーのショッピングリストに加わりそうだ。

フローティング構造を採用した近未来的なインテリア

アウディ Q4 e-tron

 インテリアは、アウディらしいデジタル感に溢れるものだが、他のアウディと操作系統のレイアウトは同様なので、アウディユーザーならば、すぐに馴染むだろう。特徴的なのが、フローティング構造のセンターコンソールだ。スタートボタンやシフトレバーが配置されているが、シフトレバーはQ4オリジナルものを採用。ただ日本車などにもみられる前後シフトタイプのレバー操作なので分かりやすい。ユニークなところは、Pポジションが省かれたこと。その変わりに、パーキングブレーキボタンの操作ひとつで、駐車動作が完了するようになっている。さらにいえば、スタートボタンの操作も省ける。Q4には、ブレーキペダルを踏むとスタンバイ状態になる機能があるので、ドライバーがシートに掛けた後、ブレーキレバーを踏み凝れば、直ぐにD(ドライブ)にシフトして発車することができる。駐車時は、パーキングブレーキボタンを押し、ブレーキペダルから足を離せば、OFFとなる。その極めて合理的な操作性もEVらしい演出のひとつなのだろう。ロングホイールの恩恵を受ける後席スペースは、Q5さえ凌ぐという。実際に腰掛けてみると、前席との距離にゆとりがある。厳密にいえば、着座時に床面の座面の距離が、エンジン車よりも狭まっていることは感じるが、他のEVと比べれば優秀であり、しっかりと配慮されている。何よりも床面がフラットなので、左右席間の移動もし易く、後席中央でも安定した姿勢が取りやすいのは、ファミリー層にも有益な点だろう。さらにラゲッジスペースは、Q3並みとなる520Lを確保。因みにデザインの違いから、スポーツバックでは535Lまで広がる。クーペSUVも侮れないのだ。

スムーズで運転のしやすさは特筆すべきレベルにある

アウディ Q4 e-tron

 いよいよ試乗となるが、その前に少しQ4の構造に触れておきたい。Q4は、他のe-tronと異なり、後輪側のみにモーターを配置した後輪駆動車が大きなポイントだ。ロングホイールを活かし、車軸間に出来るだけメカニズムを収めるように設計されているため、ボンネットを開けてみると、フロントグリル裏のスペースにゆとりがあり、奥側に配置されたメカニズムも低い位置に収められていることが分かる。エンジン車でいえば、ミッドシップみたいに重量物が中心に寄っているというわけだ。さらに重量物であるバッテリーは、最も低い位置となる床下に収められている。他のe-tronよりもボディが小さいだけでなく、前後のモーターの4WDではなく、1モーターのRWDなので、重量面でも有利といえる。その強みは、走りにもしっかりと現れる。

 Q4をドライブした第一印象は、「運転しやすい」だ。モーター駆動なので、発進はスムーズかつ俊敏。ただ道路に流れに合わせて必要となる加速は、少しエンジン車を意識したチューニングを施しているようで、直線的な加速ではなく、少し緩やかで伸びのある加速を見せる。もちろん、強くアクセルを踏み込めば、電動車らしい急加速も可能だ。アウディの技術者が、エンジン車から乗り換えても違和感なく、Q4を躾けていることが伺えた。さらに加速時もリヤ駆動の強みが感じられた。e-tronは前後モーターの4WDなので、急加速してもずば抜けて安定した姿勢を維持するが、それは新幹線の加速のようでも有り、やや違和感を覚える。しかし、Q4は後輪だけを蹴り、フロントはフリーなので、ボディの動きもしなやかに感じられる。これはどちらが良いという話ではなく、ダッシュする動物の走りに近いので、人の間隔にも合いやすいのではと推測される。私の中では、もっともナチュラルで意のままに操れる感覚のあるe-tronが「Q4」だと感じた。そのQ4の運転しやすさの秘密のひとつには、回生ブレーキの活用がある。アウディとして初のアクセルオフで回生ブレーキが効き始める「Bモード」を設定し、シフトがDモードの場合でも、パドルによる回生ブレーキを3段階で調整できるようになった。特に加減速が多い日本の道路事情では、Bモードがあった方が運転しやすい。この点もQ4の魅力のひとつとなっている。個人的には、この「Bモード」が他のe-tronにも早く採用されることを望みたい。また試乗車は、21インチ仕様であったが、これは日本には未導入となる。しかし、予想外に乗り心地は良かった。これはシャシーの強靭さと足の良さを示すものでもある。実際の日本仕様が届くまでは、最終的な結論は譲りたいと思うが、Q4との第一印象は極めて好印象であった。

 もちろん、EVで最も重要視される航続距離も大切な評価基準のひとつだ。しかし、短時間&短距離の移動で、日本仕様でもないため、今回は触れないが、欧州公表値で、516kmという性能は、エンジン車感覚での冷暖房の活用やロングドライブにも適応しやすいと期待できる。何よりも、エンジン車やハイブリッド車から乗り換えても違和感のない運転感覚と走りは大きな武器だ。このEV感を強調しないことは、まさにQ4が今後のアウディユーザーのEVシフトを担う普及型モデルであることを意味するものだ。装備面などの違いはあるが、同SUVタイプの国産EV、トヨタbZ4Xやスバル ソルテラ、日産アリアなどとも同等クラスの価格提示は、極めてインパクトがある。装備や総額、納期など総合的に判断する必要はあるが、ブランド力を持つアウディが同じ土俵に乗ってきたことは、国産勢にとっても意識しないわけにはいかない存在といえよう。また日本でのフォルクスワーゲングループ内での急速充電網の整備が、どのくらいのユーザーメリットを生むのかにも注目している。クルマとしては高価だが、大容量電池を積む実用性の高いEVとしては、戦略的な価格を提示したQ4 e-tron。市場への与える影響も含め、今後が楽しみだ。

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大音安弘(おおと やすひろ)

ライタープロフィール

大音安弘(おおと やすひろ)

1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に転身。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。

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