新車試乗レポート
更新日:2022.06.20 / 掲載日:2022.06.20
【試乗レポート スバル ソルテラ】スバリストのための電気自動車

文●工藤貴宏 写真●スバル
スバルが満を持して発売した量産電気自動車ソルテラは、トヨタのbZ4Xとメーカーの枠を超えて共同開発されたモデル。いわば兄弟車だ。
スバル ソルテラとトヨタ bZ4Xを乗り比べる
だから乗り味も同じか……と思いきや、その予想はいい意味で裏切られた。4WD(スバル流の表記だと「AWD=ALL Wheel Drive」)であれば、運転感覚はbZ4Xと結構違うのだ(FFの操縦性は両者で同じ味付け)。
結論から言えば、運転していて楽しいのはbZ4Xよりもソルテラ。だから運転を楽しもうというドライバーは積極的にソルテラを選ぶことをオススメしたい。

走りにかかわるメカニズム的な部分で、ソルテラはbZ4Xとどこがどう違うのか?
まずはサスペンションで、スプリングは同じものだがダンパーの減衰力を変えている。ほんのわずかだがソルテラのほうが締め上げているのだ。それにあわせてEPS(電動パワーステアリング)の制御も調整。ハンドリングに変化を持たせている。
その結果、ソルテラはbZ4Xに比べるとシャープに曲がる感覚が強い。ハンドル操作に対して反応が良くてスーッと小気味よく曲がり始め、旋回中の姿勢の安定感も増している。わずかな違いではあるものの、クルマとの一体感が高く運転が楽しいのはbZ4Xよりもソルテラである。だから、運転を楽しみたい人はソルテラを買ったほうが幸せになれることを断言しよう。

その代わり、路面の段差などの衝撃はbZ4Xよりもソルテラのほうが伝わってくるように思えるが、「比べれば違う」くらいの感覚であって絶対的的に乗り心地が悪いわけではない。だからそれほど心配しなくて大丈夫だ。
実は、サスペンションに限らず走る楽しさを盛り上げる演出も両者では違いを持たせているのが面白い。わかりやすい部分ではアクセルオフ時の回生ブレーキの強さを任意に調整できる“パドル”はソルテラには組み込まれているがbZ4Xには設定がないし、走行モード切り替えはソルテラが3モードなのに対し、bZ4Xは2モードになっている。
鋭い人はお気づきかもしれない。スバルのほうが“自分好みに調整できる幅”が広く持たせているのだ。それは「難しいことを考えずに幅広く誰でもなじみやすいのがbZ4X、すなわちトヨタの考え。いっぽうで自分好みに走りの味付けを変えて楽しめるのがソルテラでありスバルのクルマ作り」と考えればわかりやすいだろう。
ソルテラに込められた「スバルらしさ」

そのうえで面白いのは、走りに関する分以外の装備も両者で違うことだったりする。
わかりやすいのはプレミアムオーディオで、トヨタbZ4Xが「JBL」なのに対しスバル・ソルテラは「ハーマン/カードン」と音作りが違う。さらに暖房使用時の航続距離低下を抑えるためにbZ4Xが採用している輻射ヒーターはソルテラには搭載がなく、そのかわりシートヒーターは前席がbZ4Xよりも発熱範囲を拡大、加えてbZ4Xには設定のないリヤにまで標準採用と考え方が違うのだ。そして差別化でもっとも驚いたのがクルマから発する音。ソルテラではドアを開けた時の警告音などがしっかりと“スバルの音”になりトヨタとは違うのだからビックリした。こっそり教えてくれた開発エンジニアによると、それだけで「相当な手間と金額」がかかっているのだとか。それらの作り分けについて開発者は「差別化というよりもスバルらしさ」といい、どれも言われてみれば確かに納得だ。




さて、あまりの驚きに「bZ4Xとの違い」から書いてしまったが、ここからはちょっと落ち着いてソルテラの基本情報をお伝えしておこう。
ソルテラの特筆すべきポイントは、スバル初の量産EV(電気自動車)だということ。スバルはかつて「ステラEV」を発売しているが、あれはガソリン車の車体を使ってEV化したものだったし、市販モデルだが量産とは言い難かった。いっぽうでソルテラはEV専用に設計した車体を使い、日本国内だけで年間1800台の販売を見込む量産車。今後の電気自動車社会を見据えた踏み出した、スバルの大きな一歩である。
クルマ自体はトヨタとの共同開発(両社のエンジニアが合同チームを作って進めた)で、生産もトヨタの工場でおこなわれる。
駆動方式はFFとAWDが選べ、前者はシングルモーターで最高出力150kW、後者はそれぞれ80kWの前後独立モーター(合計160kW)としている。一充電航続距離は487~567kmだ。
「スバリスト」が乗って納得できることを意識してソルテラは作られている

そんなソルテラを運転していると、パワートレインのドライバビリティに関してはドライバーに対して扱いやすさと心地よさを目指して開発してきたことがよくわかる。音が静かとか、加速がなめらかで伸びやかとか、EVらしくガソリン車と異なる美点はとうぜん備えるのだが、いっぽうで一部の高性能EVのようにEVらしさを極端に誇張するような演出は控えめ。それは具体的にはアクセルを踏み込むのに繊細さが要求されるほど鋭いレスポンスだったり、異次元のような加速をする特性といった部分で、そういった“尖った感覚”を排除してエンジン車から乗り換えても馴染みやすいよう仕立てているのが印象的だ。新しい乗り物ではなく、あくまでエンジン車の延長線上にあるEVでありたいという気持ちが手に取るようにわかる。それはbZ4Xもソルテラもベースとして持つ共通の志だ。
ではいっぽうで、走りのフィーリングの違いや装備類でbZ4Xとの違いを持たせた理由はどこにあるのか。
「トヨタのクルマは幅広い人に選んでいただくことになる。いっぽうでソルテラは、スバル好きやこれまでスバルを乗り継いできた人が主なユーザーとなるだろう。世の中に出る数は少ないけれど、その分スバル濃度を濃くした。スバルのクルマから乗り換えて違和感のないように作った。」
そんな開発者の言葉が、いりばんわかりやすいだろう。ソルテラは、トヨタとの共同開発ではあってもしっかりスバル車なのだ。