輸入車
更新日:2020.05.27 / 掲載日:2020.05.27
【試乗レポート シトロエン C3エアロクロスSUV】愛嬌ある見た目とは裏腹につくりは真面目

C3エアクロス SUV SHINEパッケージ
文●大音安弘 写真●澤田和久、内藤敬仁
輸入車の王道がドイツ車である日本にとって、シトロエン車はちょっと難解な存在だ。クルマ好きなら、初代DSやBXなどの個性派モデルを思い浮かべるだろうが、一般の人にとってはフランス車であることさえ、知られていないかもしれない。つまり、日本ではド・マイナーな自動車メーカーである。
しかし、自動車史を振り返ると、シトロエンの存在は偉大だ。2CVという傑作大衆車からDSという上級車まで幅広く送り出しただけでなく、歴代のフランス大統領専用車を提供してきた歴史も持つ。その個性的なスタイルや上質な乗り心地のハイドロマテックサスペンションなどの拘り強いメーカーでもあり、日本でも自動車通に愛されてきた。その一方で、その強い個性が災いし、広く受け居られることもなかった。
しかし、そのイメージを払しょくするモデルが登場する。それが2017年に日本導入を果たした「C3」だ。シトロエンは、同門グループとのバッティングを嫌い、お洒落でカジュアルなイメージのブランドへと転換。その第一弾が、新生C3だった。個性的なスタイルと現実的な価格を掲げたフランス車は、日本人が抱くフランスのイメージにもぴたり。何よりスペックではなく、視覚に訴える愛らしいビジュアルは、ライフスタイルに強いこだわりをもつ現代人のもの選びとも絶妙なマッチングを見せた。結果、C3は、日本でのシトロエン販売拡大に大きな貢献を果たすことになる。その志を受け継ぐクロスオーバーモデルが、今回紹介する「C3エアクロス SUV」だ。
C3のイメージを受け継ぎつつ、ボリュームとディテールでSUVらしさを表現

バンパーのアンダーガード風デザインなどSUVらしさを取り入れたスタイル
C3エアクロスSUVの最大の魅力は、やはりC3譲りの愛らしいスタイルだろう。ただC3よりも、ボリュームアップとSUVナイズされたことで、両者のスタイリングの性格は、やや異なる。前後のマスクは、アンダーガード風のデザインをバンパーに取り入れることで、SUVらしいタフさを表現。ヘッドライトの大型化も、力強さを感じさせる良きアクセントとして作用する。フォルムも、ガラス面を拡大し、背高スタイルとすることで、ボクシーを強調。SUV感を高めるルーフレールは、色をドアミラーとリアサイドガラスのブラインドステッカーと共に色替えされるのは、お洒落なところ。これがSUVらしい堅苦しさを崩し、カジュアルさを演出している。一言で例えるならば、おてんば娘のC3に対して、わんぱく坊主のC3エアクロスSUVといったところだろうか。

ルーフレールやドアミラー、リアサイドガラスのブラインドステッカーがコントラストカラーとなり外観を印象づける
ボディサイズはC3に比べてひとまわり大型化。最低地上高は160mm

160mmの最低地上高からも読み取れるように、本格的SUVではなくクロスオーバー的なキャラクター
実際、C3の単なるクロスオーバーではなく、各部のサイズも変更。ボディサイズは、全長が+165mmの4160mm、全幅が+15mmの1765mm、全高は+135mmの1630mmとひとまわりアップ。ホイールベースも+70mmの2605mmに拡大されているのだ。因みに、最低地上高は160mmで、これはC3も同様。SUVを名乗るが、キャラクターはクロスオーバー寄りなのだ。
直感的で扱いやすい操作系。先進安全装備も充実している

上級グレードのSHINEパッケージには、オートエアコン、ヒルディセントコントロール付きグリップコントロールが標準装備
インテリアは、奇抜な外観からすると、じつにシックだ。ドライバーの前には、アナログ2眼式メーターパネル。そして、水平基調のダッシュボード中央には、タッチスクリーンが鎮座する。ごくありふれたレイアウトだが、誰でも直感的な操作ができる優しいデザインともいえる。そこに独自のデザインエッセンスを加えることで、見事に新しいスタイルを構築している。この点は、実に素晴らしい。シトロエンらしさ溢れるシートは、デザイナーズ・ソファを彷彿させるが、その出来も良い。まるでリビングのソファーのようなくつろぎが得られる。エアクロスでは、リヤシートにスライド機構が備わるので、より快適性が高まるのも美点だ。
装備面でも、最新のシトロエンは大きく前進している。7インチタッチスクリーンは、CarPlayとAndroid Autoに対応。高価なナビは、必ずしもマストではない。これまで一歩遅れていた感のある先進安全機能も強化されており、バックカメラ、衝突被害軽減ブレーキ、ブラインドスポットモニター、インテリジェントハイビーム、速度標識表示機能、車線逸脱警報、前後ソナーなどを全車に標準化している。
メトロポリタングレーと呼ばれるシートカラーはSHINE以上のグレードに採用
リヤシート前後スライド/リクライニング/リヤセンターアームレストはSHINE以上に標準装備
リヤシートがフラットにならないのが惜しいが広さは合格

410Lから1289Lとハッチバックと同等の荷室容量を確保
SUVとして重要なラゲッジスペースは、410Lから520L(リヤシート前方スライド時)を確保。最大で、1289Lまで拡大可能で、Cセグハッチと競える広さ。ただ後席がフルフラットとならない点は、少し惜しい。ただこれもクッション性に優れるシートを考えると致し方ないところかもしれない。
床面の高さを変えられる2ポジションラゲッジフロアボード(SHINE以上に標準装備)
クッションの分厚いリヤシートを備えることもあって、フルフラットにはならない

自然吸気エンジンでいえば2L級の性能を発揮する3気筒エンジン
パワートレインは、C3同様に、1.2L直列3気筒DOHCターボに6速ATの組み合わせ。スペック自体は、最高出力110ps、最大トルク20.9kgmと2.0Lクラス程度のものだが、低回転域からしっかりとトルクを発揮してくれるので、加速性能には不満はない。ボディサイズも手頃なので、何処にでも連れ出せ、使い勝手の良さがある。
カジュアルな雰囲気がシトロエンの美点を浮かび上がらせた

シトロエンは、その個性的な見た目とは裏腹に、意外と真面目なクルマ作りを行っている。ただこだわりが強いが故、それが裏目にでることもあった。しかし、現行車は信頼性が向上し、そのキャラクターがカジュアルブランドへと絞られたことで、その魅力を多くの人が楽しみやすくなった。C3エアクロスSUVは、そんな新時代のシトロエンを象徴するモデルのひとつといえる。ただ人によっては、よりサイズや価格も手ごろなC3の方が、魅力的に移るかもしれない。いずれにしても、これらの2台は、人に優しい作りと愛すべきキャラクターを備えている。きっと、あなたの日々の生活に、華を添えてくれる存在となるだろう。
シトロエン C3エアロクロスSUV(6速AT)
全長×全幅×全高 4160×1765×1630mm
ホイールベース 2605mm
トレッド前/後 1515/1490mm
車両重量 1310kg
エンジン 直列3気筒DOHCターボ
総排気量 1199cc
最高出力 110ps/5500rpm
最大トルク 20.9kgm/1750rpm
サスペンション前/後 ストラット/トーションビーム
ブレーキ前/後 Vディスク/ディスク
タイヤ前/後 215/50R17