車の最新技術
更新日:2021.11.12 / 掲載日:2021.11.12
bZ4Xから読み解くトヨタの電動化戦略 【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●マツダ
いよいよトヨタとスバルの共同開発によるBEVである「トヨタbZ4X」「スバル・ソルテラ」が発表された。今回はトヨタの説明会で聞いた電動化戦略の方針からコラムを記したい。
トヨタの新BEVシリーズとなる「bZ」シリーズ

“bZ”はbeyond Zeroの略で、世界全体のカーボンニュートラルとストックベース(過去の累積を含めた)でのCO2削減という意味合いで、10月に経済産業省が開催した「東京ビヨンド・ゼロ・ウィーク」などでも使われる言葉。
“bZ”はトヨタの新たなBEVシリーズの名称とされ、4は大きさ、Xはカタチを表しているという。定義は明らかにされていないが、bZ4Xはエンジン車のRAV4相当なので、4はDセグメントであり、それよりも小さいCセグメントは3、Bセグメントは2となり、XはクロスオーバーS UVで、セダンやハッチバック、ミニバンなどでは、その他のアルファベットが用いられるのだろうと推測できる。
トヨタのカーボンニュートラルに対するアプローチ
トヨタのカーボンニュートラルへのアプローチは“プラクティカル(実用的)な形で、サステナブル(持続可能)な移動手段を提供”とされている。
具体的には、HEV(ハイブリッドカー)、PHEV(プラグイン・ハイブリッドカー)、BEV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)といった電動車をフルラインナップ。様々な選択肢を用意して応える方針だ。
これはつまり、国や地域の政府等が定めたCO2排出量規制などのルールに従うというだけではなく、国や地域のエネルギー事情およびニーズに幅広く応えられるように構えているということだろう。bZシリーズはそんな選択肢の一つであり、中国、米国、欧州、日本といった、BEVの需要があり、再生可能エネルギーでの電力供給が多い地域で受け入れられることを目指しているという。
再生可能エネルギーでの電力供給が多い地域で受け入れられることを目指すというのは、BEVはTtW(タンクトゥホイールで燃料タンクおよびBEVのバッテリーから自動車のホイール・タイヤを回すまでの意味)ではCO2排出量がゼロなものの、国や地域の電源構成によってWtW(ウェルトゥホイールで油田=一次エネルギーから自動車のホイール・タイヤを回すまでの意味)のCO2排出量に違いがあり、環境負荷低減効果もかわってくるからだろう。
2015年の各国の発電量1kWh当たりCO2排出量を見てみると、日本540g/kWh、米国456g/kWh、中国657g/kWh、インド771g/kWh、スウェーデン11g/kWh、カナダ151g/kWh、ドイツ450g/kWh、フランス46g/kWhなどとなっている。
たとえば日産リーフのWLTCモード電費は6.45km/kWhなので、日本の電源構成のなかで走らせれば1kWhの電力で6.45km走れてCO2は540g排出することになる。1km走行当たりのCO2排出量に直せば83.72g/km。米国70.7 g/km、中国101.86 g/km、インド119.53 g/km。スウェーデン1.7 g/km、カナダ23.41 g/km、ドイツ69.76 g/km、フランス7.13 g/kmとなり、同じ距離を走ってもCO2排出量は違うのだ。
ちなみに、プラグインではない普通のプリウスのWLTCモード燃費が32.1km/LだとするとCO2排出量は72.28 g/km。ガソリンを入れて走らせるだけなのでTtWでもWtWでもかわりはなく、どこの国・地域で走らせても同じであり、米国やドイツならギリギリBEVのリーフが勝るが、日本ではプリウスのほうが少なく、スウェーデンやカナダなどではBEVを走らせれば環境負荷低減効果が大いにあるということになる。日本は天然ガス、石炭、石油といった化石燃料での発電が約70%であり、スウェーデンは水力発電50%、原子力発電30%、風力発電10%と化石燃料発電はほとんどないといった違いがある。
だからこそ、国・地域による適材適所になるよう電動車フルラインアップで応えるというのがトヨタの方針であり、環境問題の本質として正しい姿勢だと言える。
また、最近の動きを見れば、電動車フルラインアップだけではなく、ICE(内燃機関=エンジン)をも、再生可能エネルギー由来の液体燃料によってプラクティカルな形でサステナブルな移動手段の選択肢の一つとして死守するべく努力しているようだ。
ただし、欧州では環境対応車と言えばBEVとPHEVといったECV(エレクトリカリー・チャージャブル・ヴィークル)だという考え方が定着し、いくら燃費が良くてもHEVやICEは区別される。それは、ECVであれば電源構成次第で大幅なCO2削減効果が見込まれるからだ。自動車は10年、20年といった長い寿命があり、HEVやICEは一度走り始めれば寿命が尽きるまで走行中のCO2排出量は変わらないが、ECVだったら電源構成の再エネ比率を高めることなどで環境性能を進化させることができる。
トヨタがスバルやマツダ、スズキと手を組んだ理由

2021年10月22日に閣議決定された日本のエネルギー基本計画による2030年の電源構成は再エネ率36〜38%であり、非化石率は約60%におよぶ。前述のリーフの1km当たりCO2排出量に換算すれば、57g/km程度になり、HEVよりもBEVが有利となるのだ。
こういった状況変化にも電動化フルランアップは比率を変えることで対応できる。パワートレーンの多様化はそういった意味でも有効。ただし、揃えるには体力が必要なので、仲間づくりが大切になる。トヨタがスバルとBEVを共同開発したことを始め、マツダやスズキなどとも手を組むといった最近の動向には、そういった背景があるということだ。
【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!