車の最新技術
更新日:2021.10.01 / 掲載日:2021.10.01

ゼロエミッションで騒音もない新時代のモータースポーツを体験

文●石井昌道 写真●澤田和久

 9月23日、新横浜スケートセンターで開催された第2回氷上電気カート競技会「SDGs ERK on ICE」に参加してきた。

 使用するカートはエンジンとガソリンタンクをモーターとバッテリーに積み替えたEVで、排気ガスを出さないゼロエミッションという利点によって、屋内で走行してもなんら問題がない。パワートレーンから音を出さないということもあって、EVの時代になれば都市部でモータースポーツを楽しめるようになると以前から言われていたが、「SDGs ERK on ICE」はそれを先取りしたかっこうで、新時代の提案型モータースポーツだ。昨年の第一回はコロナ禍の影響もあり、メディアチームのみでの開催となったが、今回は一般参加も募っての本格的なスタートとなった。

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競技として身近でビギナーからエキスパート、そして観客まで楽しめる電動カート

 カートのタイヤにはスパイクピンが打たれていて、氷上では想像以上にグリップして、スライドしながらも豪快な走りが楽しめる。フィギュアスケートに使われるリンクに特設された1周100mのオーバルコースは、ビギナーでも気軽に走れるうえに、スライドをコントロールしながらどうすれば速く走れるかを追求するのは奥が深く、ベテランでも楽しめるちょうどいいバランスだ。

 昨年の第一回にも参加しているので、だいたいのことは把握している。いまのところカートは主催の日本EVクラブが用意したもので、個体によってモーターなどが違い、パワフルなモデルは速いけれどコントロールは難しい。そうでないモデルはコントロールしやすくて安定してラップを刻める。

 もう一つ重要なのは、自分が参加するマスタークラスはパシュート(追い抜き戦)であることだ。スピードスケートでは日本女子が強くて見応えのあるパシュート。「SDGs ERK on ICE」では1チーム2名で、オーバルコースの半周ずれた位置から2チームがスタートし、3周して2台ともが先にゴールしたほうが勝利となる。カートの速さは個体によって違うが、それぞれパワフルなモデルとそうでないモデルがある。

 チームメイトの岡本幸一郎さんは、今回が初めて。ドライビングスキルも十分で、せっかくの機会なのでパワフルなモデルでその迫力を体験してもらおうと考えたが、これが癖ものだった。今回の個体はパワーがあるうえに、出力特性が超ピーキーなようで、氷上でのコントロールが難しかったのだ。結果としては、トーナメントの初戦であえなく撃沈。結局、その個体はカートのベテラン選手でも上手く手懐けられず、次々に敗退していったのだった。

 ちょっとほろ苦いレースとなったが、パシュートで競うのはいいアイデアだ。バンパーをぶつけ合うような直接的な激しいバトルはないながらも競技性が高いことは、カートにとって決して広くはないスケートリンクに向いているし、2台ともがゴールした時点で勝敗が決まることはドライバーのスキルやカートの個体差もある程度は吸収するのでチーム戦として楽しめる。そして何より、「SDGs ERK on ICE」の手軽さがいい。都市部、あるいは都市部からアクセスのいいスケートリンクに行けば、ヘルメットや装備類を持って行くだけで走れるからだ。観るにしても、コース全体が見渡せるので競技の詳細がわかりやすい。全国にスケートリンクは点在しているので、今後発展していけば、手軽で奥深い新世代のモータースポーツとして定着しそうだ。

参加者による記念撮影の様子。石井氏の向かって左側が主催者の館内 端氏

 主催の日本EVクラブは、モータージャーナリストの大先輩である舘内 端さんが1994年に設立。2015年には一般社団法人となった。自動車が抱える環境・エネルギー問題を解決するためには、化石燃料で走るエンジン車からEVへのシフトが必要であると考え、EV普及を推進してきた。

 自分も1990年代後半から多くのイベントに参加し、日本EVクラブが製作した様々なコンバートEV(改造型EV)に試乗、ときには日本一周企画などのドライバーを務めたりもしてきた。舘内さんは元レーシングエンジニアというキャリアがあるから、環境・エネルギー問題とともに、クルマを操る楽しみもあきらめないというのがユニークだ。これまでもフォーミュラカーを電動化してサーキットを走ったり、EVカートのレースを主催してきたが、EVの本格普及の到来とともに、より敷居を下げ、EVならではの特性をいかした都市型モータースポーツが「SDGs ERK on ICE」。日本EVクラブの集大成といっても過言ではないイベントなのだ。

執筆者プロフィール:石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】は週刊連載です。どうぞお楽しみに!

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