トヨタのバッテリー発表会で語られたこと【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第23回】

車の最新技術 [2021.09.17 UP]

トヨタのバッテリー発表会で語られたこと【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第23回】

 

文●池田直渡 写真●トヨタ

さて、テスラやフォルクスワーゲンが相次いで「バッテリーデイ」と銘打つ説明会を開いた。特にBEVにとって、バッテリーは生命線である。

ところがそのバッテリーは安全性能でも、航続距離でも、充電性能でも、価格でもまだまだ課題を抱えている。そう書くと「EVの悪口だ」と反感を抱く人もいそうだが、考えても見て欲しい。なんでそんなイベントが開催されて、注目を集めるのか? それはバッテリー技術が枯れていないからだ。枯れていないということはまだ発展途上であり「凄い性能のバッテリーが出て来るのではないか」という期待が、マーケット側にもあるし、同時にいまのままの性能ではまだ満足できないのだ。

エンジンで言えば、ツインカムだターボだと言って、自動車雑誌が毎月筑波アタックのタイムで盛り上がっていた様な時代とそれはダブる。自明なことに、今更「エンジンデイ」をメーカーはわざわざやらないし、それを見たいと言う人もいない。エンジンはもう航続距離も性能も価格も、普通の人にとっては十分なものになっていて、それ以上はどうでも良いのだ。もちろん専門家の領域では熱効率の改善というテーマは脈々と生き続けているのだが、それはあくまでも専門家の話。

普通の人は、280馬力まではワクワクしたかもしれないが、それが400だ、500だ、1000馬力だと言われてももう盛り上がれない。どうせトラコンにカットされてそんな馬力は意味が無い。燃費も、リッター20キロまではスゴいと感心しても、それが25キロだ30キロだ35キロだと言われてももう、へぇとしか言えない。月1万円のガソリン代が半額の5000円になったら大きいが、5000円が2500円になるのは、さほどでもないし、2500円が1250円になるのはもうどっちでも良い。

さて、本質的にバッテリーデイは祭りである。だからかつての東京モーターショーの様にインパクトがあってSFライクで夢があることが求められているのだ。むしろ多少の絵空事感は大事だ。だから、テスラとフォルクスワーゲンの発表は華やかなイベントとして開催されていた。嘘をついているわけではないが、夢の技術が抱えるリアルな問題点に、わざわざ言及しない。そういう空気の読み方なのだ。そのあたりをトヨタの発表と対比すると大変面白い。

 

車両とバッテリー双方を開発することで、合計で50%の電池関連コスト削減を目指す

 トヨタは、クソ真面目に、堅実で実現可能な未来の説明をした。それはとても正直で、筆者にとっては、普段なかなか聞けない本音が垣間見えて、非常に面白かったのだが、ただEV祭りに水をぶっかけるホントの話は、パリピな人々にとってはノリが悪かったことと思う。

「お前なにホントのこと言ってんだよ。盛り上がらねぇじゃねぇか」ということにきっとなる。ハロウィンの渋谷駅にお祭りを求めて集まってきたつもりの人は、サムダウンとブーイングな気分だっただろう。

トヨタが提示したのは「電動化はマルチソリューション」、「バッテリーもマルチソリューション」、「性能は車両トータル」という3つの話だ。

この連載で、ノリの悪い筆者が常々書いてきたようにバッテリーは、全ての新車をBEVにするには全く足りない。バッテリー生産が足りない状況でどうすれば良いかは算数で考えれば簡単な話だ。HEVはBEVの1/40のバッテリーで生産できて、CO2削減効果は1/3。だから年間の新車販売台数1億台の内3333万台がBEVになるまでは、HEVを作った方がCO2は減らせる。

もちろん長期的に見れば、世界の全てのクルマを全てHEVにしたとしてもCO2を1/3削減したところで頭打ちになってしまうので、その先はBEVの仕事になる。だからHEVがあれば BEVは要らないという話ではなく、ほど良くバランスを取りながら、両方やらなければならないし、その先の時代も考えれば、水素や合成燃料だってやっておいた方が良い。何よりレアメタルの採掘はあらゆる資源の中でトップクラスで環境負荷が高いのだ。あ、これも余計なホントのことなのだが。

資金力のあるトヨタは、マルチソリューションで電動化を考える。それは規模が小さいため「選択と集中戦略」しか取れない他の会社とは違って当然なのだ。

さて、そうやって色んな種類の電動車が必要だという前提に立てば、バッテリーも1種類ではダメだ。航続距離と劣化対策が強く求められるBEVと、車両重量比でかなり小さなバッテリー容量で発進加速を頑張らなければいけないHEVでは、求められる性能が違って来るのだ。

ざっくり言えば、ハイパフォーマンスが求められるプレミアムBEVには、多少高価格でも三元系リチウムイオンバッテリーが求められるし、次世代の庶民の足を担う普及クラスのBEVは、原材料が安いリン酸鉄系のバッテリーに期待が掛かる。そして瞬発力が求められるHEVには、バイポーラ型のニッケル水素バッテリーや、全固体電池で対応するとトヨタは言っている。

ホントにトヨタはノリが悪い。世間から次世代ホープ扱いで大注目されている全固体電池を、よりによってパリピ諸君がオワコン扱いしたいHEVに搭載するなんて言ったら下げぽよもいいところだ。

申し訳ないついでに理由を説明しておけば、充放電を繰り返すと固体電解質や電極の結晶結合が膨張収縮の繰り返しで剥がれて隙間ができてしまって、耐久性に問題が生じる。耐久性が上げられるならそれに越したことはないが、HEVなら、バッテリーが少々劣化して発電比率が多少高まったとしても、少なくともいきなり航続距離が激減したりはしない。だからまずはレスポンスの良さを活かしてHEVに使うのだ。

そういう諸々のためにトヨタは色んな種類のバッテリーを全部開発する。どれも必要なのだ。「リン酸鉄ウェーイ!」、「全固体ウェーイ!」と分かりやすいスター製品を作り出して盛り上がりたい人には本当に申し訳ない。

トヨタがバッテリーにとって絶対優先にすべきとしているのは安全で、絶対に燃やさないつもりでバッテリーを開発するとして、そのためのAIシミュレーション開発手法を発表した。もちろん長らく課題になっている、価格をいかに下げるかと、航続距離や劣化、充電速度などの能力も全方位で向上させて行かねばならない。

という中で、コストの部分で、トヨタは「バッテリーの価格問題を解決するには、車両トータルで見るべきだ」とする極めてトヨタらしい説明をした。

例えば、エネルギー回生の効率を上げたり、電動車ならではの熱マネジメントを工夫したり、空力を改善したりして車両トータルの効率を改善して行けば、電費を30%改善できる。裏返せば、バッテリーの搭載量を30%減らせるということで、それはバッテリーを30%安くするのとほぼ同じ意味になる。

併せて、バッテリーに使用する希少原材料の削減を前述したシミュレーションで徹底解析していくことで、高価な原料の使用量を落とすなどの工夫で、こちらも30%削減すると言うのである。バッテリー価格と電費それぞれの30%を引いた残りを掛け合わせると、0.7×0.7=0.49となり、全体としてはバッテリーに費やす費用は50%削減できるという話である。報道を見て「トヨタバッテリー価格を50%削減」と書いてあるのを見つけたら、そりゃトヨタの発表が分かってないか、説明を面倒くさがって50%という数字だけを抜き出した適当な仕事である。

ということで、色々ある問題をトヨタは解決しつつ進んでいますよという話だったのだが、何か驚異的な技術がバーンと出て、世界を変えるみたいな派手な話ではなく、地味で当たり前のことを丁寧に積み上げて、世の中の期待に応えていくという手堅い発表だったと受け止めるのが本当のところだろう。でもねぇ。お祭りを求めている人にはホントに「これじゃない感」が強かったと思う。

今回のまとめ

・トヨタは車両と電池、双方を開発することで、最大限の効率化を目指す
・全個体電池は2020年代前半に実用化するが、現状ではBEVに向かない
・車両の電動化と同じように、バッテリーの素材、方式もマルチソリューションで開発していく

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

グーネット編集部

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