2030年に向けたマツダの戦略を検証する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第12回】

車の最新技術 [2021.06.25 UP]

2030年に向けたマツダの戦略を検証する【池田直渡の5分でわかるクルマ経済第12回】

文●池田直渡

 6月17日、マツダは、2030年に向けた技術開発の長期ビジョンを発表した。すでに2017年から数度の微修正を加えてきたこの長期ビジョンは何が変わり、何が変わっていないのか? 今回はそれを検証してみよう。

マツダは2030年時点でのEV生産比率を25%に引き上げた

マツダは2025年までに3モデルのEVを、2025年以降新型プラットフォームによる複数のEVを複数車種投入することを明らかにした。写真は唯一の市販EVであるMX-30 EVモデル

マツダは2025年までに3モデルのEVを、2025年以降新型プラットフォームによる複数のEVを複数車種投入することを明らかにした。写真は唯一の市販EVであるMX-30 EVモデル

 一番大きく変わったのは、2030年時点でのEVの生産比率である。従来5%としていたこの目標を25%に引き上げた。さらに残り75%の全てを「内燃機関+電動化技術」と再定義した。

 これはわが国の政治が主導する、馬鹿げたEV促進政策に対して、嘘にならない範囲、つまり希望的観測で最大限の忖度を働かせ、目標値を引き上げたものだと筆者は理解している。

 政府では、特に小泉進次郎環境相を中心に、徹底した「内燃機関廃絶計画」を推進しようとしている。政府の公式発表では、ハイブリッドなどを含む「電動化」のラインで留めているが、環境相の日経新聞などのインタビューを見ると「EVオンリーこそが正義」という主張を明確に打ち出している。

 しかし、そのために必要なインフラ電力改革の年次達成計画も具体性が無ければ、バッテリー原材料の調達も全くの無策のままであり、中国が必要な時に必要なだけバッテリーを売ってくれる前提という甚だ脆弱なプランという無責任ぶりだ。言うまでもなくバッテリーはEVの心臓であり、その提供を自在にコントロールできるということは、中国がわが国の自動車産業の生殺与奪権を完全に掌握するということである。「バッテリーを提供してやるから、技術情報を開示しろ」と言われたら従うしかない。

 仮にオールEV化が正しいという無茶な仮定に基づいたとしても、日本の企業の仕事をそのまま中国企業へ移転すれば消費は賄えるとでも言わんばかりの内容で、EV化が目的なのか中国化が目的なのかすら怪しい。

 それは自動車産業のみならずあらゆる製造業を中国にプレゼントしましょうと言わんばかりで、実際製鉄産業の流出はもはや極めて深刻な事態となっている。少なくとも結果を見る限り、わが国の産業を守る姿勢は皆無で、どこの国の政治家なのかと強く疑うところである。

 自動車メーカーとしては、中国に生命線を委ねる様なハイリスクに戦々恐々としつつ、それでも政治の圧力を完全に跳ね返すこともできないまま、譲歩を迫られている形だ。ホンダはその圧力に大きく膝を屈して、内燃機関撤退を発表した。戦う姿勢のトヨタですら、EV比率を上方修正している。と言う流れの中でマツダの25%は発表されている。

 戦略の重要ポイントの解決方法と具体的なスケジュールの無いまま、政府は各自動車メーカーへの圧力を掛け続けている。構図としてはパワハラそのものなのだが、日本の企業はお上に逆らうことが苦手だ。現状毅然と戦っているのは豊田章男自工会会長ただひとりで、その他のメーカーは、表だって反対を表明できていない。マツダには気骨を見せて欲しいと強く願うところである。

市場のニーズに柔軟に対応するための「ビルディングブロック構想」

 さて、この目標値を除いてマツダの長期ビジョンを見れば、大幅に変わった部分はあまり無い。マツダのビジョンは、長期的技術をブロックの様に積み上げてステップアップさせていく計画であり、それはつねに多数の正解を用意できるものになっている。

 新興国や途上国でいきなり完全EVに対応できるわけもない。EV派の人は「コンセントがあればどこでも充電できる」というが、屋内配線、屋外配線、送電網など全ての段階の電源線容量を上げないとまともな時間で充電できない。そうなれば全ての安全装置も大容量化を余儀なくされる。インフラの大改造なくしてEV化は不可能である。

 しょぼい配線でも、クルマを1日置きに充電すればいいのなら運用可能かも知れないが、途上国に行けば行くほど、クルマは長時間稼働する。経済の血液がお金であるように、物流の血液がクルマなのだ。そのクルマの稼働率を下げるようなことはできない。

 だから、地域によってクルマの動力源はそれぞれ異なるし、さらに時間軸でも変わって行く。超長期的展望としてEVが正解だとしても、世界の移行にはどう少なく見ても50年程度の時間は必要で、その50年間は物流を諦めるという選択肢はあり得ない。

 マツダは、かねてより内燃機関(ガソリンとディーゼル)、モーター、バッテリーの3要素を順列組み合わせにしたxEV計画を基本に、どんなインフラ整備状況の地域でも、今よりカーボンフリーに可能な限り近づける選択肢を用意し、ステップバイステップでカーボンフリー社会に近づけるという極めて具体的で確実な戦略を主張してきた。

 どこでどういうシステムが売れるかは、蓋を開けてみるまでわからない。商品を選択するのはマーケットであって、メーカーが主導するわけではない。必要とされるもの、欲しいものを提供するのがメーカーの務めである。だからマツダはビルディングブロック構想による、多元的「解」を用意しようとしている。

 しかしながら、数が読めないということは生産計画を立てるのが難しい。マツダは従来から、同一車種をまとめて生産せず、色んな車種を順不同に生産出来る「混流生産」を確立してきた。今回はxEVをその混流生産に当てはめることを発表した。

 例えばMX-30 EVの次にMazda3のマイルドハイブリッドを、その次にはCX-9のPHVを、さらにCX-30の水素ロータリー、ロードスターの純内燃機関モデルをという具合に、様々な車種と動力機構のモデルを自由自在に作り分ける構想である。これにより、地域が求めるクルマが仮に小数であっても生産が可能になるし、小さく産んで大きく育てることも可能になる。

 またかねてよりの計画通り、直4横置きFFのスモールシャシーとは別に、直6縦置き(直4もあり)縦置きFRのラージプラットフォームも今年度から投入が始まる。これらの狙いは、主に北米マーケットで、北米で主力となるCX-9には商品力との兼ね合いでどうしても6気筒が欲しい。V6ならともかく、マツダのコモンアーキテクチャーの性格上、V型はコスト面での不利が大きすぎるから、選択肢は直6に成らざるを得ないからだ。

 マツダのコモンアーキテクチャーは、スーパーコンピューターで徹底的にシミュレーションし、燃焼を数理モデル化して、その最良の形を絶対に崩さないようにエンジンを設計するもので、直4で数理モデル化した空気の流入モデルはV6では全く役に立たない。だから選択肢は直6しかない。それを基点にすれば自ずとシャシーはFRに決まる。そういう順番である。

 この他に発表されたことと言えば、直6はe-SKYACTIV-Xとe-SKYACTIV-G、e-SKYACTIV-D、つまり圧縮着火のXとガソリン、ディーゼルの3種。恐らく長期的にはこれは4気筒にも反映されると思われる。この基本に加えて、燃料側のマルチソリューションとして、BIO-FUEL(バイオ燃料)、e-FUEL(水素改質燃料) 、HYDROGSN(水素)が用意される。

 またハイブリッドに関してはスモールシャシーには24Vが、ラージシャシーには48Vが搭載されるが、超長期的にはこれは48Vに集約されていくだろう。

 ということで全体としてみれば、世の中がどう流れても対応できるマルチ・ソリューションを、個別開発するのではなく、コンポーネンツ式に順列組み合わせで構築しようと言う、自らの規模感を大いにわきまえた堅実な戦略であると言える。

 ラージ戦略が効果を上げるまでは我慢の時代になるだろうが、それも本年度内にはローンチとの噂だからそう長い我慢ではない。

 心配なのは政治の横やりだ。本当は、そこに対しては日本の全てのもの作り産業が一致団結して戦って行くべきだと思う。そこの気迫がまだマツダには足りない。政府に楯突くならば、筆者は最大限に応援する覚悟でいる。

今回のまとめ

・マツダはEV以外にも複数のパワートレインを用意し、市場の要求に合わせて投入していく
・EV専用プラットフォームを開発中で2025年以降に市販モデルを投入予定
・混流生産により、低コストで複数のモデルを同時に生産・販売していく

執筆者プロフィール:池田直渡(いけだ なおと)

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

自動車ジャーナリストの池田直渡氏

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

グーネット編集部

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