車の最新技術
更新日:2026.07.06 / 掲載日:2026.07.06
BEVバンを投入した韓国Kiaの技術力【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●Kia
ジャパン・モビリティショー2025で日本進出を発表したKia(キア)。すでに2026年5月には日本の1号店となる「Kia PBV東京西」をオープンし、本格始動に入っている。PBVはPlatform Beyond Vehicleの略で、新たなBEV(電気自動車)のバン・シリーズを意味する。日本での展開は、このPBVシリーズで始め、まずは2人乗り商用車の「PV5カーゴ」と5人乗り乗用車の「PV5パッセンジャー」から販売を開始する。今回はそれに先だって韓国のKia本社や工場、PBVシリーズのエクスペリエンスセンターなどに行ってきた。

Kiaは1944年創業。自転車の生産から始まり、オートバイ、オート三輪、トラックなどを手がけ、1971年には初めての乗用車である「Kia Briza(ブリザ)」が登場する。1999年にはアジア通貨危機の影響もあって同じ韓国のヒョンデの傘下となっている。そのため韓国ソウルの本社は、ヒョンデ本社と1~3階が繋がったツインタワーとして並んでいる。ハードウエアの開発は共同で行い、商品はそれぞれ独自に開発される。Kiaの2025年のグローバル販売台数は約314万台。ヒョンデも含めたグループとしては727万台で世界3位となる巨大メーカーだ。2026年上半期は約164万台と前年同期比を上回り、目標である330万台も現実味を帯びてきた。
個人的には2011年にソウル・モーターショーを訪れた際に、コンパクトカーの「モーニング」と、ミッドサイズ・セダンの「K5」に試乗した経験がある。
前者は2003年発売でモデル末期だったこともあってやや古い面も見受けられたが、後者は2010年発売で乗り味も洗練されていた。そして何よりもデザインの完成度の高さが印象的だった。
Kiaは2006年に、元フォルクスワーゲングループで初代アウディTTやVWニュービートルなどを手がけたペーター・シュライヤー氏をCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として招聘。それ以来、デザイン・コンシャスなブランドとして認知されていったのも成長の原動力となったのであろう。本社やエクスペリエンスセンターなどでもデザインへのこだわりが感じられた。

PBVシリーズは、Kia初のBEV専用プラットフォーム「E-GMP.S(Electric-Global Modular Platform for Service)」を開発。PV5はその第一弾商品となる。バッテリー、モーター、サスペンション、車体構造などを一元化したモジュール設計となっており、拡張性が高く、開発期間を短縮できるのが特徴。フロントキャブ部分は標準化されているが、リア部分はルーフ、クォーターガラスなどはレゴのように組み合わせることで、カーゴ、パッセンジャー、ハイルーフモデルなど最大16種類もの多様な構成が可能となっている。韓国・ファソンの工場敷地内には4兆ウォン(約4200億円)を投資してPBV専用工場「EVOプラント」を建設。今後はPV7やPV9などラインアップを拡大していく。単なる車種追加ではなく、モビリティエコシステムを構築し、事業の新たな柱として育成していく考えだ。

PV5のバッテリーは、43.3kWh(LFP=リン酸鉄)、51.5kWh(NMC=三元系)、71.2kWhと3種類が用意され、一充電走行距離はカーゴで最大528km、パッセンジャーで最大521km。エクステリアは、縦長のライティングシグネチャーとAピラーが滑らかに融合して独自のシルエットを形成。ブラックとの幾何学的なクラッディングを含め、商用バンの枠を超えた革新的なスタイルとなっている。LEDヘッドライトはバンパーに内蔵され、万が一の衝突の際には損傷リスクを抑えるなど、耐久性や修理の容易さなども考慮されている。

今回は短時間ながらテストコースで試乗。ボディ剛性が高く、荒れた路面でもサスペンションが滑らかにストロークして快適な乗り心地を実現し、ワンボックススタイルのモデルとしては高い動的質感の持ち主だった。
ヒョンデのアイオニック5やインスターなどで同グループのBEVは体験済みだが、PV5のパワートレーンも洗練されている。フロントに搭載されるモーターは最高出力120kW、最大トルク250Nmで圧倒的なパワーではないが、エンジン車の商用バンあるいは乗用ピープルムーバーに比べれば頼もしい動力性能であり、静粛性や洗練度では圧倒していると言えるだろう。
日本仕様は右ハンドルであるのはもちろんのこと、ウインカーレバーを右にするなどローカライズされている。また、ウエストラインが低いことでサイドの視界が開けていて、交差点などで歩行者や自転車を確認しやすいことが高く評価できた。
日本ではまだBEVバンが少なく、そこに商機があるとKia PBVジャパンでは捉えているようだ。
総合商社である「双日」とパートナーシップを組み、BtoBに注力する独自の戦略スタイルとしているのもそのためだ。ソフトウエアによるフリートマネジメントシステムなどで事業者へのアシストも含めたサービスも展開。日本での展開は30年スパンで考えていて、まずは信頼を築いていくことが肝要だと捉えている。
2026年の目標は1000台、続く2027年は2000台。全国8カ所のディーラーと100カ所のサービスセンターの構築を目指し、社会に貢献するモビリティソリューションとして育てていくという。日本市場ではまずBtoBから足場を固め、長期的なブランド浸透を目指す戦略が、今後どこまで支持を拡げられるかに注目したい。