車の最新技術
更新日:2025.11.14 / 掲載日:2025.11.14

モビショーのトレンド2 物流の新提案【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、CUEBUS、豊田自動織機

 大盛況の中、先週閉幕したモビショー2025について2つの大きなトレンドがあったことは先週触れた。ひとつは新世代セダンに向けた模索。もうひとつが物流改革である。

 我が国での物流網の破綻はすでに2024年問題としてあちこちで議論されてきた。大きく分けると、労働時間の適正化によるドライバーの圧倒的な不足。もうひとつは物流の脱炭素化である。これら2つの問題をどうするかは極めて重要な社会課題である。

 考えてみれば物流とはモノの移動であり、欲しいのは結果、A地点からB地点へモノが移動できれば良い。質的に問われるのは安全性と確実性と環境性の3つだけ。手段は問われない。

 アプローチとしては従来の広義のトラック輸送を、低炭素化動力に置き換える動きと、人の手を介さない、あるいは省人化に向けた新しい輸送手段の開発のふたつの方向性だった。

 低炭素化動力の代表格は、燃料電池化とEV化であり、大型トラックは燃料電池化、小型(2トン)トラックと軽トラはEV化の提案が多くなされてきた。

 トヨタのCOMS-Xは小口配送向けのよりミニマムな輸送手段の提案だし、IMVオリジンは、主にアフリカに向けた四輪のスーパーカブである。物流は経済発展の必須条件であることから、現地事情に即したアッパーボディを現地で架装する前提で、丈夫で安価な輸送の基礎となる見込みだ。彼の地で架装を行うことは授産を意味し、現地で産業を起こし、長い目で自動車産業と購買力を育てながら、物流を充実させていくという一挙両得の試みである。

トヨタ ハイエースコンセプト

 それと物流の重要な担い手であるトヨタ・ハイエースの次世代モデルもコンセプトとして登場した。常識的に見て、新世代では、HEVを主力にしつつ、BEVモデルもラインナップに加えたモデル群になると思われ、数の多いハイエースの低燃費化は、輸送全体における脱炭素化に多大な貢献をすると考えられる。

CUEBUS 自動物流道路仕様「CUEBUS」コンセプトモデル

 さてそうした試みの中で、最もユニークだったのがCUEBUSの自動物流道路構想である。写真で見ても極めて薄い設置型パネルの内部にリニアモーターが仕込まれており、コンテナ側には動力源を持たない(つまりバッテリーを搭載しない)。コンテナに仕組まれた磁石をつかったリニアモーターで自走させることができる。もちろんパネルには電力を供給するのだが、効率の良いリニアモーターであれば電力消費はミニマムになるはずだ。

 しかも構想が大きい。東名高速道路の中央分離帯の下にこのコンテナ専用のトンネルを作り、なんなら東京から大阪まで、このコンテナを自走させてしまうという壮大なスケールの物流改革を目指している。

 コンテナの内容物と位置情報のトレーサビリティも確保されており、つまりどこからどこへ向かって何が移動中なのかはリアルタイム補足が可能だ。コンテナにはいくつかのタイプがあり、最大では1トンまで対応可能。速度は時速50km程度という話である。

 さらに言えば、これらのコンテナはそのまま倉庫へ入庫すれば積み下ろしすら必要なく積み替えなしで保管が可能。メーカーの倉庫から、小売店の倉庫までの完全無人かつ低エネルギー輸送が実現するわけだ。政府が発電の脱化石燃料化をしっかり行えば脱炭素も実現できてしまう。

 物流の課題を大きく前進させる可能性が高い。もちろんこのトンネルを全国に張り巡らせるのはそれなりに難しいだろうが、高速道路のIC近隣の倉庫から、別のICまでの輸送ということであれば、凄まじい効率化と省人化と低エネルギー化ができると言う意味で物流DXの大本命と呼んでも差し支えない技術だと筆者は思う。

豊田自動織機 LEAN

 さて、そうなると、こうしたコンテナから荷物をセレクトして小口に分包して、EV軽トラに積み替えて小口配送可能な状態にする作業を行う安価なロボットにも期待したいところだが、そこで面白いと思ったのは豊田自動織機の人協調運搬ロボットコンセプトモデル「LEAN」である。

 これはセグウェイの様な「倒立振子制御」の自立2輪ロボットであり、安価で簡便な作りによる軽量小型ロボットに仕立てられている。豊田自動織機お得意のフォークリフトの「フォーク」を1本にした様な腕で、荷物を持ち上げる時は、バランスを取って荷物と反対側に傾く。多少人とぶつかったとしても、バランスを取ってひっくり返ったりしない。同社によると「LEAN」の自重は65kg程度であり、相当に軽量である。ロボットにとって小さく軽いことは人と協調して稼働するに際して重要な要素だ。大きく重いロボットでは何かあった時危ない。

 荷捌きを完全自動にするとタスクが複雑化してコストが大変なことになるから、人じゃなくてもできることをロボットに代行させるという意味では、人と一緒に働く際に、安くて軽くて安全なことが極めて重要。豊田自動織機がわざわざ「人協調運搬ロボット」と呼ぶのはそこの意義を伝えたいわけだ。

 ということで、物流の話は、多くの企業がコツコツと積み上げてきた様々な技術が今花咲こうとしている。色々と掛け声以上に進まないDXだが、物流世界では大躍進があるかも知れない。こうした物流改革提案が一気に増えたのもモビリティショーに進化した成果と言えるだろう。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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