車の最新技術
更新日:2025.10.20 / 掲載日:2025.10.20

911.2が搭載する「T-Hybrid」を解説する【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●ポルシェ

 ポルシェ911の現行型がマイナーチェンジを受けた。型式992の後期型ということで992.2と呼ばれる。

 最大のトピックスはハイブリッド・モデルの追加。ポルシェといえど電動化の波は避けて通れず、パナメーラやカイエンではE-Hybridと呼ばれるPHEV(プラグイン・ハイブリッド)を用意し、タイカンやマカンといったBEV(電気自動車)もラインアップ。そしていよいよ基幹モデルのスポーツカー、911まで電動化したのだ。

ポルシェ 911 カレラ GTS

 とはいえ環境性能のためのE-Hybridとは違い、911のT-Hybridはパフォーマンスアップにプライオリティをおいているという。

 T-HybridはMHEV(マイルド・ハイブリッド)に分類されるが、他にはないユニークなシステムで電源は400V。“T”はターボの意味で、eATLと呼ばれる電動ターボチャージャーが中核となる。欧州車のMHEVは48Vが多いが、それは60Vを超えると安全性などの基準が変わって高コストになるから抑えているのだが、ポルシェはコストが嵩んででも高効率を追い求めたのだ。

 課題はパッケージと重量増および重量配分だったのだろう。パッケージのために新開発された3.6Lエンジンは高さを抑えた設計で、911カレラの3.0Lに比べると110mm低く、ここに高電圧コンポーネントを搭載するスペースを確保した。エンジンはVarioCam PlusではなくVarioCamとして、バルブリフト切り替えは排してシンプルに。バルブ制御は従来の油圧バケットタペットからローラーカムフォロワーへ刷新された。バケットタペットも採用せずにコンパクトにしている。空調用のコンプレッサーを電動化することでベルトレスとすることが可能になった。環境性能も進化させていて、高回転・高負荷までラムダワン(理論空燃比)を実現させ、高出力ながら最新の排気ガス規制をクリアしている。

 従来はツインターボだがシングルターボになっていることもスペース効率を優位にしている。ツインターボや可変ジオメトリーターボなどは、ターボラグを抑えるためのものだが、T-Hybridは電動でターボラグを無きものにしているから、パワー志向のシングルターボが採用できるわけだ。

T-Hybridに採用される電動ターボチャージャー

 ターボチャージャーに組み込まれたモーターは、排気エネルギーが十分でないときにタービンを回してラグをなくすとともに、回転が上がってブースト圧が上がりすぎるときにはこれを回生で抑える働きもしている。従来はウエイストゲートによって排気流を大気放出していたが、それを廃止することが可能になり、さらに電気エネルギーへ変換させているのだ。最大11kWの回生が可能であり、これはWEC(世界耐久選手権)に出場していた919Hybrid由来の技術からのフィードバックとなっている。

 PDKには永久磁石同期モーターが組み込まれ最大出力40kW、最大トルク150Nmでエンジンをアシスト。EV走行はしないが、それはバッテリー容量を大きくしすぎないためだという。1.9kWhのバッテリー容量はMHEVとしては大きく(通常0.5~1.0kWh程度)、システムの効果を高めているが、EV走行をさせてしまうといざパフォーマンスを発揮させようとしたときに不足するおそれがあるからだ。

ポルシェ 911 カレラ GTSに搭載されるハイボルテージバッテリー

 400Vバッテリーは、リアの従来の12Vバッテリーのスペースに配置され、12Vバッテリーはフロントに移設された。12Vは新開発のリン酸鉄リチウムイオンバッテリーで従来の鉛バッテリーに比べると約1/3、7kgの軽量化が果たされ、400Vバッテリーも従来の鉛バッテリーに比べてわずかに重いだけ。その他、安全性や法的要件などでの重量増もあるが、軽量化にも取り組み、車両重量は1595kgに収めている。前期型911GTSに対してちょうど50kg重くはなっている。重量配分はほぼ同じとしているのも努力のあとが見られる点だ。

 こうしてT-Hybridは環境性能を進化させながら最高出力541PS、最大トルク610Nmを得て、911カレラGTSの0-100km/h加速は3.0秒。これは911 GT3の3.4秒をも凌ぐほどでパフォーマンスは圧倒的に高い。

 実際にポルシェ・エクスペリエンス・センターで試乗したが、コーナーからの立ち上がりなどでは、アクセルオンと同時にターボが効いて、モーターのアシストとともに強烈な加速をみせる。高回転域での回転上昇感も従来のエンジン車よりも鋭いほどで、単体で乗っていると重量増は気にならない。コントロール性も高く、従来の911に比べて失われているものはほとんどないといったところ。じつにポルシェらしいパフォーマンス志向の電動化なのだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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