車の最新技術
更新日:2025.09.26 / 掲載日:2025.09.26

日産自信の次世代ProPILOTとは?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●池田直渡、日産

 ご存知の通り、このところ自動運転にかける世の中の期待はだいぶ盛り上がっている。

 のっけから水を差すようなことを書くが、とても重要なことなので念を押しておきたい。今の所、普通のカタログモデルとして買えるモデルの中には「常時クルマが主体となって自動運転が可能なもの」は存在しないし、しばらくは実現が難しいと思う。

 ごく限られた車種では、“条件付き”で自動運転が可能となる「レベル3」を達成したクルマはあるが、条件も限定的で価格も高い。場合によっては販売形態そのものまで限定的という意味で、一般的に普通の勤め人がマイカーとして買えるものではない。

 自動運転の申し子のように言われているテスラであろうと、現実的にはドライバーが運転責任を被るレベル2システムであり、そういう意味で、冒頭で書いたような世の中の期待に応える自動運転ではない。

自動運転レベルの定義

SAE レベル概要運転操作の主体対応する車両の名称
レベル 1:アクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作のどちらかが、部分的に自動化された状態。運転者
運転支援車
レベル 2:アクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方が、部分的に自動化された状態。運転者運転支援車
レベル 3:特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。ただし、自動運行装置の作動中、自動運行装置が正常に作動しないおそれがある場合においては、運転操作をうながす警報が発せられるので、適切に応答しなければならない。自動運行装置(自動運行装置の作動が困難な場合は運転者)条件付自動運転車(限定領域)
レベル 4:特定の走行環境条件を満たす限定された領域において、自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。自動運行装置自動運転車(限定領域)
レベル 5:自動運行装置が運転操作の全部を代替する状態。自動運行装置完全自動運転車
自動運転車両の呼称(国土交通省の資料より)

 われわれが実質的に選択可能な各社の“自動運転のようなレベル2”の安全責任は、あくまでもドライバーにある。それはつまり自動運転ではなく、あくまでも高度な運転支援(ADAS)であることを意味している。

 ただし、少し前から各社のハンズオフドライブが可能なフラッグシップレベル2システムは、運転支援がかなり高性能になってきており、監視義務を怠らずいつでも介入できるように準備しておくことを前提に、実際の操作はある程度クルマに任せられるようになってきている。

 テスラのフルセルフドライブも、スバルのアイサイトXやトヨタのアドバンスドドライブ、そして日産のプロパイロット2.0も、動作している環境では、ちょっと勘違いして「これは自動運転だ」と言いたくなるくらい運転が上手いのだ。

 ただ残念ならがこれらのシステムは、例えばテスラがオートパイロットとフルセルフドライブの二段階であるように、並品のADASとプレミアムADASの二階建て構造になっている。自動運転への期待の高いテスラはプレミアムADASを多くの人が注文するが、国産各社の場合高い方を試したことがある人が圧倒的に少ないので、認知が進んでいない。

 という中で日産は次世代ProPILOTを2027年に搭載すると発表した。このシステムは、英国Wayve社のAI Driverソフトウェアと次世代LiDARで構成される「エンボディドAI」であり、試行錯誤しながら知能を獲得していく。

 公開されたテスト車両には、11個のカメラ、5個のレーダーセンサー、1個の次世代LiDARセンサーが搭載され、カメラは360°全方向を認識できる。

 従来のシステムと異なるのは、センサーに順位付けを行っている点であり、あくまでもメインとなるのはカメラであり、レーダーとLiDERはその補助という位置付けとなる。

 カメラは好条件時に300m程度の視界があるが、条件が悪いと30mまでダウンする。レーダーとLiDERはこうした条件下で遠距離の障害物を測定し、あらかじめ車線変更による回避と、減速という予備動作を指示する。30mの視界でもメインセンサーであるカメラによって回避できるようにするための予備動作を司るのだ。

 日産の説明によれば、これによって、自動運転の大きな障害となっているファントムブレーキが発生しないと言う。ちなみにファントムブレーキとは、障害物があると誤認して、何もないところで突然急ブレーキをかける現象を言う。

2027年に発売予定の次世代運転支援技術(ProPILOT)を搭載したアリアによる走行シーン

 また、Wayve AI Driverソフトウェアは、Wayve社によって英国でリアルロードでの様々なデータを学習済みで、筆者が後席で同乗体験した限りにおいては、混雑した銀座地区の一般道を上手に走り抜け、駐車車両の回避や横断歩行者などへの対応も含め、熟練ドライバーと遜色ない運転をしてみせた。

 またシステム全体の電力消費も少ないことから、バッテリー消費の面でもEVとの親和性が高いと考えられる。

 日産は、この新たなシステムを、他の方式を過去のものにする決定打であると自信をのぞかせる。また運転に自信のない人にとってクルマでの外出のハードルを下げる技術となることを期待しているという。2年後のデビューが楽しみである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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