車の最新技術
更新日:2024.07.15 / 掲載日:2024.07.15
アルピーヌ、再起動の戦略と技術【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●アルピーヌ
2018年に復活したアルピーヌ・ブランドは、2022年にルノーが発表した事業戦略によってBEV専売のハイエンドブランドになることが決定した。ルノーは事業を5つの柱に分け、BEVとソフトウエアは新たに設立した「アンペア」という会社が受け持つ。エンジン車とハイブリッド、商用車は中国・ジーリーとの合弁会社が担うことになるという。後の2つは財政・金融、循環経済といった分野だ。
現在はエンジン車でミドシップのライトウエイトスポーツカー、A110の単一車種しか展開していないアルピーヌだが、2030年までに7モデルを発売すると表明。BセグメントのホットハッチであるA290、ロータスと共同開発となるA110の後継車、A110のオープン、おそらくそれをベースにした2+2(車名はA310となると見られている)、CセグメントのクロスオーバーSUV、さらに大型のSUVとなる見込み。BEV専売と前述したが、アルピーヌはレーシングカー&ロードカーのアルペングロー・コンセプトを開発し、すでにル・マン24時間レースの場でデモランも行った。これは水素燃焼エンジンを搭載しているので、燃料電池車も含めた水素系のゼロエミッションカーもラインアップする可能性はあるだろう。大型SUVなどは相性が良さそうだ。車名は下二桁が10はスポーツカー系、90はライフスタイル系になるという。

そんな新たなアルピーヌの第一弾となったのがA290。発表の場となったのはル・マン24時間レースの会場内で、フレンチスポーツ・ブランドにとっては最高のステージだ。
アルピーヌの戦略や車種展開はアンペアとも密接に関係している。次期A110にはAPP(アルピーヌ・パフォーマンス・プラットフォーム)が新たに開発される予定だが、A290などにはアンペアが開発する実用車向けのプラットフォームがベースとなる。A290は、すでに発表済みのルノー5と同様のAmpRスモールプラットフォームがベースとなっている。これは既存のCMF-Bプラットフォームをベースに大幅に手を入れてBEV用としたもので、過去にZOE用にBEV専用プラットフォームを開発したときよりも30%以上のコスト削減が図れたという。新たな事業戦略ではコストも重要なターゲットだ。

A290ではトレッドを最大限に拡げてハンドリング性能の向上を図るとともに、サブフレームやサスペンション周辺にアルミニウムを多用することで軽量構造にも注力した。車両重量は1479kg(乾燥重量)でライバルと目されるアバルトやMINIよりも軽いという。前後重量配分は57:43。BEVは50:50に近いことが多いが、FWD(前輪駆動)なので駆動輪に荷重がかかっていることは悪くないだろう。リア・サスペンションはマルチリンク式で、旧ルノー・スポールおよびアルピーヌが得意としてきたハイドロリック・バンプ・ストップが採用されている。ストローク感がたっぷりとしていてタイヤが粘っこく路面を捉え続けるアルピーヌらしいハンドリングが期待できる。

「初めてのBEVでFWDのA290のハンドリングはどんなものを目指したのか? ベンチマークはあるのか?」とエンジニアに質問したところ、「A110をベンチマークにはしているが、FWDなので当然同じではない。A110からアルピーヌらしさというエッセンスを継承しながら、オリジナリティのあるハンドリングを目指した」そうだ。また「トルクの太いBEVとFWDの組み合わせはトルクステアやアンダーステアが心配だ」と告げると「そこは注意深く開発した。駆動系に工夫があって素晴らしいハンドリングに仕上げているので期待して欲しい」とのこと。BEV時代の新たなホットハッチは一体どんなドライビングプレジャーをみせてくれるのか、楽しみで仕方ない。
電気モーターは130kW(177PS)と160kW(218PS)の2種類でバッテリー容量は52kWh。欧州仕様の一充電走行距離は380km以上とされている。日本のWLTCモードは少し伸びる傾向にあるので400km超えもありうるだろう。トルク特性にこだわって開発されていて、出だしが力強いだけではなく、最高出力の170km/hまで伸びやかさが続く加速感とされている。また、ステアリングの赤いオーバーテイク・ボタンを押すと瞬時に最高出力が発揮されるという。回生は青いボタンで4段階の調整が可能。運転しながら使い分けることができる。
欧州での価格は3万8000ユーロ(約650万円)。欧州では年内にも発売されそうだが、日本上陸はチャデモ対応に時間がかかることもあっていまのところ未定。詳細がわかり次第、お伝えしていく予定だ。