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更新日:2023.06.23 / 掲載日:2023.06.23
スバルBRZ MTにアイサイト採用【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●スバル
6月19日、スバルはオンライン説明会を開催して、この秋に発売されるBRZの改良モデルに、スバル自慢の先進安全装備(ADAS)システム「アイサイト」がMTモデルにも採用されることを発表した。
スバルはかねてより「2030年に死亡交通事故ゼロ」を目指すことをアナウンスしてきた。もちろんゼロというのはコミットメントではなく、あくまでも目標ではあるが、それがあくまでも真剣な取り組みであることは明らかだ。

実際、米国での死亡事故でも、日本での死亡重症事故でも、スバル車での100万台あたりの発生件数が業界平均を大きく下回っていることがデータで示されており、また年を追ってその件数が低下していることがわかる。

スバルでは安全性を5つの段階で考え、それぞれの段階で安全性能を作り込むことを重視してきた
- 0次安全 視界の良さ/パッケージ
- 走行安全 動的性能/危険回避性能
- 予防安全 リアルワールド重視
- 衝突安全 乗員保護+コンパチビリティ
- つながる安全 先進事故自動通報/インフラ協調
昨今、この中でも「衝突安全」に関わるADASの重要性が高まる中で、MTモデルを選択するユーザーが多いスポーツモデルのBRZへのADAS装備が残された課題のひとつであったとも言える。そこに対応したというのが今回の発表の骨子である。
ユーザーの立場から見ても、純内燃機関モデルの存続が危ぶまれるこういう時代だからこそ、敢えてMTモデルを選びたい気持ちを持ちながら、長距離ドライブなどの運転負荷を考えると、なかなか踏ん切りがつかずに、諦めるケースはかなりあるのではないかと思う。
筆者も試乗会などでMTに触れると、その度に改めて楽しさを再認識するのだが、やはりいざ購入するかとなると、躊躇う気持ちも強い。
特にこういう仕事をしていると、遠方の試乗会や、サーキット取材はそれなりに多く、丸1日の取材を終え、暗くなってから300キロ400キロの移動で東京へ戻ってくるということも少なくない。
そういう時はせめて前車追従クルーズコントロールで安全・安楽に帰って来たくなるのは人情だ。筆者と似た境遇のそういう人たちにとって、今回のBRZのMTモデルはおそらく福音になると思う。

さて、そのMT用のADASとはどういうものか? 普通に考えて、シフトがマニュアル操作なら、クラッチは繋ぎっぱなしなので、追従クルコンで速度を落として行けばどこかでエンストする。だからこそ今までこうした装備はATモデルに採用されてきたわけだ。
結論を言えば、追従クルコンは車速25km/h以下でオフになる。ただし最低速度制限があるのはクルコンのみで、衝突軽減ブレーキの方は万が一の際に、エンストさせてでもクルマを止める。事故を起こすことを思えば、エンストするくらいなんでもない。
さらにスバルがツーリングアシストと呼ぶ、操舵アシストも付かない。細かく言えば他にもいくつか使えない機能があるのだが、多分購入に際して多少なりとも覚悟しなくてはならないのはそのくらいだろう。とりあえず、レガシィやレヴォーグあたりのフル装備のアイサイトとはちょっと違うことだけは頭に入れておかなくてはならない。
しかしながら、概ね順調に流れている高速道路での移動ならば、ほとんど困ることはない。別にギヤを6速に固定していないと追従クルコンが効かないわけではなく、セットしたままでシフトダウンもアップも可能(1速のみ非対応)で、選択したギヤ比でセットした速度までレスポンスよく調整できるとスバルは説明する。
一般論として、操舵補助は、まだまだ下手な制御をするものもあり、筆者に関して言えば、そういう時は切ってしまう派だし、そもそも操舵補助は手放し運転が可能な機能ではないので、無くてもさして痛痒は感じない。唯一ツラいかもしれないのは渋滞速度域でのクルコンが使えないことだけだろう。
混みそうな時に混みそうな方面にさえ出かけなければ問題はなさそうだし、よくよく思い返せば、社会人になりたての90年頃は、首都高の用賀から谷町まで90分という渋滞表示がデフォルトだった。中央環状も外環道も圏央道もなく、かつ景気のせいで今よりはるかに多くのクルマがひたすら環状線を目指すことが日常だった中で、当たり前のように運転していたのだ。
まあ、昔話はさておき、本題のMT用アイサイトが搭載されたBRZに話を戻せば、生活パターン的にしょっちゅう渋滞にハマる人ならともかく、たまにならちょっと我慢するだけの話である。それと引き換えにクラッチとシフト操作の喜びが返ってくることを楽しめる人だけが選べば良いのであって、それを渋る人には快適なATモデルが数多ある。
さて、このBRZ MTだが、冒頭に書いた通り、登場は今秋の予定。試乗車が用意されたら是非とも遠出で使ってみたいと思っている。