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更新日:2023.04.14 / 掲載日:2023.04.14

e-FUELって何だ?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ポルシェ

 3月25日。欧州委員会はe-FUELの使用を前提に、「35年以降も内燃機関の販売を容認する」ことでドイツ政府と合意した。このニュース以来、e-FUELという言葉が頻繁にニュースに流れてくる様になった。さてこのe-FUELとは何か?

 という話が今回の本論なのだが、その前に激論になっているこの話について、簡単に整理をしておこう。まず「これからはe-FUELが主流。BEVはオワコン」みたいな意見はだいぶ見当違い。BEVは全然終わらない。カーボンニュートラル実現のための主要な選択肢のひとつであり続ける。

 一方で、「e-FUELの存続は内燃機関反対派を懐柔するただの方便で、価格的にエネルギーとして非現実的なe-FUELを残して妥協した振りをしただけで、内燃機関は絶滅する」というのも苦しすぎ。せっかく廃止の方向にあった話をわざわざ後退させるメリットはない。

 常識的に考えて、BEV以外一切認めない規制にしたら、社会が必要とするモビリティの数量が全く足りなくなる。だから不足分については、何らかの代替案を用意しなければ社会が持続できない。今後BEVを最大限作っても、まだ足りない分を補完する何らかのモビリティが必要で、水素も燃料電池も十分な普及にはまだ時間が掛かる現状では、内燃機関で賄う以外の選択肢をわれわれはまだ持っていない。

 要するにBEVをどこまで増やせるかに全力を挙げてチャレンジしてみるのは良いとして、しかし、それが世界の実需に届かなかった時の保険は、何か考えておくべきという現実路線としてe-FUELが残されたという理解でよいだろう。価格の問題は事実としてあるが、いま欧州各国の自動車メーカーがBEVのプロジェクトで直面している大規模な赤字問題を考えれば、おそらくは現在の意欲的すぎる取り決めラインはさらに後退せざるを得なくなるだろう。

 さて、本論に戻ろう。e-FUELとは炭化水素系の合成燃料の一種。e-FUELの話の前に合成燃料の説明もしておく必要がありそうだ。合成燃料にはさまざまな種類がある。組成で大きく分類すれば2種類で、炭水化合物の系統と、水素系化合物に分かれる。またそれらの製造方法で生物由来のバイオ系と、再生可能エネルギー由来のものがある。

 さて、その中のひとつであるe-FUELにもいくつかの作り方があるが、そもそもが水素と炭素を化合させて作るものなので、水素をどうやって作るかの問題と、二酸化炭素を大気中から安価に集める方法論の問題がある。

 e-FUELに使う水素の調達方法で、最も話題に上りやすいのは、水を再生可能系の電力で電気分解する方法だ。その他に化石燃料を改質して作る方法もあるが、この場合水素を作る際に放出されるCO2を集めて地中に埋める作業が必要になり、まだまだ技術的に完成の域には達していないし、問題は山積みである。

 e-FUELが主流になるとは考えにくいと書いたのはそのためで、だからと言って技術には進歩する可能性が多分にあるし、他のニーズとの兼ね合いもある。例えば大型旅客機を長距離飛ばす可能性で言えば、e-FUELは最有力候補なので、航空機のカーボンニュートラルに取り組むとすれば避けては通れなくなりそうである。となればクルマの一部がそれに相乗りという話は当然でてくることになる。

ポルシェは、チリにe-FUELのパイロットプラントを製造し2022年12月から工業生産を開始。年間270日程度風が吹く気候を生かし、風力発電の電力を活用している

 さて、この辺りの話を説明しだすと、問題が数珠繋ぎで発生して面倒なのだが、カーボンニュートラルも説明の必要がありそうだ。例えば、e-FUELと内燃機関の組み合わせであれば、燃焼によるCO2の排出は避けられない。実はe-FUELのみならず、炭化水素系化合物の燃料であれば、例外なく避けられない。一方で、CO2を出さないのは水素系化合物で、例えばアンモニアと水素などだ。

 さて、しかしe-FUELの場合、燃焼時に発生するCO2は、先に述べた通りe-FUELの合成製造時に大気中から調達されるので、e-FUELはCO2排出について中立になる。わかりやすく言えば「大気中のものを大気中に返しただけ」で増やしているわけではないということだ。

 では増えるケースとはどういうケースか。簡潔に言えば、地中に安定的に埋まっている化石燃料を使うことだ。それ以外の方法。例えば地上の動植物由来の原料から作る合成燃料、例えばバイオ燃料、バイオエタノールなどは、カーボンニュートラルだし、再生可能電力で電気分解した水素と大気中のCO2を化合させて作るe-FUELもまたカーボンニュートラルである。

 これらの燃料の総称をカーボンニュートラル燃料(CNF)と呼ぶが、現状ではそのほとんどは高価である。e-FUELはその中でも高い部類に入る。逆に既存のガソリンとほぼ価格が変わらないのはバイオエタノールで、70年代から主にブラジルで普及が進み、現在ではブラジルで販売されているクルマはほぼ例外なく、ガソリンとバイオエタノールのどちらでも走ることができるし、どちらにどちらを継ぎ足ししても問題がおこらない。

 その上、ブラジル国内で消費されているバイオエタノールの6倍にあたる生産余力もある。ということで、CNFですぐに頼りになるのはバイオエタノールだけというのが現状だが、全ては今後の技術開発次第である。と言う意味では、番狂わせだってないとは言えない。現在最も優勢に見えるBEVであっても、今のバッテリー性能と価格のまま進歩の歩みが止まれば、新たな挑戦者によって、次世代ではその地位を転がり落ちても不思議はないのだ。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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