車の最新技術
更新日:2023.03.13 / 掲載日:2023.03.13

【ホンダ インターナビ】震災で学んだつながるクルマの有用性【石井昌道】

文●石井昌道 写真●ホンダ、石井昌道

 自動車産業は100年に1度の大変革期を迎えていて、その要になっているのがCASE(C=コネクテッド、A=自動運転、S=シェアリング、E=電動化)。

 そのうちのコネクテッドは最近になって本格化してきているが、1990年代からテレマティクス(通信ネットワークによる移動体への情報提供サービス)として取り組みが始まり、2000年代には実際のサービスも開始。有望な技術および情報サービスとして注目されていたが、走行中のクルマの位置や速度など様々なデータをネットワークで集積して渋滞情報等に活用する車両プローブデータは、いまではグーグルマップやYahooカーナビ、NAVITIMEなどの地図アプリなどで使われるのはもちろん、従来型のカーナビに取り入れられていることもある。
 自分が総合司会を務める「自動運転Liveニュース」の第6回つながるクルマたちとリアルな地図の関係では、長年に渡ってホンダでカーナビとテレマティクスの開発に携わり、現在は一般社団法人うごく街 代表理事の今井 武氏をゲストに招き、「カーナビの進化と、そして人とクルマと社会がつながる」というテーマでプレゼンテーションをしていただいた。

 ホンダは1981年に世界初のカーナビを登場させ、1990年代には広く普及していったが、2大クレームは新しい道路や施設ができても地図が更新されない、渋滞を避けたルートを誘導しない、ということだったという。カーナビとインターネットが融合したインターナビは1997年に発表されているが、それを発展させていって2001年には通信型カーナビと独自の情報センターを立ち上げ、2003年にはプローブデータ交通情報サービスを開始した。
 それまでの渋滞情報はVICS(道路交通情報通信システム)によるもので、道路に設置されたビーコン等のインフラで収集した情報を、カーナビ等に提供していたが、プローブデータ交通情報サービスは、クルマをセンサーにして、そこから得られる走行軌跡データでVICS情報を補完。VICSではインフラが設置されている道路のみの情報しか得られなかったが、プローブデータはインターナビ搭載のクルマが通っているすべての道路の情報が発信される画期的なシステムだった。

 その有用性が図らずも証明されたのが12年前の東日本大震災。発生後は道路の多くが寸断され、VICS用のインフラも役に立たなくなってしまい、災害支援に向かうにしても、どの道路が通れるのか行ってみないとわからず、それゆえ幹線道路など通れそうな道に交通が集中して大渋滞してしまうという悪循環になっていたが、プローブデータは活用可能で大いに役立った。
 インターナビを搭載したクルマが通るとその走行軌跡データがセンターに上がってくるので、その道路は通行可能ということがわかる。裏道的な細い道路でも使えるとわかれば渋滞回避が可能で、交通分散によって渋滞解消にもなる。今井氏が率いたインターナビのチームは、ライフラインとして極めて有用な情報であると判断して、地震発生直後からプローブデータを徹夜で生成した道路情報を「通行実績情報マップ」として3月12日朝に公開。通常はインターナビ会員向けであったデータをオープンにして各省庁や防災機関、グーグルやヤフーなどにも提供した。CONNECTING LIFELAINESと題された動画を見ていただけばわかる通り、時間の経過とともに走行できる道路が増えていく。被災した東北の地に、血管が生成されて血液が流れていくかのようだ。

 じつは自分も、モータージャーナリストの先輩である清水和夫さんを中心としたボランティア活動に参加して、当時の現場で通行実績情報マップを活用してコネクテッド技術の有用性を実感した一人だ。ボランティアは東京の医師会とコラボしたもので、医師、看護師、薬剤師、医療事務で形成する医療チームの、東京・東北の往復、現地での診療所巡回などの車両手配および運転をモータージャーナリストが受け持つというもの。多くの医療チームは自分達でクルマを用意して運転していたが、被災地の過酷な道路状況のなかでは運転負荷が大きいので、それを引き受けたのだ。


 宮城県石巻の湊小学校の避難所を拠点としていたが、医療チームが宿をとれたのは30kmほど離れた松島で、毎日通わなくてはならない。その区間の幹線道路は自分が現地入りした4月後半でも朝夕の渋滞がひどく、そこを通っていたら2〜3時間はかかるところだったが、通行実績情報マップを活用して一部未舗装の細い山道なども走って1時間強で行き来できた。湊小学校だけではなく、付近の小規模な避難所の巡回、石巻圏合同救護チームが置かれた石巻赤十字病院での毎夕のミーティングへの参加などで、クルマ移動をしていたが、そのすべてで通行実績情報マップが役立った。
 使用する車両は、モータージャーナリストやメディアが、普段は撮影や取材などで自動車メーカーおよびインポーターから拝借する広報車を提供してもらった。混乱していた当時に、スムーズに車両提供を受けられたのは大きなメリットだった。そのうち、ホンダ車はインターナビを搭載していたので、カーナビで通行実績情報マップを活用できたが、自分は2010年5月に発売された初代iPadを持っていたので、どのクルマに乗っていてもグーグルマップで通行実績情報がわかり、医療チームの移動をスムーズにこなすことができた。もう12年も前のことになるが、コネクテッドがいかに有用であり、社会にも貢献できる技術だということを実体験させていただいたのだ。

 東日本大震災の発生から1ヶ月以上経っての現地入りでたった5日間のボランティア活動だったが、被害の大きさに衝撃を受け復興には時間がかかりそうだと痛感したとともに、湊小学校の避難所では自衛隊による臨時風呂開設やボランティアによるバーベキューなどさまざまな支援の仕方を見たり、石巻赤十字病院では災害医療チームの大きな役割を知るなど、他では得られない経験をさせてももらった。
 車両プローブデータによる通行実績情報マップは災害発生後に役立つものだが、その後は災害発生時に救える命を救う取り組み、データ融合による災害タフネスのあるモビリティ社会支援研究などがなされている。データの利活用やコネクテッド技術は、これからもモビリティおよび社会を発展させていくはずだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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