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更新日:2023.02.06 / 掲載日:2023.02.06
【プリウスPHV】HVとの違いと試乗してわかったこと【石井昌道】

文●石井昌道 写真●トヨタ
2023年1月10日に発売され、すでに注文が殺到しているといわれるプリウスに続き、3月にはプリウスPHEVが発売される。
プリウスのプラグイン・ハイブリッドは2代目プリウスのときにプロトタイプで公道での走行実験を始め、3代目プリウスでは2009年にリース販売、2012年に市販を開始。4代目プリウスは2015年12月にフルモデルチェンジとなったが、PHVはしばらく3代目が継続販売され、2017年2月に4代目ベースのモデルが登場という経緯がある。

これまでに比べれば、ベースとなるHEV(ハイブリッド)と発売のタイミングが近いということになる。また、以前はハイブリッドは HV、プラグイン・ハイブリッドはPHVとしていたが、今回からHEV、PHEVと表記を変更。エレクトリックを意味するEを入れたほうが電動車というイメージが高まるという狙いがあるとともに、他社でも多く使われる表記となった。
最初に登場したプリウスPHVでは、日本の乗用車の一日あたりの平均走行距離は25km程度で、日常のほとんどをガソリンいらずで過ごせるという意味でEV走行距離を26.4kmとしたが、実際にユーザーの声を聞くと少々面倒な充電という行為をするわりには恩恵が少ないと感じ、あまり充電しないで使っているという人が多く、それでは元も子もないということで、4代目では倍以上のJC08モードで68.2km、WLTCモードで60kmへ。そして5代目プリウスベースの新型は、さらに1.5倍増を目指して開発された。

バッテリーはRAV4PHVが96セルで18.1kWhのところ、72セルなので13.5kWh程度。先代の8.8kWhから1.5倍強であり、EV走行距離は90km程度だろう。ここまでくれば、充電したのにちょっとしかEV走行できないという声は聞かれなくなりそうだ。先代では急速充電に対応していたが、新型は非対応。家庭で夜間に普通充電することで十分な使い勝手であり、急速充電でBEVユーザーにひんしゅくを買うこともなくなる。
5代目プリウスは虜にさせる走りが一つのテーマであり、ハイブリッドシステムは第5世代へと進化。2.0LエンジンのHEVはシステム最高出力196PS従来の1.8LエンジンHEVに比べて1.6倍の出力で燃費も向上。0-100km/h加速は7.5秒と俊足だ。PHEVはさらに高出力で223PSを誇り、0-100km/h加速は6.7秒にまで短縮される。これまでのプリウスは0-100km/h加速10秒程度で実用車として必要十分というところだったが、新型のPHEVならばスポーツカー並といえる動力性能を身につけたのは驚きともいえる。

プラットフォームは4代目で初投入したTNGAのGA-Cを改良したもので、軽量・高剛性化が図られているが、PHEVではバッテリー搭載位置を変更。従来はラゲッジに搭載されていたが、リアシート下部へと移された。低い位置であり、またリアアクスルよりも前方になったので、運動性能向上には大きく寄与。ラゲッジスペースを犠牲にすることもない優れたパッケージにもなっている。

新型プリウスHEVには、以前にプロトタイプを富士スピードウェイのショートコースで、また今回は公道で試乗。従来に比べるとハンドリングも大幅に進化したことを確認したが、今回、PHEVの新旧を袖ケ浦フォレストレースウェイで比較試乗してHEV同様に進化していることを実感した。
新型はフロント周りの剛性感が高く、舵の効きが抜群にいい。また、コーナー進入時の姿勢が安定している。比べると従来型は前のめりで後ろがめくりあがるような姿勢でコーナーをスムーズに走るにはちょっと向いていない面があったが、新型はホットハッチのような気持ちのいいハンドリングなのだ。
タイヤは2.0L HEVと同様、195/50R19という特殊なサイズ。BMW i3用にブリヂストンが開発したオロジックというコンセプトのもので、外径は大きいが幅は狭く、転がりやすく空気抵抗が少ないということで燃費改善を図りつつ、それでいてグリップ力もあるというものだ。新型プリウスではブリヂストンのほか、ヨコハマタイヤからも供給される。
加速はプリウスとは思えないぐらいに強力で腕に覚えがあるドライバーでも満足するだろう。タイトコーナー立ち上がりでアクセルを踏みつけるとイン側がホイールスピンするので、LSD(リミテッドスリップデフ)が欲しくなるぐらいだ。
HEVでは4WDが用意され、リアからも押されて無駄なく加速していけるがPHEVでは、バッテリーをリアシート下に移動し、従来はそこにあった燃料タンクがリアアクスル付近にいったため、4WD化のためのスペースがないのが残念。低全高でパッケージングも追求したモデルなので、けっこうなブレークスルーがないと実現は不可能だろう。PHEVでは回生の強度が3段階用意され、設定で切り替えることができる。ワンペダルドライブのBEVほどには強い回生にはならないが、好みに細かく合わせられる点は嬉しい。
ドライバーズカーとして進化した一つがブレーキフィールだ。HEVやBEVの回生協調制御は、モーターで減速度を生み出す回生ブレーキと一般的な油圧ブレーキが協調するのだが、フィーリングが変化するのが課題だったが、新型では従来の蓄圧タイプからオンデマンドポンプ加圧タイプに換装。リニアな増圧特性となったため、扱いやすくフィーリングが一定しているのだ。スポーティに走らせるときに扱いやすくなっただけではなく、たとえば赤信号で停止するときなども自然な感覚でスムーズに減速できるようになった。
これまでは思うように販売が伸びなかったプリウスのプラグインハイブリッドだが、RAV4 PHVの例を見てもわかる通り、引っ張りだこになるのは必至。昨今の半導体不足等による生産遅れはまだ解消の目処はたっていないので、気になる人は早めに動くべきだろう。