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掲載日:2023.01.20 / 更新日:2023.01.20

BEV全能論が怪しくなってきたのは何故か?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産、トヨタ

 我が国で、電動化が激しく議論されるようになったのは、2020年に当時の菅義偉首相が、所信表明演説で、新たな政府方針を発表してからだ。

 “菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります。
 我が国は、二〇五〇年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち二〇五〇年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。
 もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。”(首相官邸HP 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説より引用)

 乱暴にまとめてしまうなら、グリーン政策は補助金を思い切ってばら撒けば、それをきっかけにキャズム(リンク先:外部サイト)を超えて、一気にアーリーマジョリティへの普及が進み、ひいては経済成長が可能であるという考え方である。ここですでにキャズムを超えることが確定であるかの様に述べて、その先の薔薇色の未来を言い出したことはあまりにも危ない。

 そんな架空の未来に国民の未来は付託できない。そう強く思ったからこそ、その時期から筆者は、BEV全能論に強く反対し始めたのである。

 そもそも、菅政権のグリーン成長戦略が機能するには重要なポイントがある。ひとつはBEVのユーザビリティが既存製品より上がっていること。多分その不備を挙げ始めれば色々あるのだが、少なくともイニシャルコスト、航続距離、充電時間の3点においては、勝負にすらなってない。

 安価なファミリーカーとしてBセグメントを求める様な最もポピュラーなユーザー層に対して、BEVは商品を提供できてない。そのため車両価格200万円のハイブリッド車、アクアに対して、国内で買える最も安い登録車のBEVは、Cセグメントの日産リーフである(SAKURAを持ち出して説明するならば、同じ軽カテゴリーの廉価モデルは90万円台という話になる)。

 充電時間と給油時間の差に関してはもう書く必要すらあるまい。

 で、問題はここで明らかに負けているという事実を、数字で比較せずに、強弁してなんとかしようとするからおかしくなる。BEV推進論者が過去に述べてきたのは「2021年にはBEVは驚異的な価格破壊を起こして、内燃機関車を買う経済合理性がなくなる」とか「BEVの価格は1/5になる」いう話だったが、未だに倍以上の価格差があって、少なくとも経済合理性から見る限り、BEVを選ぶという選択肢はありえない。

 航続距離に対しても同じだ。「航続距離はすでに十分足りている」と主張するか、若しくは、価格帯の全く異なる1000万円オーバーのモデルを持ち出して、800キロ程度の航続距離を主張する。いずれにしても突きつけられたファクトとして4倍の航続距離を無視する理由にはならない。庶民のアシの話をしているのであって、趣味のクルマの話をしているのではないのだ。

 そういう無理やりな嘘みたいな話をしても仕方がない。上で参照したキャズムの解説でも書いてある通り、“ニッチだけれどニーズはハッキリしている狭い市場をターゲットに”すれば良い。運用方法がBEVにマッチするユーザーに一歩一歩きちんとアピールすれば良いだけの話なのだ。

 戸建てで、自宅に充電器があって、航続距離が制約になるような使い方をしない人で、かつ経済的余裕があって、イニシャルコストが気にならない人が、ドライブフィールなり社会的意義なりを感じて購入すればいいだけの話である。何度説明しても筆者はBEV否定論者のレッテルを貼られるが、使い方がBEVに向いた人が大いに楽しみ、その範囲において普及が進むことは大いに奨励したいと思っている。

 ただ、上に挙げた様に、現実のユーザビリティにおいて、まだまだ、ユーザーを選ばずに普遍的な「破壊的イノベーション」をもたらすには道が遠く、内燃機関を滅ぼして、置き換わるとかの威勢の良い話は止めておくべきだと。

 ましてや、菅政権において、隙あらば内燃機関完全撤廃へと献策をし続けた「再エネ議連」の動きを見ると、綱引きの結果、法案をなんとか「ハイブリッドは存続」に押し留めたことは本当に薄氷の結果だったと思う。法や規制を決められる人たちが夢見がちだと国民が見せられるのは悪夢である。

 どうしても破壊的イノベーションを起こしたいなら、BEVに力を入れているメーカーが先頭を切って、200万円以下で、航続距離が1000キロ超えで、5分で最低500キロ走行分の電力を充電できるモデルを出せばいいだけの話である。

 筆者はそんな無いものねだりでメーカーを困らせるよりも。今のBEVの適性に応じたユーザーが、現実の性能の範囲で日々楽しく使えば良いと言っているだけなのだ。今できることでやって行くしかない。人も組織も、いつだって現有戦力でしか戦えない。生まれ変わって「異能を獲得して無双」みたいなことをいくら言ってもしかたがない。アニメじゃないのだ。

 さて、ではこの2年で何が現実として突きつけられたのか? それは出発点を「世界はすでにBEVに舵を切った」から始まる議論の見直しである。

 ワイオミング州に至っては「2035年までに“EVの販売を”段階的に禁止」する法案が提出された。州の主要産業である石油や石炭を守るためである。欧州自工会は「2019年時点で約61万台(全体の0.25%)にすぎないEUの温室効果ガス排出ゼロ車をわずか10年で約50倍にするというもので、現実的ではない」と批判しているし、ステランティスとボルボは、それぞれ「クリーンかつ安全で、手頃な価格でのモビリティの実現が、危機に瀕している」、「充電インフラの整備状況から内燃機関の新車販売禁止は時期尚早」として欧州自工会から脱退し、独自の戦略を進めていくとしている。

 これは脱炭素強行派の欧州委員会と、それに弱腰に防戦する欧州自工会のロビー合戦にはとても付き合っていられないという判断で、欧州自工会の「現実的ではない」程度の反論では、まだまだ手ぬるいとする決定だろう。経営に与える変化が大き過ぎて、業界団体の合議には任せていられない。独自の判断で速度をもって決めて行くという選択だ。

 日本の自動車メーカー各社はもっと遥か以前から、現実的なマルチソリューションを主張してきた。その中で、足元が少し怪しいのはホンダくらいである。

 アメリカでも欧州でも日本でも、世界中で、異論が噴出している現実を全部見て見ぬ振りをして、世界はBEVに舵を切った。出遅れは日本だけと言い募るのは、異様なまでに重篤なポジショントークか、世界の動きに対する無知である。

 これだけの大きな変化を、世界が簡単に合意できるくらいなら戦争はとっくになくなっている。世の中はそんな風にはできていない。常識があればわかる話だと思う。それぞれの思わくも、経済事情もある中で、振り幅が極端な決定に着地するのは難しいのだ。

 世界の脱炭素を無視して良いと言う意見はおそらくごく少数派に過ぎない。だからそれぞれの思う脱炭素を現実的に進めて行くことには誰も反対しない。問題なのは何が現実的で何が現実的ではないかの判断がそれぞれに違うことだ。乱暴な極論ではなく、現実的なプランを今ようやく議論すべき段階に至ったと思えば、脱炭素の議論の大きな進歩と捉えることができるのではないか。

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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