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更新日:2026.04.10 / 掲載日:2026.04.10
オイルショック再来? それでもオールEVにはならない理由|池田直渡の5分でわかるクルマ経済

文●池田直渡 写真●トヨタ
ホルムズ海峡危機の影響で、筆者の所にも色んな問い合わせが来ている。正直な話、ここから一年くらいの短期の原油相場がどうなるかはわからない。それがわかるのであれば、原稿なんて放り出して原油先物の売買をしている。トランプ大統領の発言ひとつで乱高下するものを予想しろという方が無茶である。
だからここで書くのはもうちょっと先の長い話。内燃機関のクルマの先行き全般への不安に対する構造的な説明である。
短期の見立てとしては、軍事衝突は経済的制約を強く受けるため、長期化には限界がある。果たして1年以内なのか4年程度なのかはわからないけれど、世界の国々にとって、ホルムズ海峡が閉鎖されたままでの長年月というのは大ブーイングの対象になるだろう。

原油の封鎖は燃料にとどまらない。むしろ深刻なのは樹脂製品だ。医薬・医療や食品などのエッセンシャル製品の包装を含め、現代の物流は石油なしでは成立しない。
短期的な局面で見た場合、ガソリン不足より、医療と食料の逼迫の方が事ははるかに深刻であり、より高い強度の反応を引き出すだろう。それはつまり、この紛争が米国とイランが勝手にやっている他人事ではなく、どの国にとっても実害のある自分事への移行を意味する。
実際、時事通信などの報道によれば、すでに国連安保理の決議案では、ホルムズ海峡におけるイランの威嚇や攻撃は「国際平和と安全への脅威」とされている。中国とロシアが拒否権を発動したことで、武力行使容認による商業船の護衛活動に国連加盟国が協力する決議は否決されたが、このままだとイランは世界の敵にされる可能性が大である。そして時間経過とともに中露がイランに協力する政治コストが上がって行く。
それでもイランが長丁場を望むのであれば、一部封鎖を解くことで、多少なりとも反発を逸らすしかないはずで、中露はその妥協を手柄にしたがるだろう。つまり、原油が完全遮断されたままになる可能性はそう高くない。そっちへ進めばどうしたってエスカレーションを起こし、連合軍によるイラン包囲網戦に発展してしまう。
さてこの原稿の本題はもっと長期の話である。これはずっと書いているけれど、「ガソリンが無くなりました」を前提にしたところで、全数をEVに振り替えるのは不可能だ。それはつまり「ガソリンも足りないがEVの資源も足りない」という話だ。
日本経済新聞などの報道によれば、2025年のグローバルな電池生産能力は3930GWh。EV1台のバッテリー搭載量を60kWhとして割り算すると、おおよそ6550万台分。これは世界の年間新車販売(約1億台)と比べると、理論上でも3分の2程度にしか届かない規模だ。つまり、電池生産能力をフルに使い切ったとしても、「全ての新車をEVに置き換える」には物理的に足りていない。
うるさい事を言えば、本来は“生産能力”であって実績値ではない。設備稼働率や歩留まり、用途の分散(定置用など)を考えれば、実際に自動車動力用に振り向けられる量はさらに少なくなる。が、そこを大甘に見て能力通り作れたとしても、世界の新車販売1億台には数千万台足りない状況は変わらない。したがって、バッテリー供給という兵站に大アキレス腱を抱えるEVはバッテリーの供給可能量を超えては成長できない。そしてそうした原材料そのものが今や戦略物資で、EVバッテリーはすでに6〜7割を中国企業が供給している。さらに材料レベルでは依存度はより高く、正極材は約9割、負極材はほぼ中国が握っている。原油が止まるリスクをバッテリーが止まるリスクに置き換えて安心していいのだろうか。
以上を踏まえると、ガソリン危機となれば多少の追い風にはなるだろうが、だからと言って道路を走るクルマの全てがEVになる様な話は、現実の資源供給をベースにすれば、この前提自体が成立しない。そもそもリチウムなどの原材料が、帽子に入れてポンと叩けば2倍になるような話でない限り難しいだろう。
仮にEVが誰の予想をも超えた大躍進をして世界の新車の半分=5000万台に達したと仮定しても、残る5000万台のクルマをどうやって走らせるかのソリューションの必要性は変わらない。これまで化石燃料で良しとしてきたが、それを多少なりともカバーする方向へ進むのであれば、結局代替燃料の普及を進めるしかない。おそらくはバイオエタノールを中心とする多様なカーボンニュートラル系燃料を配合したドロップイン燃料になるだろう。

おなじみの話で恐縮だが、ブラジルではすでにバイオエタノールは市場価格でガソリンと十分戦えており、要はアルコールなので、農業国ならどこでも作れる。すでに米国はトウモロコシを原料とするバイオエタノールの輸出に向けてロビー活動を始めており、貿易上の利益を視野に入れた体制に入っている。
今すぐにホルムズ海峡問題に対策することはなかなか難しいが、安全保障危機の経験に学んだ結果、一種類に依存するのではなく、多様化する方向へ。それはつまりEVもカーボンニュートラル燃料も、そしてその内燃機関もハイブリッドなどの省燃費策を取ると言ったマルチパスウェイの方向へ進むという結論になるのではないか。
われわれが今回の事態から学ぶべきは、単一の正解に賭ける時代は、すでに終わっているということなのだと思う。エネルギーもモビリティも、単一解ではなく「分散こそが安全保障」である。