車のニュース
更新日:2026.01.30 / 掲載日:2026.01.30
日本の自動車産業激変の秘策【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日本自動車工業会
1月22日、日本自動車工業会(自工会・JAMA)は、佐藤恒治(トヨタ自動車社長)新会長の下で、初めてとなる説明会を開催した。
この日公開されたのは「新7つの課題」。前会長である片山正則いすゞ会長が就任時に制定した「7つの課題」の枠組みを広げ、2年分の時代の変化を取り入れてアップデートしたものとなった。オリジナルの7つの課題は、日本の自動車産業が直面する「避けては通れない重要な課題」を定義したもの。
詳細は省くが、そもそもの話をすれば、2018年に前々会長となった豊田章男トヨタ会長が、起こした改革が起点である。自工会が本当に日本の自動車産業に有益な組織になるために、豊田会長はまず、自工会の最高決定機関である正副会長会議を担う正副会長職に各社の現役社長が就任することを求めた。それに次ぐ理事職も同様である。つまり以下の14社の社長が集って日本の自動車産業の未来を考える機関になったということである。

- いすゞ自動車株式会社
- カワサキモータース株式会社
- スズキ株式会社
- 株式会社SUBARU
- ダイハツ工業株式会社
- トヨタ自動車株式会社
- 日産自動車株式会社
- 日野自動車株式会社
- 本田技研工業株式会社
- マツダ株式会社
- 三菱自動車工業株式会社
- 三菱ふそうトラック・バス株式会社
- ヤマハ発動機株式会社
- UDトラックス株式会社
自工会の加盟会社は、全てが同業のナショナルカンパニーであり、当然相互に競合社である。それぞれ個社の方針があり都合がある。だから業界団体である自工会は、加盟各社の顔色を見るばかりで、以前はイニシャティブが取ることができなかった。
しかし、一方でグローバルな競争は激化しており、また当時はCASEやMaaSによる100年に1度の大変革への対応が危惧されていた。個社では戦いきれない大変化が訪れていたわけで、当然会社の垣根を超えた「協調と競争」が求められていた。
故に、豊田会長は、まず決裁権のある各社の社長が、自工会の6名の正副会長として膝を突き合わせ、日本の自動車産業全体に関わる課題を議論できる場を作ったのである。
豊田会長のこの変革を継承して、片山会長の7つの課題として具体化され、佐藤新会長の下でさらにブラッシュアップされた新7つの課題が今回提議された。以下に各項目を挙げ、解説する。
1.重要資源・部品の安全保障
世界が政治的、経済的に分断化される中で、自動車産業を支える原材料や中間部品の調達が揺らいでいる。この問題に加盟全社で歩調を合わせて解決にあたる。
2.マルチパスウェイの社会実装
化石燃料消費量のリデュースを実現していく中で、主に外部電力に依存するBEVやPHEVなどに、インフラ電力や充電設備の整備を進める他、カーボンニュートラル燃料についても「作る・運ぶ・使う」などの課題に取り組む。こうした問題を各社一致して社会に実装することを推し進める。
3.CEの仕組みづくり
CE(サーキュラーエコノミー:循環型経済)を目指すための、ルールと技術を整え、事業化に向けて調整を行う。課題の整理、再生における仕様やデータの標準化、国内循環のボトルネックの確認と支援制度の制定などを、協調して進める。
4.人材基盤の強化
自動車産業におけるソフトウェア人材不足問題に取り組む他、少子化にむけた人材不足の中で、自動車産業の就労魅力を高める取り組みを行う。
5.自動運転を前提とした交通システム確立
自動運転の実現に向けた、ルールや体制の確立について、関係省庁含め、業界横断で枠組み作りに向き合う。またそれに伴う通信や運行管理などの具体的な交通システム基盤のすり合わせを進める。
6.自動車関連税制抜本改革
増築に増築を重ねて課税根拠が薄弱、もしくは失われた項目が多い複雑な税制度を簡素化し、担税者に納得感のある税制度を提案する。合わせてガソリンと軽油の消費を前提にしてきた制度により、非課税領域が多すぎたBEV、FCEVなども織り込んだ新しい公平な制度を具体化する。
7.サプライチェーン全体での競争力向上
業界全体で、大胆な「エンジン部品の標準化」「半導体の仕様、情報基盤」「サプライチェーン間の物流」などを標準化し、より低コストで、高レジリエンスなサプライチェーンへの転換を急ぐ。

つまり新7つの課題は、日本の軽を含む乗用車、トラック、二輪車メーカー全社の社長が、産業全体の協調を前向きに考え、ある意味挙国一致でモビリティ産業の強靱化を具体化できる組織に変わろうとしている。
もちろん彼ら一社を率いる社長は、そこに競争領域があることをよくよく理解した上で、オールジャパンの総力をもって世界と渡り合うシステム作りを進めているのである。
そして、こんなことは世界のどこでもできていない。自工会がこうした「協調と競争」の調整基盤として機能すれば、日本の自動車産業は突出した結果に到達する可能性がある。極めて明るいニュースだ。
なお、文字数の関係で書ききれなかった、変革のインサイドストーリーや、改革の詳細については有料note「ぜんぶクルマが教えてくれる」の中で記事化してあるのでさらに詳細を知りたい方は以下のリンクまで。
