車のニュース
更新日:2025.12.26 / 掲載日:2025.12.26

欧州の内燃機関禁止撤廃と次期ロードスター【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 2025年12月16日、欧州委員会は2023年以来堅持してきた「内燃機関禁止」を撤回した。まあ妥当な判断である。

 翻ってわが日本はどうかと言えば、どうも純ガソリンエンジンをどう扱うかが明確になっていない。というより、このまま行くと、何らかの電動システムを持ったクルマ以外は、明文化されないまま自主規制に追い込まれそうな勢いである。

 2020年12月10日、経済産業省は、自動車メーカー役員や有識者を招いた検討会を開催。この直後に大手マスコミが一斉に報じたのが「30年代半ばにガソリン車新車販売禁止で調整中」というニュースだった。

EUの2035年内燃機関車新車販売禁止撤回を受けドイツ自動車工業会(VDA)が朗報と評価したプレスリリース

 年が明けた2021年1月の施政方針演説で、菅義偉首相は「2035年までに、新車販売で電動車100%を実現いたします」と宣言した。ここで言う電動車はハイブリッド(HEV)およびマイルドハイブリッドを含むのだが、この発言が生きているとすれば純内燃機関のクルマは販売ができなくなるという話になる。

 欧州の発表を受け、木原稔官房長官は、17日の記者会見で、国内メーカーが「世界市場の実情に応じて、電気自動車(EV)やHEVなどの多様な選択肢を追求することを期待する」と、これまた純内燃機関の扱いについて言及しない玉虫色の発言を重ねている。

 カーボンニュートラルそのものは放り出すべきものではないので、Cセグ以上のクルマはまあHEVでもいいのかも知れないが、一方で現在欧州各国が日本の軽自動車に注目している様に、現実的にCO2を最短で減らすことを考えれば小さく軽いクルマというアプローチは十分評価できるはずであり、わが国の強みでもある。

 ここで観念論的に、内燃機関を禁止して、つまり全てを電動車にとすると、クルマは大きく、重く、高くなる。問題の本質がCO2の排出量なのだとすれば、ここでカーボンニュートラルの達成技術に広範な網を掛ける意味はない。むしろ、本質に従って、車両重量クラス別のCO2排出量基準を決めれば良いのではないか。

 現在、軽自動車もやむ無くHEV化に向かって進んでいる。スズキは明らかにHEV化に舵を切り、これまで「電動技術を使わずに低燃費を実現する」としてきたダイハツも、先日のモビショーで電動化への対応が始まっている。

スズキ アルトのマイルドハイブリッド搭載モデルはWLTCモードで28.2km/Lを達成している(HYBRID X/HYBRID S 2WD)

 しかし、軽自動車の多くに採用されると思われる「マイルドハイブリッドシステム」で、重厚長大にCO2削減効果が得られるかは怪しい。例えばスズキのISGを使ったマイルドハイブリッドシステムの燃費はWLTCで28.2km/L。対するエネチャージモデルは25.8km/L。ちなみにエネチャージとは、回生はするものの補器類用のみに使って、駆動には使わない、つまり分類上は純内燃機関モデルにカウントされる。

 装備も違うので直接比較はできないが、装備が比較的近いモデルで価格差が10万円となっている。希少資源を消費し、価格を上げて得た結果としての「2.4km/L差」をどう見るべきかは意見が分かれるところだろう。

 「小・少・軽・短・美」を掲げるスズキは、国の方針がなかりせば、果たしてマイルドハイブリッドを採用したかどうか。筆者は端的に言って小さく軽いに特化することで実現するCO2削減の道をわざわざ閉じることもないのではないかと思うのだ。

現行型となる4代目ロードスターは2015年5月のフルモデルチェンジから販売を継続している(写真はマツダ スピリット レーシング ロードスター)

 実際この純内燃機関の行方が混沌としていることは、国内自動車メーカーの戦略を混乱させている。例えばマツダは、そのブランドアイコンでもあるロードスターの次期モデルの開発について、5月の軽井沢ミーティングで「未着手」と明言している。歴代モデルがほぼ10年間隔でモデルチェンジしてきたことを思えば、2015年にデビューした現行NDロードスターは新型が現れても良い頃である。

 それが未着手ということは、純エンジン車の存亡が明確になっていないからである。軽さが命のロードスターは、許されるのであれば当然、純内燃機関で行きたい。バッテリーとモーターと制御システムを搭載すれば、現在のパッケージは維持できない。大きく重くなる。それを避けたいマツダは、わが国での純内燃機関廃止の取り下げに期待をかけて引き延ばしている。

 幸いにもNDロードスターは新車発売時に遜色ない売れ行きなので、それが可能だという側面もある。

 2025年。ここしばらくある種の過激さを含んで進んできた内燃機関禁止の流れが、大きく方向を変えようとしている。自動車メーカー各社は政府に対して「せめて足を引っ張るのは止めて欲しい」と言っている。

 今、世界は内燃機関の存続へと舵を切っている。わが国がそれをどうするのか、大きな判断が求められている。わが国の自動車メーカーは、純内燃機関の存続が決まったとしても、野放図にCO2排出問題を投げ出したりはしない。すでに各社はカーボンニュートラル燃料について積極的に研究を進めている。政府がどっちつかずでフラフラしていることが、わが国の大黒柱である自動車産業の足を引っ張ることになっている点について、強く指摘して、本年最後の結論としたい。

 今年一年をご愛読に深く感謝を申し述べるとともに、みなさまにおかれましては、良き新年をお迎えになられる様、お祈り申し上げます。

この記事の画像を見る

この記事はいかがでしたか?

気に入らない気に入った

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

この人の記事を読む

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

この人の記事を読む

img_backTop ページトップに戻る

ȥURL򥳥ԡޤ