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更新日:2025.09.19 / 掲載日:2025.09.19
お台場から始まる東京第2形態プロジェクト【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、三井不動産
9月15日、トヨタ自動車、トヨタ不動産、トヨタアルバルク東京は3社合同で、スポーツスタジアム「トヨタアリーナ東京(以下アリーナ)」の開業記念式典を開催した。
アリーナは、青海駅ほぼ直結、東京テレポート駅至近であり、かつての「メガウェブ」の跡地に建設された、収容人数約1万人のドーム型スポーツスタジアム。B.LEAGUE所属のプロバスケットボールチーム「アルバルク東京」の本拠地である。

今回トヨタ自動車の豊田章男会長にこのスタジアムの構想を聞く機会があり、このスタジアムが単なるプロバスケチームの本拠地として以上に、東京のリデザインに発展するプロジェクトのテストベッドであることがわかった。
アリーナでは、アルバルクのみならず、パラリンピアンが活躍する各種スポーツの舞台や練習場としての機能を果たすことが想定されており、加えてパラスポーツに限らず、これまで脚光の当たらなかったマイナースポーツとスポーツファンを繋ぐ役割を担うことになる。
さらに言えば、こうしたアリーナは例外なく音楽のステージとしての性格も併せ持っている。トヨタでは今年2月から、一般社団法人カルチャー アンド エンタテインメント産業振興会(CEIPA)との共創プロジェクト「MUSIC WAY PROJECT」もスタートさせており、この音楽振興プロジェクトとのシナジーも当然構想に入っていく。
以下長期的可能性で言えば、スタジアム中央上空に設置されたアンドン型の四面巨大ディスプレイを用いれば、eスポーツや、フィルムコンサート、映像における爆音上映など多くの活用可能性がある。スポーツ、音楽、映像など広義のエンターテインメントの発信基地としての多様な可能性を秘めていることになる。



あくまでも筆者の勝手な妄想ではあるが、東京ビッグサイトで年2回開催される動員25万人のコミケとリンクしてのアニメの製作陣や出演者のイベントとあわせて爆音上映などができれば、インバウンドの新たな起爆剤となるかもしれない。
あるいは開催地の関係で敷居の高いモータースポーツイベントやレースのパブリックビューイングだって可能なはずだ。端的に土日も仕事の人が、夜の時間帯に、見逃し配信的にスーパーフォーミュラーやスーバー耐久やラリージャパンの中継をここでパブリックビューイングするとか、活用の可能性は無限にあるだろう。
とは言え、お台場地区は、ゆりかもめと臨海高速鉄道以外の交通の不便さが長年の課題であり、特に埋立地で1区画が大きいこのエリアでは、施設から施設への移動が徒歩では大変なことから、ラストワンマイルをどう快適につなぐかがについてまだまだ改善の余地がある。トヨタではアリーナのお披露目と同日にEVモビリティ「e-Palette」(イーパレット)の発売を発表。同地区で輸送サービスと移動型店舗としての取り組みを始める。

つまりアリーナプロジェクトは、コンテンツと都市、都市内モビリティが一体化された近未来都市の開発プロジェクトであり、それはおそらくウーブンシティの成果をフィードバックさせていく未来計画になっていくことになるだろう。
実はこのプロジェクトにはまだ先がある。トヨタ不動産、三井不動産、読売新聞グループの3社は、築地市場の跡地の再開発を進めている。銀座から東京メトロで2駅3分かつ隅田川に面した築地は、鉄道だけではなく、水上バスなどの船便とも親和性が高い。
しかも陸海だけでなく、空の玄関口として極めて有望なポテンシャルを備えている。築地は海に向かって開けているので、静音性の高い電動垂直離着陸機(eVTOL)のエアタクシーを運用するにはリスクマネジメント上、最適な立地だ。築地と羽田や成田をeVTOLで結べば、東京の国際空港と都心のアクセスが大きく改善される。特に成田の利便性改善は大きい。

トヨタはすでに2020年から米国のジョビーアビエーションに複数回の投資支援をし、累計投資額は8.94億ドルに達しており、日本国内での商業運行開始に向けて準備を進めている。
豊田会長は、アリーナの文化発信基地化とお台場地区のラストワンマイルモビリティ構築を、この築地プロジェクトに向けたテストケースにしたいと意欲を見せている。
豊田会長は社長時代の2018年に米国ラスベガスのコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(Consumer Electronics Show:CES)でモビリティカンパニーへの変革を発表し、矢継ぎ早に事業計画を発表してきたが、パラリンピック支援やイーパレット、ウーブンシティ、ジョビーアビエーション、ミュージックウェイプロジェクト、トヨタ不動産再編、アリーナなどの一見関連性を持たないプロジェクトが、東京の第2形態への進化をもたらす強力なサポートプロジェクトとして、今急速に焦点を結び始めている。

モビリティはつまり人の移動なのだが、移動先に目的がなければ成立しない。その先に見るべきコンテンツがあってこその移動である。トヨタは今その目的と手段の両方をカイゼンして、東京そのものを次の時代に押し上げようとしている。モビリティーカンパニーへの変革の発表から7年。トヨタのビジネスは、次の時代の東京のカイゼンへとその規模を広げつつある。