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更新日:2025.04.08 / 掲載日:2025.04.04

日産ターンアラウンド戦略の勝利条件【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産

 さて、本連載でも何度か取り上げてきた日産の経営見通しに関する話だが、何度か書いてきた様に、明日、明後日に危ないという状況ではない。12月23日のホンダ、日産、三菱の3社会見の時から日産が言い続けているのは、日産は2026年3月締めの決算期までに、自力でターンアラウンドを遂行して、企業として健康体に戻る計画である。

 しかしながら、「日産が経営危機」というメディアの大合唱の前で、日産は厳しい風評被害にさらされてきた。このままでは、会見の時点ではそれなりに実現性があったターンアラウンド計画そのものが怪しくなる。実際、いまの風評の中で日産車を買うことになんら抵抗がないという人は少ないはずで、金融筋の手のひら返しまで考慮すると、本当に厳しい状況に至りかねない。

世界各国のメディアが招待され、経営陣とのメディアセッションを通じて意見交換が行われた

 当然、日産としては「我々は大丈夫です。新製品もどんどん開発しています」という勢いを見せて防戦する必要がある。そこでメディアを集めて、3月24日にまずは次世代「e-POWER」のお披露目を、そして、翌25日には、仕込み中のモデルを一気に見せる舞台を用意した。

 まずはe-POWERから。従来、e-POWERは、高速巡航時の燃費が悪いという点がネックになっていた。街中の加減速が繰り返される条件では、効率の良いエネルギー回生を見せるe-POWERだが、高速巡航となると、減速シーンが圧倒的に少なくなる。その結果、エンジンで発電した電力をひたすらモーターで消費するだけのモードになる。

 そもそも電動化というのは、エネルギー回生に眼目がある仕掛けであり、それはBEVであってもトヨタのTHS2であっても基本的な性格は同様である。かつて欧州メーカーが、「HEVは高速巡航の多い欧州では加減速がないのでCO2削減に貢献できないので向いていない、高速巡航で高い効果を発揮するシステムはディーゼルである」と主張していたとおり、電動化が最大の効果を発揮するのは加減速の多い市街地モードである。減速時にエネルギーを回収するのに都合が良いから、モーターとバッテリーを使うわけだ。

 原則論としてはそうなのだが、基本的な素養はともかくとして、現状でe-POWERがTHS2と比べて高速燃費を不得意としていることは厳然たる事実である。新世代のe-POWERでは、それを大きな課題として克服する開発を行ない、結果として高速巡航燃費を初代比で20%、先代比で15%向上させることに成功した。

 THS2に勝てるかと言われれば、おそらくそこは辛いのだが、今後世界中で続々とデビューしてくるであろう各社のHEVシステムとの比較では、e-POWERは世代を重ねてきた分の優位を築くだろう。車両に搭載して具体的なスペックが発表されるまではっきりしたことは言えないが、おそらくはこれから始まるHEVレースにおいて、上位に入るものと思われる。

北米市場に投入予定の新型モデル群。同時に第3世代e-POWERも投入予定となっている

 もうひとつ新型車である。すでに多くのサイトでご覧になっていると思われるが、車両そのものは今回情報解禁するモデルが15車種、記事化を禁じられているモデルが16車種、計31車種。ただし、後者の15車種には今後の開発の行方がまだ確定していないモデルもある。

 いずれにしても、日産が主張したいのは「明日をも危ない会社がこんなにたくさんの新型車を開発すると思いますか?」という問いかけで、「なるほど日産は大丈夫なんだね」と思ってもらいたいわけである。

 さて、そこでターンアラウンドにどの程度の勝算があるのかという話になるのだが、今回の発表では戦略の更新についての発表は一切なかった。「これだけのクルマを開発している」という覚悟と余力を見せただけだ。

 まずはこれを市場がどう受け取るかである。日産に対する買い控え意識がある程度払拭されないと厳しい。この新世代e-POWERと新型車群が、3月26日に情報解禁されてwebに情報が出始めて以来、それらの記事に付くコメントなどを注意深く精査してみた。少なくとも統合解消の発表時に比べて、日産を応援するコメントは増えている。もちろん否定的なコメントもあるにはあるのだが、一時に比べるとトーンダウンしている様に見える。第一印象で言えば、日産のコミュニケーションは上々の成果を収めていると言えるだろう。

 問題は、ここでユーザーのブランドに対する忌避感をどこまで食い止められるかである。日産ではかねてよりターンアラウンド計画での販売台数を350万台に置いている。それは2023年度の344.2万台という販売実績をベースに、実力値を基準に設定した目標である。見通しとしては楽観的でも悲観的でもない適正なものだったと思う。

 日産のターンアラウンド計画の基礎となるのはこの350万台の目標をクリアできるかどうかにかかっている。これが不可能となると、戦略の根本的な立て直しが必要になってくる。おそらくすでに年度末の3月末日を迎え、内部ではある程度数字を掴んでいるはずだ。この感触を元に5月に発表になる2024年度決算にて、計画の成否に対する日産自身の見通しが発表されることになる。

 もちろん統合が破談になったのは2月のことなので、あったとしても今期のマイナスはそう多くない。むしろ大事なのは2月以降の傾向だ。その傾向を日産がどう受け止めるかである。

 仮に、3月末にイメージ刷新を図る今回の発表を行なったことが功を奏せば、4月から始まった新年度にはあまり大きな影響を及ぼさない予測ができる。ただし判断は難しい。楽観的な予測に対し、結果が悲観的であれば、またもや信用に傷が付く。かと言って、過剰に自虐的な予想をすれば、その予想自体が結果を誘導してしまう。そのあたり本決算での打ち出し方を決めるにはギリギリのタイミングなのだ。さて、日産はそこをどう発表するだろうか。いずれにしても9月の上半期決算ではかなり明確に流れがわかる。ここから半年、日産はまさに勝負の時を迎える。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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