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更新日:2022.03.30 / 掲載日:2022.03.30
【DSオートモビル DS9】流麗なクーペシルエットに包まれたフラッグシップ
文●岡本幸一郎 写真●DSオートモビル
少し前までドイツ勢の寡占に近い状態だった日本の輸入車市場において、このところフランスのメーカーたちがやけに存在感を増してきている。
フランス車が売れている
2021年の日本における販売台数をみても、本稿で述べるDSのみ微減となったものの、プジョーが対前年比で112.3%となる1万2072台を販売し、純輸入車ブランド中で8位につけ、ついでルノーが同128.5%の7666台で同9位、シトロエンが同117.2%の5894台で同12位と、いずれも大きく数字を伸ばした。
以前にも一時期、プジョーやシトロエンが好調な時代もあったが、その後は追いやられた感が強かったところ、近年のフランス勢の躍進ぶりは一過性のものではない印象を受ける。
フレンチラグジュアリーブランドにフラッグシップモデルが登場
さて、フランスの自動車メーカーといえば、ルノー、プジョー、シトロエンという3ブランドという状況が続いていたが、プジョーとシトロエンが事実上いっしょになり、やがてシトロエンのサブブランドとして往年の「DS」の名称が復活し、2015年にはひとつのフレンチラグジュアリーブランドとして独立したのはご存知のとおり。長らくフランスに存在しなかった「プレミアム」と呼べるブランドが誕生したわけだ。
ただし、DS3とDS7のクロスバックの大小2台のSUVのみのラインアップというのは少々物足り感があったのは否めず。そこにプレミアムブランドとして待望されたフラッグシップサルーンがようやくお目見えしたのが「DS9」だ。
車格としてはEセグメントとなり、全長が4940mm、価格が630万円~というと、ドイツ勢あたりと比べるとフラッグシップとしては控えめな印象を受けなくないが、もともと伝統的にフランス車というのはこういうものだ。最近ではドイツ勢もオシャレなクルマが増えているが、DS9のエレガントなたたずまいは一線を画している。
流麗なクーペシルエットに外観でとくに印象的なのはクロームの装飾だ。ボンネット中央ややリアフェンダーからテールにかけて貫くサーベルの意味する「セイバー」と呼ぶラインや、各部に配されたモールには、よく見るとパリの石畳をモチーフとしたという無数の小さな突起を並べた模様がある。これがDS9の外見をより特徴づけている。
インテリア表現は斬新かつ上質さが際立つ
オートクチュールを感じさせる美しいインテリアも独特だ。DS3やDS7クロスバック初めて見たときも驚いたものだが、DS9も期待にそぐわぬ仕立て。よくぞこうした斬新な表現の仕方を思いついたものだとあらためて感じる。いかにも女性ウケもよさそうだ。
インテリアトリムは、ルビーのような深紅のムラ染めレザーで仕立てた上級の「オペラ(OPERA)」と、シックなブラックのレザーにダイヤモンドパターンのステッチを施した「リヴォリ(RIVOLI)」という2つの個性が用意されている。
いずれもシステムオンのスイッチを押すとフランスの時計ブランドB.R.Mのアナログ時計がインパネ上部にパネルを回転させて現れるギミックが付いているのも目を引く。
パワートレインは経済性重視。プラグインハイブリッド仕様も導入
プラットフォームはDS7クロスバックと同じ「EMP2」を拡大した改良版で、2895mmを確保したホイールベースにより、後席もフラッグシップセダンとして十分な広さが確保されている。これだけの上質感と居住性を備えていれば、フランス国内はもとよりDSブランドの導入されている諸外国のセレブも十分に満足できることだろう。
フラッグシップでありながら、エンジンが1.6リッター4気筒ガソリンターボで最高出力が225ps、プラグインハイブリッド仕様で250psというのも、長らく高性能が贅沢とされてきたフランス車らしい側面で、これをどのように受け取るかは見方が分かれそうだが、むしろそこに価値を見出す人も、このご時世ではなおのこと、少なくないことだろう。
思えば、かつてシトロエンにC6という奇抜なフラッグシップセダンが存在し、DS9は位置づけとしてはその再来といってよいだろうが、DS9もユニークながらC6ほどぶっ飛んでいなくて、より幅広い層に受け入れられそうな感じがする。最新のフランス製上級サルーンがどういうクルマなのか、大いに気になるところだ。