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更新日:2023.01.06 / 掲載日:2023.01.06

どうするマツダ?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ

 若かりし頃、当時勤務していた出版社の社長に「マツダの問題は売れる時も売れない時も、想定外だってことなんだよ」と言われて、ああ、なるほどと思ったことがある。初代ロードスターがヒットしていた時だった。

 マツダ自身も、そう数は売れないと思っていたロードスターがヒットした代わりに、絶対に売れなくてはならないファミリアネオが大コケしていたのだから、まあ言われても仕方がない状態だったと思う。

 今は、もうそんなことはない……のならいいが、実はまだそういう想定外は払拭できていない。

 ここ数年進めてきたマツダの戦略は、車種群をラージとスモールに分けて、2つのプラットフォームで全てのクルマをカバーする方針だ。それは中期経営計画でも度々発表されてきている。

 ところがそれが上手く行っていない。問題は「売れない」ことではなく、「売れている」ことだ。現在マツダの屋台骨を支えているのはCX-5である。数年前までは全台数の1/4を占めていたCX-5は今や1/3にまでその勢力を拡大している。

 「いや、売れているのならいいではないか」と思うかも知れないが、CX-5のプラットフォームは初代SKYACTIVの改良版であり、ラージとスモールの第7世代プラットフォームではない。しかしながら、実際に売れて、企業利益に貢献しているので、順次代7世代の技術を取り込んで、改良が続いており、年次改良が施されるごとにその完成度を高めている。

 しかも、当時のマツダの戦略価格を反映して、価格も安い。商品が良くて安いのだからヒットして当たり前。マツダにとってもありがたいことは言うまでもないが、一方で頭痛の種でもある。それはどういうことか?

※CX-5は2012年の初代モデルから第6世代

 マツダは第6世代で、一括企画・コモンアーキテクチャー・混流生産を大々的に取り入れて、コストを抑えながら商品価値を高めた。さらに戦略価格で商品を送り出して、V字回復をやってのけた。

 この成功から次のステージに進む時のキーワードが「高付加価値販売」、マツダが言う「良品適価」である。 戦略的価格→良品適価によって、第7世代商品は第6世代商品より全体に価格が上がった。もちろんマツダ自慢のCO-PILOTや、ADAS(高度運転支援機能)の充実、コネクテッドなど、お金のかかる開発がどんどん増えているので、その分は値上げせざるを得ないのだが、そうやって新しい標準価格のヒエラルキーを見ると、CX-5だけが異質に見えてくる。CX-5と比べるとCX-30が割高に見えてしまう。

 ラージとスモールの2ラインで進める予定にそぐわない。だからマツダはCX-60の廉価バージョンをCX-5から乗り換えやすい価格でリリースした。よく見ると、HEVを含む電動価モデルはそういう値付けにはなっていない。安いのは純内燃機関のグレードだけだ。マツダは中期経営計画の中で、2030年にはグローバルで電動化100%を表明しており、つまり遅くとも2030年までに、これら純内燃機関グレードはカタログから消えることを意味している。

 つまり、CX-5からCX-60への乗り換えを済ませたら、その乗り換え用戦略価格グレードがなくなるということになる。さて、そう上手くいくだろうか?

 マツダ内部の色々な人に聞いてみても、なかなかはっきりしたことを言わないが、現在考えられる選択肢は3つある。第一はすでに述べた様に、CX-60の廉価モデルで顧客をラージ側で上手く吸収させて、CX-5をフェードアウトさせる戦略。

 第二は、北米で発売している、スモールプラットフォームベースのCX-50のナローボディバージョンを、日本を含む他の地域でも発売し、スモール側で上手く吸収してCX-5をフェードアウトさせる方法。第一の戦略と第二の戦略はミックスして行われる可能性もある。

 そして第三の方法は、プラットフォームを3ラインにして、あらたにミドルプラットフォームを立ち上げることだ。しかしながら、プラットフォームを1つ増やすというのは大変なことで、もちろんそう簡単な話ではない。けれども、それがマツダのグローバル販売の1/3を占めるとなれば、コンセプトがどうのと言っている場合ではない。企業の存続関わることもありうる話だからだ。

 今、マツダに対する筆者の最大関心事は、CX-5をどうするのかである。これまでマツダが取り組んできた様々な改革をよく知っている身としては「CX-60を買ってあげてください」という気持ちは重々あるのだけれど、今のCX-5の出来を見ると、そりゃ魅力的だよなぁという気持ちにならざるを得ない。

 さて、マツダは果たして、売れるのも売れないのも想定外という状況からどうやって抜け出すのだろうか?

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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