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車とお金
掲載日:2022.12.09 / 更新日:2022.12.09

無理が通れば……【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●日産

 日産は国内でマーチの販売を終了した。トヨタは一時期アメリカで売るヤリスをマツダ2のOEMに切り替えていた。逆にマツダは欧州で売るマツダ2をヤリスのOEMに置き換えた。一体Bセグメントに何が起きているのだろう?

 補助線として軽自動車の流れを見てみよう。まずは軽トラだ。スバルのサンバーは今やダイハツからのOEM。ホンダはアクティの生産を終了して撤退。

 乗用モデルはどうだろう? マツダは軽自動車の生産から撤退してスズキのOEM。日産と三菱は合弁会社を設立して、モデルを共用化。スバルは生産から撤退してダイハツのOEMという具合で、各社が永らく販売してきたオリジナルモデルがどんどんなくなり、OEMや共用化に収斂しつつある。

 軽自動車もBセグメントも元々利益が薄いモデルである。規模の小さいメーカーがどんなに頑張っても勝負にならない。だから止めるしかなくなるわけだ。そうして台数が作れるメーカーから車両供給を受けて、バッヂを変えて売るのである。

 今、どうやら、すでに軽自動車で現実になったこの流れが急速にBセグメントへと波及しようとしている。背景には原材料価格の高騰があるのは確かだが、二次的にはZEV規制などによるBEV販売台数の義務付けの影響も大きいと思われる。

 原材料価格の高騰は、特にBEVへの影響が大きい。2日にwebに上がったスクープ記事によれば、直近で日産サクラで約10〜16万円、リーフでは約37〜103万円もの値上がりが行われると言う。筆者が日産に確認したところ、公式にはそういう発表はしておりませんとのことだったが、否定もしなかった。話してみた印象としてはビンゴである。

 同記事による未確定情報だが、これによってサクラは最廉価グレードで約249万円、最も高いグレードでは約304万円。リーフでは40kWhの最廉価グレードが約408万円、60khの最も高いグレードでは、583万円と予想されている。しかしながら、日産にしても、この値上げは決してウハウハな話ではなく、爪に火をともす様な厳しいギリギリの価格だろう。

 普通に考えて、ただでさえ長年、高価格が課題と言われてきたBEVをこれだけ値上げするのはキツイ。プレミアムクラスのBEVであれば、100万円くらいどうということもないだろうが、Cセグメント級でモデルチェンジでもないのに(仮にモデルチェンジだとしてもだが)100万円超えの値上げなど前代未聞の事態である。

 ではそれは日本だけで起きているのかと言えば、かのテスラですら、本国で目まぐるしく値上げを続けている有様で、BEVの値上げはもう世界的な現象と言えるだろう。

 それだけの値上げ圧力を受けつつある一方、アメリカのZEV規制がどう言っているかといえば、販売台数の内、2026年には35%を、2030年には68%をZEVにすることを義務付け、目標に満たない場合は高額の罰金を設ける。カリフォルニアに至っては2035年までに100%をZEVにする目標を定めた。これに鑑みれば、「原価が上がった分はまるっと値上げして、ベストエフォートで売ればそれで良い」という判断にはならないのがわかる。目標を達成して罰金を回避するために、なんなら多少の赤字であろうとも売らねばならない。そういう背景判断の上での値上げが上に書いた金額なのだ。

 つまりBEVの時代には、軽自動車のエントリーモデルが250万円。Cセグのつましいファミリーカーが400万円スタートとなる。いや今後の流れいかんによっては、もっと上がる可能性も十分にある。そしてそれでもメーカーは全然儲からない。ユーザーの側に立てば、最低でも250万円が払えない人は、軽の新車すら買えない時代がやってくる。うっかりすれば乗り出しで300万円が見えてくる値段だ。

しかし、問題はこれで終わりではない。すでに書いたようにBEVではメーカーは利益を上げることができない。となれば、どうするかは知れた話で、その分はBEV以外のモデルで利益を上げるしかない。そうなった時、内燃機関を積んだ軽やBセグは当然切り捨ての対象になるわけだ。儲からないモデルはBEVだけで十分。それ以上は要らない。

 しかも、それだけでは終わらない。すでに純内燃機関は存続できないルールになりつつあるので、内燃機関を積んだモデルは、マイルド、ストロングを問わず最低でもハイブリッドとなるはずだ。先に述べたように、主にCセグ以上になる。要するに今普通に売れているハイブリッドのSUVが中心になるだろう。これらのモデルが犠牲にされる。BEVで失った利益を、どこかに転嫁するとしたら、このあたりに穴埋めを求めるしかない。

 つまりBEVはメーカーが決死の覚悟で薄利販売をしても、庶民には手が届かない存在になり、一方でその皺寄せを受けてBEV以外もおそらくどんどん値上げされていく。それは市場原理を歪めたBEV販促規制のおかげである。庶民には手が届かないBEVを買える富裕層だけが、庶民のお布施で下駄を履いた分、買い得価格のBEVを、庶民の税金で賄われる補助金付きで買う世界だ。

 筆者はBEVは普及すべきだと思うが、こんなやり方は異常だと思う。市場原理にしっかり任せて、可能な限り台数を増やすという以上の無理強いは社会の構造をおかしくする。少なくとも上に書いたような流れで事態が進めば、自動車ユーザーの母数そのものが激減し、普通の人はクルマを持たない時代がやってくる。

 そしてその時、寄生生物が宿主を殺して滅びる様な世界が待っている。内燃機関付きのモデルしか買えない人がクルマの所有を諦めれば、補助金の原資はなくなるし、ガソリン税などで賄われてきた道路は、財源を失って整備されなくなるか、BEVに新たな課税をするかしかなくなる。その時は母数が減った分1台あたりの負担は当然増える。それが再びクルマを持てない人を作り出していく。クルマを持てる持てないのボーダーラインはそうやってどんどん引き上げられていくことになるだろう。そんな一部の金持ちの幸せを多くの庶民がひたすら支える様な世界は御免被りたい。

池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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