カーライフ
更新日:2025.08.01 / 掲載日:2025.08.01
自動車保険のコストを下げるには?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●トヨタ、フォルクスワーゲン
こういう仕事をしていると、いわゆるカーライフ系の相談を受けることが結構ある。例えば保険。いわゆるネット加入系の保険に切り替えたいけれどどうかという話。
本質的な話をすれば、ネット系の保険は玉石混交でアフターの中身と掛け金を比較するのが難しい。事故の時どのくらい頼りになるのか。ひどいケースでは事故の話し合いをするアジャスターがそもそも存在しない会社もあると聞く。あるいは相手が無保険だった場合(タクシー会社の中には会社で払う保険料総額を考えると非加入の方が利得が大きいと判断して、専属の交渉部隊を用意し、めちゃくちゃにハードな交渉をしてくる会社があることが知られている)はどうかとか、弁護士特約はあるかなど多岐に渡ったリスク管理が必要で、自分が求める対応が補償内容でできるかどうかは事故が起きてみるまでなかなかわからない。つまり加入時には、本当のところ、費用対効果がわからない。わかるのは実際に事故が起きた時とも言える。
当たり前の話だけれど、こういう「定型評価できないサービス」のコストを削れば掛金は安くできる。一般論で言えば、掛金が安いところは、コストを抑えている分だけアフターが悪い。勘所を押さえたコストダウンで余剰部分だけを削っている会社もあるかもしれないが、多くは加入者の無知に付け込んで、重要なサービスを削り込んでしまっている。あなたがタフネゴシエーターで、「他人に任せるぐらいなら自分でやる」というタイプならばメリットもあるかもしれないが、たいていは餅は餅屋に頼みたいから保険に加入するのだと思う。
究極的な効率を言えば「事故を起こさない客だけを集めて加入させれば、掛金は丸儲け」である。事故への対応コストを完全にゼロにして、金だけもらうのが最高だ。
ネット型保険に限らないがいわゆるリスク細分型保険は「無事故無違反の方だけ入れます」というが、本質的に意図するところはこれで、基本的には安いのでなく、ぼったくりだと筆者は思っている。そういう仕組みだから、一度事故を起こしたら、基本的に次年度から入れない。
そもそも保険とは、相互のリスクをカバーし合う仕組みなので、それをリスクで細分してしまったらリスク層は保険に入れなくなる。リスク層とは、別にしょっちゅう事故を起こしている人だけではなく、免許を取ったばかりの若者もそこに入る。安全運転実績期間がないからリスク層扱いになってしまう。リスク細分型保険が良客だけを取れば、従来型の保険はコスト構造の厳しい客だけで採算を取らなくてはならないので掛け金が上昇する。そして若者はそういう保険以外に選択肢がない。そういう意味ではリスク分離型の保険が若者のクルマ離れの一因になっているとかねてから筆者は思ってきた。

さらに言えば低所得層が任意保険非加入に陥る要因にもなっており、自分や家族が交通事故の被害者になった時、強制保険の範囲でしか補償されない可能性を生み出しているとも言えるのだ。あ、余談だがしょっちゅう事故を起こしているひとを放置するのかというご意見に対してはそれは保険制度の範疇ではなく免許制度の範疇で、当然頻繁に事故を起こしていれば免許取り消しになる。
もとい、原則的には、社会の安全システムとしても機能している従来型の保険を筆者的には推すわけだが、問題は保険料が高いこと。推すからと言って高い掛金を放置しておいていいとは言ってない。実は従来型保険には色々な贅肉がついている。そういう贅肉を削ぎ落とせば、だいぶ安くなるのだ。
筆者は何度か従来型の保険会社に勤める人たちに聞いたことがある。もちろん彼らのおすすめは従来型保険なのだが、どうしてもネット保険の中でというならソニー損保だということで概ね意見は一致している。ただしこれは保険業界内の一部にそういう声があるというだけで筆者は全部の内容を比べてそういう結論を出したわけではないことはご承知おきいただきたい。
さて、そのイチオシの従来型保険に加入する際の話だが、まず保険に対する考え方を変えよう。何があっても全部保険で賄ってもらうという考え方が保険料を押し上げている。例えば事故や故障で帰れなくなった時のホテル代、こんなレアケースはその都度自分でなんとかした方がいい。ただしレッカーと弁護士特約だけは、必要だと思う。それ以外の特約は取ってしまえ。
保険の基本は対人、対物、搭乗で、これらの保証は最大で掛けておくべき。そもそも保険の目的は一切の出費を肩代わりしてもらうことではなく、人生で背負いきれないような負債を引き受けてもらうことだ。だから上に挙げた3つの項目について補償最大額を引き下げてはいけないし、それは大して節約にもならない。
ではどこを狙うかと言えば、車両保険である。車両保険の考え方を変えよう。「買ったばかりのクルマで自損全損事故を起こして、クルマは廃車。残ったのは自動車ローンだけ」というのがいちばん怖い。一般に言ってローンの二重払いは不可能なので、新たにクルマを買うのは難しい。そもそも全損なら頭金もない。それはつまりクルマのない生活へのシフトを意味する。
車両保険には気を付けるポイントが大きくわけでふたつある。ひとつ目は車両の査定額である。例えば新車価格が500万円したクルマで車両保険を500万円かけていたとする。しかし3年後、すでに査定額は200万円。この状態で全損事故を起こした際には、保険会社は査定額200万円を上限に計算する。つまり500万円補償されることは絶対にない。
だから車両価格を見直しせずに500万円の車両として保険をかけていることは完全な無駄で、年数が経過したら査定額に応じて補償額上限を下げていかないと丸損である。原則論としてはローンの残債に相当する分を掛けておけば良い。そうしたら借金だけが残るという惨事は防止できる。
もうひとつは免責金額の設定である。これは例えば100万円の修理代が掛かる時の本人負担額である。免責5万円なら、まずは本人が5万円を払い。不足分の95万円を保険会社が補償する。この免責額をゼロにすると、常に本人負担ゼロ円で修理ができるが、ささやかな擦り傷から補償が発生するから、保険会社としては会社から支払う補償額がどうしても増える。なので保険会社としてはその分のリスクを掛金に反映せざるを得ない。
逆に言えばこの免責額を上げるとかなり大きく掛金が減る。免責額はたいていの場合最大で20万円まで上げることができる。そのくらいまで免責額を上げると、筆者の実体験では、条件次第では年間4万円下がったりしたこともある。

「でもその分事故の時、かならず20万円払わなきゃならないんでしょう?」という声が出るだろうが、今や事故で車両保険を使うと等級のダウンは結構激しい。基本的には50万円以下の修理で車両保険を使うと、等級のダウン分でその分を取り返されてしまう。だから保険会社に言われるのだ「今回は保険を使わない方が得ですよ」。だから20万円の免責はあんまり実害がない。
もちろん100万円くらいの修理になれば保険を使った方が良い。その時に自腹の20万円が発生するかどうかの違いである。それともうひとつ車両の査定額が100万円以下に下がったら、多分もう車両保険を掛ける意味がほとんどない。おおよそ全損のケースでしか使われない。その割に掛金が上がる。
つまり車両保険は最初の方で述べた通り、長いローンだけが残る状況を救済するためのものと割り切っておいた方が良い。リスクに備えすぎで日々のカーライフを圧迫し、ドライブに行く費用がなくなっては本末転倒なのだ。保険に関しては絶対必要なところと、無くても良いところをちゃんと分けて考えることが大切である。