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更新日:2017.12.14 / 掲載日:2017.12.04

いよいよ未来が走りだす!!FCXクラリティ

燃料電池車にはそんな途方もない夢がある

10・15モード走行での航続距離は620km。実用上充分な距離を走れる

10・15モード走行での航続距離は620km。実用上充分な距離を走れる

【本記事は2008年7月にベストカーに掲載された記事となります。】キーを回し、スターターボタンを押すと、パワープラントが立ち上がる独特の音がする。この音だけは燃料電池車ならではだが、走り出すのに特別な操作は何も必要なく、Dレンジに入れてアクセルを踏み込むだけ。あとは普通の電気自動車と同じく、音もフリクションもなくスルスルと滑るように走る。3Lクラスの加速性能を持ち、最高速は160km/hをマークするFCXクラリティの走りは爽快のひと言。食わず嫌いの方がいらっしゃるかもしれないが、電気自動車というのはかなり楽しいもの。重量物がボディ下部に集中しているから、重心が低く安心感もある(車重は1635kg)。FCXクラリティは水素と酸素で作った電気でクルマを走らせ、排出するのは水だけという究極のエコカー。そのエネルギー源となる水素は単独では自然界に存在しないが、地球上のさまざまな物質に含まれており、人為的に取り出すことができる。例えば太陽、風力、水力などの電力で水を電気分解して水素を取り出し、燃料電池車に使って水を排出。その水からまた水素を取り出していけば、永遠にそのエネルギーは循環していくことになるわけだ。まぁ、現時点では「机上の空論」というやつかもしれないが、理論的に可能なことは、いつかは技術の力で実現できるもの。燃料電池車にはそんな途方もない夢がある。

この秋からリース販売開始

ガソリン車のエンジンルームにあたる場所には駆動モーターギアボックスを搭載。軽自動車並みのスペースですむから室内を広くできる

ガソリン車のエンジンルームにあたる場所には駆動モーターギアボックスを搭載。軽自動車並みのスペースですむから室内を広くできる

ホンダの最新燃料電池車、FCXクラリティがこの7月からアメリカで、また、今秋からは日本でもリース販売が開始されることになった。ホンダは’88年頃から燃料電池車の基礎研究を始め、’98年に初代オデッセイをベースにした初めての実験車を製作。そして、’02年からFCXのリース販売を開始するなど着実に燃料電池車を進化させてきている。そんな流れのなかで、このFCXクラリティが特別視されるのは、逆説的だが「特別なクルマ」ではなくなってきたからだ。FCXクラリティはホンダ四輪新機種センター(栃木県塩谷郡)に専用の組み立てラインを新設し、生産される。また、コアテクノロジーとなる燃料電池スタックはホンダエンジニアリング(栃木県芳賀郡)で生産され、特に高い精度が求められるセルの量産化を実現した。つまり、燃料電池車の普及に向けて重要な生産面でも着実に進化しているということで、これにより、今後3年間で日米合わせて200台のリース販売が可能となった。FCXクラリティで特に話題となったのはアメリカでのリース料金、月600ドル(約6万5000円)というもので、これなら一般ユーザーでも購入が決して不可能な価格ではない。しかし、今回初めて知ったのだが(勉強不足ですみません)、これまでのFCXのリース料金は500ドル。以前からリーズナブルな設定にしてあったのだ。いっぽう、日本のFCXのリース料金は月80万円。その大きな差額に驚いてしまうが、これは日米の考え方の違いによる。日本はこういう最先端のエコカーは特別なものと認識するが、アメリカではたとえ燃料電池車でも一般的なリース料金のレベルを超えたら見向きもされないという事情があるらしい。残念ながら、それは今回のFCXクラリティにも当てはまりそうで、ホンダは現時点で日本でのリース価格についてコメントを出していないが、ある開発スタッフは「これまで80万円だったものを急に数万円には落とせないでしょう」と話しており、やはり月額数十万円レベルになりそうな気配である。

広い室内、爽快な走り

燃料電池で高級セダンを作るのは初の試み。航続距離は620km!

燃料電池で高級セダンを作るのは初の試み。航続距離は620km!

FCXクラリティは燃料電池スタックや駆動モーター、ギアボックス、リチウムイオンバッテリーなどのパワープラントがコンパクトに設計されていることが最大の特徴である。燃料電池スタックは’99年には出力60kWで容積は134L、重量が202kgだったのが、’06年には100kW、52L、67kgにまで効率化。高圧水素タンクもFCXでは2本設置していたものを1本に集約し、タンク容量を増やしながらも搭載スペース効率を24%上昇させることができた。これによりパッケージングの自由度が増し、エンジンフードが短く、キャビンが長い独特のデザインが可能となって、驚くほどの後席の広さを実現した。高圧水素タンクが置かれるトランクスペースも見ためはやや狭く感じるが、ゴルフバッグが4個入る大きさを確保している。車内は高級セダンそのものの雰囲気だ。燃料電池スタックにより、前席中央が仕切られるのを逆に利用した4座独立タイプのシートは余裕と高級感があり、ゆったりと座れる。未来的なメーターが次世代車であることを主張するが、いい意味で燃料電池車ということを意識させない作りになっているのだ。アメリカのように月々のリース料金が6万5000円程度なら、「ぜひ乗りたい」と思う一般ユーザーは多いと思うが、前述のとおり、日本ではそこまで安くはならないもよう。水素ステーションの数が少ないなどのインフラの問題は残っているし、台数もかぎられており、一般化にはまだほど遠い。市販化に関しては「10年以内に1000万円以下が目標」(開発スタッフ)というレベルで、このFCXクラリティの登場によって燃料電池車が急に身近になったというわけではない。しかし、実用化に向かって進む曲がりくねった道が、真っ直ぐに近くなったようには感じられた。

FCXクラリティ技術解説

TEXT/鈴木直也燃料電池車(FCV)の心臓部は、皆さんご存じのとおり“スタック”と呼ばれる発電部分だ。素人向けには「水の中に電極を入れて電気を通すと、電気分解されて水素と酸素が発生するでしょ。あの逆だと思ってください」なんて説明されるけど、もちろん現実はそんな単純なものではなく、物理的にも、化学的にもハイテクの塊だ。厳密にいうと個体高分子膜燃料電池(PEFC)のお話だけど、燃料電池の技術的な中心課題というのは、いかに水素分子から電子をはぎ取るかってこと。具体的には白金などの触媒金属を塗布した高分子膜が“キモ”で、この膜に水素ガスが接触すると、電子がポンと外れて水素イオン(つまり陽子)だけが膜を透過する。で、この水素イオンは膜の向こう側で空気中の酸素と反応してH2O(つまり水)になってめでたしめでたし。いっぽう、膜にひっぺがされた電子は電極に移動して、これが電気エネルギーとなる。FCVの開発は、突き詰めていえばこの“膜”の効率をいかに高めるかが第一。次にスタック全体の耐久性、それから水素の貯蔵システムやモーターなどのパッケージングをどうまとめてゆくかという仕事なんだけど、これまでは既存のクルマをベースに、FCユニット、モーター、水素タンクなどをどう配置するかということを、それぞれ別々に一所懸命やっていたわけだ。ところが、今度のFCXクラリティは「最初からFCV専用として」企画し開発されたクルマなんだからスゴイ。専用車を開発するってことは、メリットも多いかわりにお金もかかるしリスクもある。でも、そこに踏み込まないかぎり、いくら「燃料電池は理想のパワーユニットなんですよ」っていっても絵に描いた餅、一般ユーザーのハートまでは届かない。だけど、ホンダは“腹をくくった”わけだ。FCXクラリティは最初から内燃機関なんぞ積む予定がないから、エンジンルームは軽なみのスペースしか取ってないし、かさばる水素タンクはリアサスペンションのサブフレームの中に落とし込むなど、パッケージングに悪影響を与えないように工夫されている。また、肝心のFCスタックについても、ホンダ独自のVフロー方式を開発しているのがミソ。これは、その名のとおり水素/空気をスタックの中で縦に流すというが特徴で、ガスの拡散性/反応効率のよさ、生成される水の回収のしやすさなどで、従来の横流れに優る性能を発揮するという。しかも、スタックの形状がちょうどスーツケースを立てた時のように縦長なので、センターコンソール部にぴったり収まるというパッケージングのメリットがある。従来のFCVは横長スタックを床下に配置する例が多く、どうしても床の高いミニバン/SUVでないとなじみにくかったが、ホンダのVフロースタックだと床の低いスマートなセダンを作ることが可能。FCXクラリティがこういうスタイリッシュなセダンに仕上がったのも、Vフロースタックがあればこそのことなのだ。それにしても、ちょっと大きめのトランクくらいの体積(57L)で、重量も67kgしかないFCスタックから、100kWというパワーを取り出せるようになったというのはスゴイ。また、モーターも同軸リダクションシャフトで前後長を162mm詰め、コントロールユニットを一体化することで高さも240mm低くなっている。これだけ徹底してるから、走りっぷりについてもFCVとしては間違いなく世界最高。意外に大柄なボディのわりに車重は1.6t程度と軽めで、電気モーターならではの小気味いいレスポンスでじつに気持ちよくスイスイ走る。ちょっと前(といってもホンの5年ほど)のFCVに比べたら、とにかく発電部もモーター部も夢のようにコンパクトで高効率。遠い将来の夢だったはずのFCVが、グイグイ現実に近づいてきているってことを実感する試乗でした。

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グーネットマガジン編集部

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1977年の中古車情報誌GOOの創刊以来、中古車関連記事・最新ニュース・人気車の試乗インプレなど様々な記事を制作している、中古車に関してのプロ集団です。
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また、最新情報としてトヨタなどのメーカー発表やBMWなどの海外メーカーのプレス発表を翻訳してお届けします。
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