輸入車
更新日:2022.11.14 / 掲載日:2022.11.14

BMW新型7シリーズの注目すべきテクノロジー【石井昌道】

文●石井昌道 写真●BMW

 BMWの伝統的なフラッグシップサルーン、7シリーズがフルモデルチェンジを受けた。これまでも新しい技術やデザインなどを7シリーズから採用することが多かったが、新型もまたトピックスが満載だ。


 パワートレーンでは新たにBEVとなるi7が用意された。BMWは、i4 なら4シリーズ、iX3ならX3のなかのBEVバージョンという位置づけであり、iXだけは独立したBEVフラッグシップとなっている。i7は7シリーズのBEVバージョンであり、プラットフォームはエンジン車と共有。そういった意味ではBEV専用プラットフォームであり、ボディにより高価な素材等を使用しているiXのほうが先進的と言える。

BMW i7

 だがi7も走らせてみれば静粛性、快適性などは世界トップレベル。これに対抗しうるのはいまのところ同門のiXとガチンコのライバルであるメルセデス・ベンツEQSぐらいなものだろう。エンジンのサウンドがないBEVは静かになるのがあたりまえだが、その分、ロードノイズやパターンノイズ、風切り音、電気系ノイズなどが耳に付きやすくなるが、i7を含めた3台はそれを徹底的に封じ込み、異次元と表現したくなるほど静粛性を実現している。これはエンジンを搭載するモデルでは不可能なことであり、ロールスロイスやベントレー、マイバッハなどのハイブランドはBEV化が早く進むだろうと予測できる。

i7 xDrive60

 7シリーズの初期の日本導入モデルはi7 xDrive60に740i(3.0直6ガソリン+マイルドハイブリッド)、740d(3.0直6ディーゼル+マイルドハイブリッド)と決定しているが、国際試乗会でi7 xDrive60以外に用意されていたのは760iのみ。それでもi7とエンジン車(マイルドハイブリッド)の違いを比べるべく、両車を乗り比べた。760iも単体で乗っていれば最新のフラッグシップサルーンらしく、快適で運転も楽しめるいいクルマだ。21インチの大径タイヤを履いているのに、低速域でのゴツゴツ感がなく、速度をあげていってもスムーズにサスペンションが動いて、巧みな足さばきをみせる。BMWらしいのは、快適だけれどフンワリとしているわけではなく、ドライバーがその気になれば、いつでも機敏に答えてくれる雰囲気を伝えてくるところだ。実際に、ワインディングロードでアクセルを多めに踏み込み、コーナーへ高めの速度で進入していくと切れ味鋭い活発な走りをみせてくれた。エアサスペンションに電子制御アダプティブダンパー、インテグレイテッド・アクティブ・ステアリング、アクティブ・ロール・スタビライザー、シャシーはハイテク満載だから、極上の乗り心地でありながら、ハイスピードなコーナリングではロールやピッチングがじつに小さく抑えられている。目新しいのはアクティブ・ロール・コンフォート機能で、コーナリングは突っ張った感覚がないのにロールが極めて少ない。新型は、従来のロングホイールベース仕様相当のモデルのみとなっていてホイールベースは3215mmにも達するが、タイトコーナーでも持て余すことがなく、ボディがコンパクトに感じられるのはハンドリングの正確性が高いからだ。


 760iでも高級にしてドライバーズカーでもある7シリーズらしさを存分に感じさせてくれたが、i7はそれ以上だった。静粛性が高いのは当然であり、電機モーターのトルクの太さや優れたレスポンスによって、パフォーマンスやドライバビリティもエンジン車を上回る。だがここは、鼓動やサウンド、実力は高いけれどどこかクールな電気モーターに対して暖かみのあるアナログ的な心地よさなど、エンジンならではの良さもある。だから、パワートレーンだけの魅力で選択する価値はエンジン車にもあるのだが、i7はそれ以外でも一枚上手だった。760iも十二分に快適で高度な乗り心地ではあるが、細かく観察していると小さな凹凸を通過したときに、i7では感じないプルプルッとした振動が少しだけある。重たいエンジンを、ラバー系などでマウントしているから揺動があるのだろう。i7を体験しなければまったく気にならない程度のものだが、比較すると感知され、じょじょに気になっていく。コーナリングも、760iでも大きなボディやロングホイールベースであることが信じられないほど高度だが、同じコーナーを同じ速度で進入していくとi7のほうがよりスムーズに、綺麗に曲がっていく。慣性マスの少ない重量配分と低重心であるBEVの効果が体感できるのだ。重量が重いというデメリットを打ち消してしまうメリットがある。
エンジン自体の魅力を否定するつもりはまったくないが、冷静に比べてしまうとパフォーマンスや快適性など、高級車およびドライバーズカーとしてi7のほうが実力が高いと言わざるを得ないのだった。

新型7シリーズ

 新型7シリーズは、ショーファードリブンとしても力が入れられている。後席には、なんと31インチのシアター・スクリーンを用意。室内の横幅いっぱいの超横長スクリーンは、目の当たりにするとデカすぎて戸惑うほどだが、後席に座る人を最大限にもてなそうという気持ちは伝わってくる。エグゼクティブ・ラウンド・シートなら42°もリクライニング。助手席を目一杯前方に押し倒せば、オットマンで足を伸ばしながら寛げる。7シリーズの市場は、中国45%、アメリカ20%、欧州9%、日本を含むその他の地域が26%となっていて、ショーファードリブンに特化するのが得策ということなのだろう。だからこそのロングホイールベースであり、後席重視の仕様なのだ。


 とはいえ、きっと日本のユーザーが喜ぶようなドライバーズカーとしての資質も極めて高いレベルで仕上がっていたことは嬉しいところだった。普段は運転手に任せて後席で寛ぎながら、たまには自分でステアリングを握ってドライビングを楽しみたいという人にはうってつけの新型7シリーズ。快適性とスポーティ性などのトレードオフにある性能が、最新テクノロジーによって見事に両立されていることを堪能できるはずだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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