車の歴史
更新日:2022.01.06 / 掲載日:2021.12.29
【スバル WRX STI特集】スバルの技術が凝縮した日本を代表するスポーツモデル

文●大音安弘 写真●スバル
スバルのフラッグシップスポーツカーであるWRX S4が、2021年11月25日に発表され、WRXシリーズの第2章が幕を開けた。日本初導入となる2.4L水平対向直噴ターボエンジンや新CVT「スバルパフォーマンストランスミッション」、高度運転支援機能「アイサイトX」など見所も満載だ。そんな待望の新型も、全ては歴代WRXの存在があってこそ。今回は、スバルの名を世界に轟かせた名車「WRX」シリーズの歴史を振り返ってみよう。
すべてはラリーでの勝利に向けて

時代は昭和の終わりまで遡る。主力車レオーネの後継車として開発されたフラッグシップモデル「レガシィ」に続く、コンパクトな新型車として企画されたのが、1992年10月に発表された「インプレッサ」シリーズだ。オールニューモデルであるレガシィのコンポーネンツを流用しながら、ボディをコンパクト化し、セダンとワゴンを用意。主力エンジンは、1.6Lと1.8Lとしていた。その頂点に立つスポーツモデルが「インプレッサWRX」だ。小型軽量なセダンボディに、レガシィのスポーツセダン「RS」と同じEJ20水平対向4気筒ターボエンジンを搭載。空冷式インタークーラーを採用などの改良が加えられ、最高出力240ps/6000rpm、最大トルク31.0kgm/5000rpmを発揮。その結果、レガシィRSよりも高性能化が図られていた。当時の国産高性能モデルが開発の舞台に取り入れたドイツ・ニュルブルクリンクサーキットでのテストを実施するなど、世界レベルの高性能セダンが目指されていた。

インプレッサWRXが、レガシィを超える高性能車に鍛えられた背景には、世界ラリー選手権(WRC)参戦が大きく関係していた。レガシィで苦戦を強いられたスバルは、より小型軽量なインプレッサへのベース車での参戦を決断した。このため、発売間もない1993年シーズン終盤となる第9戦よりレガシィからシフト。デビュー戦で、2位を飾るなどポテンシャルの高さを示した。

1993年9月には、セダンのみだったWRXシリーズに、待望のワゴンを追加。いずれもトランスミッションは、4速ATを追加した。そして1994年1月には、初となる「WRX STi」が誕生。この初期型STiは、スバルのモータースポーツ活動を担うスバルテクニカインターナショナル(STi)によるコンプリートカーで、月産100台限定の受注生産車であった。チューニングのポイントは、耐久性に優れる鍛造ピストンや専用ECUなどで高出力化を図ったこと。但し、スペックは最高出力が10psアップの250ps、最大トルクが0.5kgmアップの31.5kgmと控えめ。これは数字の大きさを誇るのではなく、走りの気持ち良さや使える性能を重視してチューニングだったことを伺わせる。MT設定だけの硬派さを見せつつも、意外にもワゴンも用意されていた。1995年には、STiの改良型「STi Version Ⅱ」がカタログモデル化されて登場。同時に、WRC参戦マシンと同じ「スポーツブルー」を採用した限定車「STi Version II 555」を発売。参戦車同様の外観に仕上げられる専用デカールをオプションで用意していた。新たな展開として1997年9月に、WRX STIに初となるクーペモデル「WRX Type R STi」を追加。この後、STI Version は、カタログモデル化され、Ver.6まで進化を続け、最終仕様の最高出力は280psまで高められた。
STi Ver2(1995年) STi Ver3(1996年) STi Ver4(1997年) STi Ver5(1998年) STi Ver6(1999年)
その後のキャラクターを決定づけた2台の特別なWRX

初代モデルで忘れてならないのが、2台の特別なSTiモデルの存在だ。ひとつは、1998年3月に発売された「22B STi Version」である。これは97年に、WRCに投入されたインプレッサワールドラリーカー97のロードバージョンに相当するモデルで、2ドアクーペをベースに、WRCマシンを彷彿させるエクステリアに、専用の2.2L水平対向4気筒ターボエンジンを搭載するスペシャルなモデルであった。クーペの「WRX Type R STI」よりも約200万円高となる500万円のプライスを掲げていたが、限定の400台は瞬く間に完売。現在は、WRXシリーズの中でも特に特別な1台として世界的にも評価されている。

もうひとつが、STIのコンプリートカー「S」シリーズの第一弾となった「インプレッサS201 STi Version」だ。ラリーのイメージが強かったこれまでのWRX STIシリーズとは異なり、オンロードやサーキット走行を意識した個性的なエアロを備えているのが大きな特徴。この後、STiは、日常からサーキット走行までをカバーするスポーティかつ上質な走りを実現したコンプリートカーを積極的に手掛けていくようになる。
戦闘力を高め、3タイプのフロントマスクを揃えた2世代目

第2世代のインプレッサWRXは、2000年8月にデビュー。新型ではセダンがWRXに集約され、3ナンバーボディに。このため、シリーズ初の自然吸気エンジンとなる「WRX NA」が誕生したのもトピックであった。しかし、真打は同年10月に追加された「WRX STi」だ。更なる高みを目指し、ボディの強化はもちろんのこと、エンジンも可変バルブタイミング機構を備えた新設計のEJ20ターボに進化され、最高出力280ps/6400rpm、最大トルク373Nm/4000rpmを発揮。高トルク対応型の6速MT、ブレンボ製ブレーキシステム、チタン製パイプを用いたストラットタワーバーなどの高コストな専用装備を積極的に取り入れることで大幅なポテンシャルアップを図っていた。しかも2代目では、WRXの設定がなかったスポーツワゴンにも、WRX STiを用意したのは、日本のツーリングワゴンブームを巻き起こしたスバルらしい展開でもあった。

大幅に戦闘力を高めた2代目インプレッサWRXだったが、唯一の弱点となったのが、なんとデザイン。個性的な丸目ライトのフロントマスクが不評だったのだ。登場より2年後となる2002年11月に、早くもフェイスリフトを実施。「涙目」と呼ばれる大型ヘッドライトに変更され、無難な顔立ちとなった。同時に、STiのメカニカルな改良も実施され、最大トルクを394Nmまで強化。またグレード名の整理も行われ、WRXの名はターボ車に限定。セダンには、実用的な5ナンバーモデルも追加されている。これによりスポーツワゴンのターボ車の名に「WRX」が復活したが、なんとワゴンの「WRX STi」は廃止に。このため、2代目スポーツワゴンWRX STiは希少な存在となっている。フェイスリフトで販売促進を図ったものの、手応えはいまひとつであった。

そこで2005年6月には、2度目のフェイスリフトを実施。スバルの飛行機をモチーフとした新世代フロントマスク「スプレッドウィングスグリル」を取り入れた釣り目ライトによる通称「鷹目」マスクに。その結果、一世代で全く異なる3つのフロントマスク持つWRXとなった。この鷹目マスクから「STi」から「STI」へと表記も変更されている。また第2世代でも、STIコンプリートカーは、「S202」、「S203」、「S204」の3モデルが投入されているが、いずれもフロントマスクが異なるので、選別も簡単であることも特徴といえるだろう。

5ドアハッチバックとなった3世代目

2007年6月にインプレッサの標準車が第3世代に進化。最大の特徴は、モデルラインが5ドアハッチバックに集約されたことにある。同年10月に、WRXもデビューするが、こちらも高性能仕様の「WRX STI」に集約され、ボディタイプも5ドアハッチバックのみに。この背景には、WRCのライバルたちがコンパクトなハッチバックにスイッチしたことで、大きさと重量でセダンが不利になった事もあった。但し、WRX がSTIのみとなったことで、よりスタイルはアグレッシブに。前後ブリスターフェンダー仕様となり、専用のグリルとバンパーなどで大きく差別化が図られ、従来のWRXに若々しいイメージを加えたホットハッチとなった。メカニズムでは、エンジンの進化に加え、4WDのセンターデフの効き具合を自動調整する「マルチモードDCCD」やエンジン特性を選択できる「SIドライブ」、マルチモード「VDC」など電子制御を用いた新たな機構を採用し、よりマシンの特徴をドライバーが引き出しやすい走りを実現させていた。2008年10月に、標準車にセダン「アネシス」が追加されるが、この時点では、WRX STIのモデルラインに変更はなかった。

2009年2月の一部改良では、WRX STIに新シリーズ「A-Line」を追加。これは輸出用の2.5L水平対向4気筒ターボに、5速ATを組み合わせた大人向け仕様で、クルーズコントロールを標準化。さらにオプションでレザー仕様を設定するなど、上質なWRX STIが目指されていた。これが後の「WRX S4」の原点といっても良いだろう。2010年7月の改良では、驚くべきことにWRX STIに4ドアセダンが復活。6速MTと5速ATを備える「A-Line」共にそれぞれのボディが設定され、4タイプより選択可能になった。モデルラインの拡大には、2008年を最後にWRCより撤退したことで、WRX STIを5ドアのみとする理由が薄れたこともある。販売の強化のために、ユーザーからの要望の声もあった定番のセダンを再投入することになったのである。セダン人気の強さは、STIコンプリートカーにも表れており、唯一のハッチバック「R205」の販売が不調だったのに対して、4ドアセダンベースの「S206」や「tS TYPE RA」は瞬く間に完売している。
「WRX」として独立したモデルに成長した第4世代

第4世代となるWRXは、インプレッサから独立したスポーツセダンに。既に第3世代の2010年の改良より、販売戦略上は、インプレッサの名を省き、シンプルに「WRX STI」を名乗っていたが、2014年登場の新型では、完全に独立したシリーズとなり、同年に発売された新型スポーツワゴン「レヴォーグ」との関係性が強く、車格アップも図られていた。このWRXシリーズは、「S4」と「STI」に分けられる。双子のような存在で、基本的なデザインを共有する。ビジュアル的には、装飾の違いで変化を与えており、シックなS4に対して、STIはSTIロゴデザインや、STIイメージカラーのチェリーレッドをインテリアに取り入れることで、アグレッシブさを強調。さらにアルミホイールデザインもそれぞれ異なる。さらにメカニズムでは、それぞれのキャラクターを際立たせる相違がみられる。S4のエンジンは、新世代エンジンであるFA20型水平対向4気筒直噴ターボを搭載し、最高出力300ps/5600rpm、最大トルク400Nm/2000~4800rpmを発揮。主要なメカニズムは、CVT「スポーツリニアトロニック」、電子制御4WD「VTD-AWD」、電動パワーステアリング、電動パーキングブレーキ、先進運転支援機能「アイサイト」などのスバル先進技術を積極的に採用した大人向けGTに仕立てられている。一方、STIは、王道的なスポーツカーが目指された。レガシィやWRXなどが育んできた伝統のスポーツエンジンEJ20型水平対向4気筒ターボエンジンを搭載し、最高出力308ps/6400rpm、最大トルク422Nm/4400rpmを発揮。強化型6速MTを始め、DCCD(ドライバーズコントロールセンターデフ)方式AWD、油圧パワーステアリング、ブレンボ製ブレーキシステム、BBS製鍛造18インチアルミホイール、大型リヤスポイラーなどの高性能化を図るパーツが積極的に投入されていた。グレード構成はシンプルで、S4が「GTアイサイト」と「GT-Sアイサイト」。STIが「ベース」と「タイプS」を設定。いずれの「S」グレードには、装備の充実化に加え、最大の違いとなるビルシュタイン製ダンパーが装備されていた。

大幅改良が施されたのは、2017年のこと。同年5月のSTIの改良では、AWDにマルチモードDCCDを採用することで、俊敏な応答性とコーナー入り口でのスムーズな回頭性を実現。また強化を望む声が多かったブレンボ製ブレーキシステムは、フロントキャリパーを4ポッドから6ポッドに変更。リヤは2ポッドのままだが、それぞれ専用のイエロー塗装に。さらに前後共にドリルドローターを採用した。さらに上位グレード「タイプS」はアルミホイールを18インチから19インチに変えるインチアップも実施。その際、専用装備のBBS製鍛造ホイールではなく、スバル純正デザインの鋳造品となった。S4は、同年7月に大幅改良を施し、サスペンションの改良や車内静粛性の向上を図り、快適性を向上。同時にsportsセダンらしくブレーキパッドの強化も行った。最大のポイントは、SUBARU車第一号となる「アイサイトツーリングアシスト」の追加だ。これはACCとステアリングアシストを組み合わせることで、高速道路などの自動車専用道路での運転支援を行うことで、ドライバー疲労軽減を図るもの。より遠くに快適に出かけられるスポーツセダンの魅力を高めた。同時にフェイスリフトも実施され、後期マスクに変更されている。

後期型「S4」を語る上で外せないのが、「STIスポーツ」の存在だ。2016年にレヴォーグに設定され、爆発的人気を誇った「STI」とのコラボレーションモデルが、いよいよS4にもお目見えしたのだ。STIアイコンを取り入れた内外装に加え、STIチューニングによるビルシュタイン製ダンパーとサスペンション、ステアリング部の取付剛性を高めるパーツの追加など、専用改良を実施するなど走りの面でもSTIらしさをしっかりと取り入れた。さらにSTIではオプションのレカロ製フロントシートも標準化とするなど、S4最上級グレードに相応しい内容となっていた。投入後、瞬く間に人気グレードとなり、最終仕様のS4は、STIスポーツのモノグレード化された。
同世代のWRX限定車は、凄まじい人気を誇るようになり、いずれも即完売。STIコンプリートカーとしては、国内では「S207」と「S208」を投入し、さらにスバルとSTIの共同開発車として「RA-R」も発売。特に話題となったのが、WRX STIの最終限定車となるWRX STI「EJ20ファイナルエディション」だ。チューニングや装備面では、他の限定車の方が濃い内容であったが、伝統のEJ20型エンジン生産終了と共に販売を終える従来型WRX STIの最後飾る555台で、抽選販売となったこともあり、多くの購入希望者が殺到。抽選に漏れた人の中を中心に最終仕様のWRX STIを購入する人も多かったため、最終販売は、異例の盛り上がりを見せた。
もちろんS4でもSTIコンプリートカー「tS」などの限定車を設定。さらに従来型WRXシリーズの最後の限定車として「STIスポーツ#」が、2020年8月に投入されている。STIスポーツ#は、スペック上の変更はないが、ファインチューニングにより走りを磨き上げた究極のS4という点が注目され、なんと先行受注の段階で完売している。
新世代モデルに進化したWRX S4

いよいよ2022年より新世代WRX S4の販売が本格化される。MTとなる本格派スポーツセダン「WRX STI」の続報は今の段階では不明だが、WRX S4のデザインや走りを見る限り、その登場への期待は膨らむばかりだ。