車の歴史
更新日:2020.03.10 / 掲載日:2020.03.10
SUZUKI MIGHTY BOY 【1】

軽自動車は、ボディサイズの制約が大きい。
それ故にボンネットを有するピックアップははっきりと言ってしまえば実用性に欠ける。
そんな軽のピックアップトラックの需要を見込むのはかなりの冒険ともいえるが、通称「マー坊」ことマイティボーイを、1983年にスズキは市場に投入。
乗車定員は2名、トラックだけど荷台は猫の額程度と、「何に使うの?」感が漂うマイティボーイはやはりヒットとは無縁なままであったが、当時も、そして今現在でもその唯一無二の存在に魅力を感じるクルマ好きがいる。
SUZUKI MIGHTY BOY(SS40T) DATA FILE

兄弟車の2代目セルボより生産台数は少ないと思われるが、1987年に生産が終了して30年以上を経た現在、現存台数が多いのはマイティボーイだと思われる。他に類をみないパッケージングが武器となり、中古車としての商品価値が無くなることがなかった。ただしやはり現存台数は確実に減っており、タマ数は少なくなっている。相場的には20万~100万円となるが、60万円以上はツインカムターボ搭載車となるようだ。
入手難易度&購入予算は?
◎入手難易度:易★★★★☆難
◎中古車相場:20万~100万円
SPEC
PS-A(前期)
●全長×全幅×全高:3195×1395×1290mm
●車両重量:520kg
●エンジン:F5A型水冷直列3気筒SOHC
●排気量:543cc ●最高出力:28PS/6400rpm
●最大トルク:4.2kg・m/3500rpm
●サスペンション形式:ストラット/リーフリジッド
●ブレーキ:ドラム/ ドラム
●タイヤサイズ:5.00-10
PS-L(後期)
●全長×全幅×全高:3195×1395×1290mm
●車両重量:550kg
●エンジン:F5A型水冷直列3気筒SOHC
●排気量:543cc ●最高出力:31PS/6000rpm
●最大トルク:4.4kg・m/3500rpm
●サスペンション形式:ストラット/リーフリジッド
●ブレーキ:ディスク/ ドラム
●タイヤサイズ:135SR12
ハイソカーブームを逆行した非力で質素な作りが魅力?
1979年、スズキはそれまでの軽自動車の常識を覆す新型車を発売した。初代アルトがそれ。税制の盲点を突く軽ボンネットバンとして47万円という当時としても圧倒的な低価格を実現したことで、ベストセラーとなった。
その4年後となる1983年。今回のお題となる軽規格のピックアップトラック、マイティボーイを45万円で発売。こちらは爆発的ヒットとこそならなかったが、その驚異的な低価格や、独特のパッケージングで、クルマ好きの記憶にだけは、その存在が鮮明に刻まれたはず。
マイティボーイは47万円で販売された初代アルトとプラットホームが共通、というよりも当時からスズキはモデルを跨いで多くの部品の共用化していたので、当時のスズキのFFの軽は、アルトもフロンテもセルボもマイティボーイもフラットホームは共通となる。
初代アルトは、当初2サイクル3気筒のT5B型を搭載していたが、1981年には4サイクルのF5A型に変更。翌年にはそのF5Aを搭載する二代目セルボがデビューした。そのセルボをベースに後部を荷台に作り替え登場したのがマイティボーイとなる。
エンジンは非力、装備も最低限と、ハイソカーブームでパワーや豪華さが競われ出した80年代の時流を逆行するようなクルマであったが、生産が終了した後も、一部マニアの間で人気を保ち続けて、今もそれは健在となる。
オイル漏れがあるのはあたり前? 昨今最大のネックとなるのがキャブの不調
エンジン 実用一辺倒で非力極まりない550cc3気筒SOHCのF5A
あらゆる合わせ面からオイル漏れや滲みが……

SOHC2バルブのF5A型550cc3気筒エンジンは、550cc時代後半のスズキの軽自動車の大部分に搭載された量産エンジンとなる。実用エンジンだけにパンチもない非力なエンジンだが、耐久性は高いようだ。しかし現役時代からオイル漏れは日常茶飯事で、30年が経過した現在ではあらゆる部分からオイルが漏れている可能性があるという。完全に直したいのであればフルオーバーホールする覚悟が必要だ。
オイル漏れは避けられない。完全に直すにはかなりの労力を要する。
80年代車両ながら点火はポイント式
点火システムは、80年代初頭にデビューしたエンジンということもあり、まだポイント式。
それ故ポイントギャップなどの調整をしっかりする必要あり。660世代のフルトラ化されたデスビは残念ながらボルトオン流用が不可。
無交換のまま現在に至る樹脂タンクラジエーター

30年も前のクルマだから、これまでにラジエーターも交換されていそうなものだが、マイティボーイの場合は未交換のものも珍しくはないそうだ。錆や不純物により水路も確実に汚れてきていると考えられるので、快調に乗りたいのであれば、新品に交換する等の手を打っておいた方がいい時期といえるだろう。
昨今、エンジンの不調の最たる原因となっているのがキャブ

エンジン不調の原因の多くを占めているのが、キャブレターの不具合。羽生さんによるとキャブレターも経年劣化が進んでいて、正常な状態のものは少ないという。また不具合部分を特定できても、修理するための、例えばフロートの合わせ面のガスケットだけなど、部品単品の供給はされているわけもなく、現状の対応策としては程度のいい中古に付け替えるしかない。そんな程度のいい中古も今やなかなか出回ることはないそうだ。今でも中古部品の流通がそこそこある660世代の純正キャブを使えば、かなり良さそうだと羽生さんは対応策を練っているそうだが、ボルトオンで付くモノではないので、その加工費用が未知数。まだ実行には移せていないそうだ。
不動期間にタンク内が錆びてフィルター詰まり多発
旧車には長期放置期間があった車両が多い。それにより発生するトラブルはいくつかあるが、そのひとつが燃料タンク内が錆びるということ。
そんな錆びた燃料タンクからガソリンを吸い出せば、燃料フィルターもすぐに詰まってしまうことになる。タンクの錆対策と燃料フィルター交換はやっておいて間違いないはず。
タイミングベルト駆動だがウォーターポンプはVベルトドライブ

F5A型エンジンのカム駆動はタイミングベルトが採用されている。後に登場する660ccのF6A型ではタイミングベルトでウォーターポンプを駆動するが、F5A時代はVベルトを使っててオルタネーターと共に駆動している。これはVベルトが劣化すると、ウォーターポンプの駆動に影響を及ぼすことになり、冷却性能の低下に繋がる。
この世代だけとなるエンジン&ミッションマウント
振動が気になるようになってきたからエンジンマウントを交換しよう。というようなメンテナンスが施される車種でもないため、現在装着されているマウント類は、新車時からのものがそのまま使われていることが多い。
ゴム製部品なので間違いなく劣化が進んでいるはず。幸いにもまだ純正部品の供給はあるようなので、長く付き合いたいのであれば交換してしまうのが得策だろう。
サブサイレンサーの腐食が目立つ昨今

純正マフラーのサブサイレンサー部の腐りが最近目立っているという。特に多いのがパイプの溶接部。またサイレンサー側面からも排気漏れを起こしていることもあるようだ。今でもアフターマーケット製のマフラーがあるようだが、サブサイレンサー直後のフランジ以降の製品となる。補修するにも錆が酷いのが難点となる。
純正パーツの供給状況がかなり厳しい状態になっている
今回マイティボーイのメンテナンスについてお教え下さったのは、茨城にあるメンテナンスガレージTTFの羽生さん。
「元のエンジンはパワーがないので、今マイティボーイに乗りたいという人の多くは、昔からの定番となる初代アルトワークスのツインカムターボに載せ換えを希望していることが多いですね」
ちなみにエンジン型式が、マイティボーイのSOHC2バルブのキャブ仕様もアルトワークスのDOHC4バルブターボも同じF5Aなので、載せ換えても合法で公認なども取る必要はない。
「プロに作業を任せるのは金額的に見合わないと思いますが、DIYでやってやれない作業ではないです。ただし昔は簡単に手に入った純正パーツの多くが欠品していているので、そのあたりをどうするかがポイントになると思いますよ」
ノーマルエンジンのまま乗りたい場合はどうだろうか?
「ノーマルエンジンの場合も欠品している部品が多いです。その中でも一番のネックがキャブですね。パッキンが寿命で燃料漏れを起こしていたり、ダイヤフラムが破れて、加速ポンプなどがまともに機能しなかったりと、キャブの不調で気持ちよくは走れないマー坊が多いですね。マー坊よりも新しい世代のスズキの軽自動車に採用されていたキャブを流用すれば復調してくれると思うんですが、そちらもコスト的に実行してくれるオーナーさんがまだいません(笑)」