モータースポーツ
更新日:2021.07.26 / 掲載日:2021.07.26
アウディ、電動車でダカールラリー参戦を発表 Audi RS Q e-tron公開
Audi RS Q e-tron
Audi Sportは、現地時間7月23日、2022年1月に開催されるダカールラリーにAudi RS Q e-tronで参戦すると発表した。同時に、プロトタイプ“Audi RS Q e-tron”を公開し、走行テストを進めていることを明らかにした。
世界でもっとも過酷なラリーで、電動化技術の開発推進
Audi Sport GmbHマネージングディレクター 兼 Audi Motorsport責任者のユリウス シーバッハは、次のように述べた。「アウディはquattroで、世界ラリー選手権に一大革命をもたらしました。また、電動化したドライブトレインでル・マン24時間レースを制した最初のブランドとなりました。今回、アウディはダカールラリーに参戦して、新しい時代の到来を告げたいと考えています。その一方で、ダカールラリーへの参戦は、過酷な条件下で私たちのe-tronテクノロジーをテストし、さらなる開発を推進する舞台にもなるでしょう。Audi RS Q e-tronは、アウディのスローガンである“Vorsprung durch Technik”(技術による先進)に基づき、まったく白紙の状態から記録的に短い時間で製作されました」
毎日のステージの走行距離が最大800kmにも及び、2週間続くダカールラリーへの参戦は、アウディのエンジニアにとって大きな挑戦となる。ラリーAudi Sportダカールプロジェクト責任者のアンドレアス ルースは次のように語った。「私たちがやろうとしていることは、まだ誰も挑戦したことがなく、電動ドライブトレインにおける究極の挑戦といえるでしょう」
フォーミュラEマシンでの実績をもつシステムを応用
砂漠には充電ステーションはないため、アウディは革新的な充電コンセプトを選択。Audi RS Q e-tronは、ドイツツーリングカー選手権(DTM)で採用されている非常に効率的なTFSIエンジンを搭載する。これは、走行中に高電圧バッテリーを充電するエネルギーコンバーターの一部を構成している。この内燃エンジンは、もっとも効率的な4,500~6,000rpmの範囲で作動するため、その燃料消費量はkWhあたり200グラムをはるかに下回る。
Audi RS Q e-tronは、電気モーターで駆動。前後アクスルには、それぞれ最新のAudi e-tron FE07 フォーミュラEマシンのモータージェネレーターユニット(MGU)が搭載されている。これは、2021年シーズンを戦うために、Audi Sportが開発したものだ。このMGUは、わずかな変更を加えるだけで、ダカールラリーで使用することが可能になった。
まったく同じ設計の3番目のMGUは、エネルギーコンバーターの一部として、走行中に高電圧バッテリーを充電するために使用される。さらに、制動時にもエネルギーを回生。バッテリー重量は約370kgで、容量は約50kWhだ。
Audi Sportモータースポーツプロジェクト開発担当責任者のステファン ドライヤーは次のようにコメントした。「バッテリーは、パートナー企業と共同で独自に開発しました。私たちエンジニアは、基本的にすべてのコンポーネントに開発の余地が残されていると考えています。しかし、ドライブトレインシステムに関しては、フォーミュラEですでに97%を超えるシステム効率を達成していますので、これ以上の改善の余地はありません。しかし、バッテリーとエネルギーの管理では状況がまったく異なります。これは、eモビリティの開発において、最大の可能性を秘めている分野です。極めて過酷なダカールラリープロジェクトから得られたノウハウは、将来の市販モデルへとフィードバックされます。いつものように、私たちはこのプロジェクトでも、市販モデルの開発スタッフと緊密に協力しています」
電動ドライブトレインの最大システム出力は500kWだが、ダカールラリーでどの程度の出力が認められるのかは、現在主催者が最終調整を行っているところだという。電動ドライブトレインには、数多くの利点が存在する。電気モーターは非常に正確に制御できるため、優れたドライバビリティを実現し、制動エネルギーを回生することも可能だ。
従来のラリー車とは一線を画すデザインとなったアウディRS Q e-tron
Audi RS Q e-tronには、1速の前進ギアが搭載されている。一般的な電気自動車と同様、フロントアクスルとリヤアクスルは機械的に接続されていないため、アウディは、前後アクスル間のトルク配分を制御し、自由に設定可能なバーチャル センターディファレンシャルとして機能するソフトウェアを開発した。これによって、プロペラシャフトや機械的なディファレンシャルを搭載する必要がなくなり、重量とスペースを削減できるという2次的なメリットが生み出されている。
Audi RS Q e-tronは、視覚的にも、従来の内燃エンジンを搭載したダカールプロトタイプと大きく異なるものになった。アウディ モータースポーツデザイン チームリーダーのフアン マヌエル ディアスは、次のように語る。「このクルマは、未来的な外観を備え、アウディならではの多くのデザインエレメントが採用されています。私たちの目的は、“Vorsprung durch Technik”(技術による先進)および未来のアウディブランドを象徴するデザインを生み出すことです」
ダカールラリーへの参戦は、「Q Motorsport」と協力して行われる。チーム代表のスヴェン クヴァントは、次のように述べた。「アウディは、常にレースで新しい大胆な道を選んできました。今回のクルマは、私がこれまで見た中でもっとも高度なクルマの1台だと思います。電動ドライブトレインは、多くの異なるシステムが相互に通信する必要があります。ダカールラリーでもっとも重要な信頼性に加えて、これは今後数ヶ月における私たちの最大の課題となるでしょう」
クヴァントは、アウディのダカールプロジェクトを、最初の月面着陸と比較して次のように語っています。「その当時のエンジニアは、何が起こるのか、まったく予想がつきませんでした。今回も同様です。最初のダカールラリーで完走することができれば、私たちのプロジェクトは成功したと言えるでしょう」
2022年のダカールラリーに向け、鋭意テスト中!
Audi RS Q e-tronプロトタイプは、7月初旬にノイブルクで最初の走行テストが行われた。今後、年末までの間に、集中的なテストプログラムとクロスカントリーラリーへの最初のテスト参戦が計画されているという。
アンドレアス ルースは、次のように付け加えた。「このプロジェクトのスケジュールは非常にタイトですが、その分やりがいがあります。プロジェクトが正式に開始されてから、まだ1年も経過していません。私たちは、代替エネルギー車に関するレギュレーションがまだ確定していない段階から開発を始めなければなりませんでした。そして、開発の途中で新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生しました。この影響を過小評価してはなりません。私たちのチームは、類まれな開発作業を達成したのです。そのため、このクルマで走行テストを開始できたことは、チーム全員にとって特別な瞬間でした」