モータースポーツ
更新日:2024.10.21 / 掲載日:2024.10.21

いまなぜ人気? 国内最高峰レースを支える技術【石井昌道の自動車テクノロジー最前線】

文●石井昌道 写真●横浜ゴム

 1973年に全日本F2000選手権として始まった国内トップフォーミュラレース。現在は全日本スーパーフォーミュラ選手権(通称SF)となって2022年には50周年を迎えた。F1に次ぐ速いマシンでドライバーやチームのレベルも高く、高度なレースであると言われてきたが、人気は今一つだという認識があった。ところが、昨年の鈴鹿の最終戦では、直前のF1の盛り上がりにつられてなのか、久しぶりにサーキット周辺で渋滞が起きるほど人気だった、今夏の富士スピードウェイではSF過去最高の来場者数となったなど、景気のいい話が聞こえてくるようになった。

 今回はSFシリーズへタイヤをワンメイク供給する横浜ゴムのレーシングタイヤ勉強会でSF Rd.6-7が開催されている富士スピードウエイを取材。人気上昇の理由や現場の盛り上がりを肌で感じてきた。

 SFはJRP(日本レースプロモーション)によって主催されているが、国内トップフォーミュラ50周年を迎える前年の2021年に「SF NEXT50 (ゴー)」というプロジェクトをトヨタ・ホンダとともに立ち上げた。モータースポーツや自動車業界を取り巻く環境が厳しくなるなかで、国内トップフォーミュラの魅力を発展させるとともに、社会に必要とされるモータースポーツを目指すとしている。「サステナブルなモータースポーツ業界づくり」「モータースポーツエンターテインメントの確立」「ドライバー&ファンファースト」をビジョンとして、改革に取り組んだ。

 車両は2022年にトヨタ・ホンダと共に開発テストを進めて2023年からSF23を導入。空力性能を見直して追い抜きのしやすさを創出、ボディ素材の一部を天然素材化、再生可能原料を活用したタイヤの導入、カーボンニュートラル燃料のテストなどを行っている。

 重点的な取り組みの一つがモータースポーツのデジタルシフトで「SFgo」というアプリを導入。モータースポーツはドライバーの表情が見えないので、凄さや苦労などが伝わりにくいが、全車に取り付けられたオンボードカメラを自由に視聴できるとともにチームとドライバーの間でやりとりされる無線音声も聞くことができる。さらに、速度、アクセル・ブレーキなどの操作状況などテレメトリー情報も合わせることが可能。表情こそ見えないものの、無線や操作がわかるとドライバーがどんな戦いを繰り広げているかがよくわかる。

 さらに、単にレースが楽しめるだけではなく、国内モータースポーツ業界におけるDXの実験場としても機能しているという。通信・映像技術の開発テスト、デジタルマーケティング基板、データビジネスの可能性なども追求されている。ここで取得しているデータを活用してデータサイエンティストの育成を目的とした研修なども実施しているという。

 SFgoを運営している現場も見学させてもらったが、オンボード映像は、4Gや5G、LTEといった公共の電波を活用。電波状況が悪い場合の苦労なども多いが、独自回線ではないからコストは抑えられる。無線やテレメトリーなどはチーム向けのものをそのまま集約して、映像と合わせて供給される。

 マーケティング方針は、これまでもモータースポーツを支えてきたコアファンに、SFgoの新たな情報、より幅広いメディアでの発信を提供することで、広がりを持たせること。それに加えて、ABEMAやYouTube、アニマ、e-MotorSportなどを活用してドライバーの人間性やキャラクターをフックにして、にわかファンづくりを行うことなどとされている。

 これらの取り組みの結果として、2023年のYouTube視聴回数は2021年比で1858%、X(旧Twitter)インプレッション数は386%となった。来場者数は2019年が20万人、2022年が10万人、2023年が17万人、2024年は22万人見込みとなっていて、コロナ禍以前を上回る勢い。2024年富士スピードウェイの来場者数は4万9200人とSF過去最高で、そのうち10100人が小中学生、ファミリー比率は50%弱になった。

 たしかに富士スピードウェイを訪れて最初に感じたのはファミリーが多く、以前に比べると年齢層がぐっと若返ったことだ。

 JRPの上野禎久社長は「SFはもともと優れたコンテンツでレースそのものはあまり変わっていないのです。SFgoといったアプリを始めデジタルシフトを意識して、SNSを活用するなど新しいファン層に届けていこうというのが、功を奏し始めているいことを実感しています。近藤真彦さんが会長に就任してくださったことも大きいです。やはり発信力が大きく、レースにも真剣に取り組んできた方ですから、広く遠くまで情報や魅力が届くことになりました。レース自体はドライバーもチームも頑張っていて、きちんと見れば本当に面白いのです。ファミリー層が増えていることも大変にありがたいことです。未来のモータースポーツファンにつながりますから。ファミリーで遊びに来ていただいて楽しめる空間づくりにも取り組んでいきます」とのこと。レースそのものを変えたのではなく、発信に力を入れてファン層を広げているのだ。

 SFの足元を支える横浜ゴムのレーシングタイヤはドライ用は溝のないスリック。一般タイヤと比べると構造もシンプルで、スチールベルトなどの土台の上にのるゴムであるキャップトレッドはかなり薄い。グリップを高めるために接地面積の最大化、接地形状および変化の最適化などが図られている。一般タイヤへのフィードバックとしては、レース向けに使われる軽量・高剛性な材料や構造面での操縦安定性向上のノウハウなどだ。

 現在のSF用タイヤの取り組みは前述のように再生可能資源の活用。従来は原油や地下資源などから合成ゴムやCBシリカ、オイル樹脂、補強材、配合剤などを精製・合成してタイヤを造っていたが、バイオマス資源や循環性資源などから精製・合成を行い、天然ゴム、マスバランスゴム、再生ゴム、再生籾殻CBシリカ、バイオマスオイル、天然由来樹脂、電炉ワイヤ再生亜鉛華などを採用。現在のところサスティナブル素材は33%使用。取材当日にJRP会長でもある近藤真彦氏がデモランで走らせた開発車両は、サスティナブル素材60%のプロトタイプが使われていて、これも近い将来に採用されることになるという。

 課題となるのは、サステナブル素材のうちリサイクル原料は安価ではあるが物性変化が多いこと、性能が維持できるものは高価かつ供給が限定的であることなどだ。それに対してはより品質の良い原料の探索、使いこなし技術の充実、技術動向(コスト・供給)の追跡などを行っている。

 速く走ることと、レース距離をこなせる耐久性という、一般タイヤに比べるとシンプルながら究極の性能を追うレーシングタイヤ。機能がシンプルゆえに、サステナブル素材へのチャレンジは向いていて、開発スピードも早いと言えるだろう。将来のサステナブルな一般タイヤ開発への近道になっているはずだ。

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石井昌道(いしい まさみち)

ライタープロフィール

石井昌道(いしい まさみち)

自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。

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