モータースポーツ
更新日:2024.03.22 / 掲載日:2024.03.22

沖縄ラリーチャレンジの戦略【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY、池田直渡

 昨今、全国の自治体は、地域振興の起爆剤としてラリーに大きな期待を寄せており、開催地が奪い合いになりつつある。当然そこで視野に収まるのは開催地周辺の観光や地域のグルメなどの「ラリーツーリズム」需要である。レースを開催するにはどうしても常設のサーキットが求められるが、ラリーはご存じの通り公道競技なので、ざっくり言って地域の協力さえ得られればどこでも開催できる。だからラリーが注目されるのだ。

 国内ラリーの入門編であり、「参加型ラリー」をコンセプトに掲げ、北は北海道から南は沖縄まで年間12戦が組まれるラリーチャレンジは、現在そうした地域が注目するコンテンツとなっている。

 3月17日、沖縄県、沖縄市とうるま市にまたがるエリアで、同県で初めてのJAF公認格式のラリーとして2024年第1戦沖縄ラウンドが開催された。

サービスパークは沖縄市のコザ運動公園に設置し、スペシャルステージも市内の地元施設を活用した。本格的なラリーカーを多くの市民が肌で感じられるような運営としている

 沖縄市の桑江朝千夫市長は将来に向けて沖縄初の本格サーキットの実現を目指し、モータースポーツによる地域活性化を目指すと言う。うるま市の中村正人市長は、まさに沖縄らしい風光明媚な景色とモータースポーツの融合に期待を寄せる。

 今回はラリーチャレンジの前日にトヨタ主催の「GRフェスティバルOKINAWA」も併催され、沖縄出身のドライバーとして、スーパーフォーミュラーライツやスーパーGTで活躍する平良響、女性初の全日本カート選手権チャンピオン翁長実希両選手とともに、佐々木雅弘選手、勝田範彦選手、そして当然MORIZO選手も参加。「美らSUNビーチ」で華麗なデモランを繰り広げた。

ラリー前日に開催された「GRフェスティバルOKINAWA」では、多彩な車両とドライバーがデモランを披露した

 翁長選手はインタビューで「沖縄ではなかなか本物のプロレーサーや本当のクルマの走りというのを目にする機会がなかったのですが、本土で競技に挑戦し始めて、そのレベルの高さや携わる人たちの魅力に触れて、本格的にモータースポーツ活動に携わるようになりました」と言う。そういう意味でも、JAF公認ラリーの沖縄での開催は、沖縄のモータースポーツにとって大きなステップであり、トヨタが持ち込んだ国際格式のWRCマシーン(ラリー1カテゴリー)のデモランは、沖縄のモータースポーツ史にとってまさに画期的な事件でもあったわけだ。

 地域密着型のイベントらしく、沖縄出身のダンスグループMAXと女優の国仲涼子の同乗走行の他、MAXのライブなども行われ、地元ファンは大いに盛り上がった。

沖縄ゆかりの著名人も参加して盛り上げた。地域の特色が生かされることでイベントが活性化し、旅行者などの集客にもつながっていく

 MORIZO選手は、デモランの際、サンゴが混じった特殊な舗装で、かつ海からの砂が浮く滑りやすいコースで少々頑張り過ぎて、コースの縁石にリヤタイヤをヒット。縁石を壊すというちょっとしたハプニングが発生。クルマはそのまま無事にデモランを続けた。そもそも縁石はクルマがそこから先に乗り越えて進まないようにする設備であり、まさに正しく機能したわけだ。

 デモ走行終了後、MORIZO選手は外れた縁石と記念撮影。縁石に油性マジックでサインを入れた。そして、新たな観光資源「MORIZOコーナー」はグーグルマップにも登録された。まさに地域振興を地で行った形になった。

 話はラリーに戻る。沖縄ラウンドはスペシャルステージ6つで構成され、どのステージもトップタイムが40秒台と異例に短い。初開催ゆえに、まずは手堅く規制しやすいコース設定になったと思われるが、今後の規模拡大を目指すには、もっと長く、沖縄ならではの景色を生かしたコース設定が求められるだろう。青い海と白い砂浜をバックに走るラリーカーの写真は世界中でここでしか撮れないとなれば、勢い盛り上がるはずだし、写真自体もニーズが多いはずである。このあたりは今後の課題である。

 沖縄開催のメリットは他にも沢山ある。いろんな地域が開催地に名乗りを上げているが、沖縄は元々が観光産業が盛んな土地、ホテルや飲食店、観光地が沢山あり、来場者が楽しめる要素が多いし、ラリー開催時以外が丸ごと閑散期になってしまう心配もない。むしろ観光のオフシーズンに開催すれば、経済安定の効果が期待できる。そういう意味で今後の地域振興の成功前例として確立しやすいことは大きなポイントだろう。

 また沖縄の課題のひとつとして、交通事故の多さもある。原則的に鉄道網がなく、移動の多くをクルマに依存している他、海外観光客による慣れない左側通行など、どうにもならない部分はあるのだが、近年、ラリーは交通安全教育の一環としても注目されており、モータースポーツを通じた安全教育が進めば、多少なりとも地域課題の解決にもつながる。それらを地域に応じたコンテンツに落としていく地道な活動が求められるところだ。

 さて、日本の自動車産業全体の中で、一体このラリーチャレンジがどう位置付けられるのだろうか。言うまでもないが、日本の最南端県として、沖縄はアジア全域からアクセスがしやすい。今後競争激化が予見されるASEANに対して、「自動車先進国日本」の文化発信基地としての役割も期待される。クルマの楽しさを中心としたエモーショナルなソフトウェア部分を訴求し、かつて日本人の多くが欧州の自動車文化に憧れたように、言わばニッポンのクルマに付加価値をもたらす役割を担うわけだ。

 端的に言えば、日本の自動車メーカーは、ASEANマーケットで、中国製自動車との一騎打ちが行われる中、単純な価格の叩き合いには参加したくない。となれば、クルマの品質や性能と併せて、自動車文化そのものが大きな差別ポイントとなる。中国の自動車メーカーが逆立ちしようとも、まだ文化や歴史は持っていない。アジアの自動車ユーザーが憧れの対象として見る新たなモータースポーツとして、市販車を使うラリーは親みを持たれやすい。ということで、沖縄にとって初めての公式ラリーの開催は日本の自動車産業全体の戦略にとっても大きな意味のあるものである。

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池田直渡(いけだ なおと)

ライタープロフィール

池田直渡(いけだ なおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(『カー・マガジン』『オートメンテナンス』『オートカー・ジャパン』)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。

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