インタビュー
更新日:2024.12.10 / 掲載日:2024.12.10
パーソナルモビリティの常識を覆す、WHILL社の挑戦
(掲載されている内容は「プロト総研 / カーライフ」2024年掲載記事【WHILL社、パーソナルモビリティ市場の創出に向けて】を転載したものです)
まとめ⚫︎ユニット・コンパス 写真⚫︎ユニット・コンパス、WHILL
『すべての人の移動を楽しくスマートにする』。そんな高い志の元、躍進し続ける「WHILL株式会社」。今回はそんなWHILL社が、近距離移動用のパーソナルモビリティを世の中に広めるために、これまでどのような施策を行なってきたのか。また、今後どのような未来を描いているのかなど、マーケティング的な視点を交えてお伺いしていきます。
WHILL(ウィル)とは?
スタイリッシュなデザインを持ち、時速6km以下で歩道を走行する近距離モビリティブランド。現在は個人向け商品として、椅子型は、プレミアムタイプの「WHILL Model C2」と折りたためる「WHILL Model F」の2モデル。スクーター型は、小回り性能などに優れ市街地のライフスタイルにも合う「WHILL Model R」と、走破性が高く郊外の道路環境にも適する「WHILL Model S」の2モデルを展開。また、法人向けのサービスも充実し、シェアを大きく伸ばし続けている。(WHILL社公式サイト:https://whill.inc)
パーソナルモビリティの普及を阻むのは世間の「意識」
大塚「本日はお忙しいなかありがとうございます。先ほど私も試乗させていただきましたが、操作もわかりやすいし、初めてでもまったく臆することなく楽しく乗れました」
池田さん「ありがとうございます」
大塚「WHILL社は『100m先のコンビニに行くのをあきらめる』という車いすユーザーのひと言から開発が始まったと言われていますが、まずはこの話を、もう少し詳しく教えていただけますか?」
池田さん「この言葉は、創業前の2009年~2011年頃に、初号機をつくったきっかけとなったものです。車いすでは、歩いているときは気が付かないようなちょっとした段差とか傾斜が外出の大きな壁になります。それをなんとかしたかった」
大塚「はじめてウィルを見たときに、とてもスタイリッシュだなと感心したのですが、このデザインへのこだわりは当初からあったのでしょうか?」
池田さん「私たちは、車いすユーザーの方には2つの壁があると思っています。まずは、段差や傾斜といった物理的なハードル。そして次に、『車いすに乗っている人』として見られたくないという心理的なバリアです。私たちはこの壁にテクノロジーとデザインの2つで解決したいと考えました。そして、コンセプトモデルを開発しているときから、電動車いすとしてではなく、パーソナルモビリティとして定義していました。実際、お披露目の場所は、福祉機器のイベントではなく、東京モーターショーにしようとゴールを設定しました」
大塚「当時、すでに市場にあった電動車いすなどは意識されなかったのでしょうか?」
池田さん「もちろん販売現場ではライバルになりますが、それよりもパーソナルモビリティとしての新しい価値を創造していくことに会社の意識が集中していました。創業当時から世界のマーケットを意識していて、2013年には米国シリコンバレーに拠点を設立しています」
大塚「スタート時から世界を見据えていたのですね。現在の市場の状況はいかがでしょうか?」
池田さん「現在日本には65歳以上の高齢者が3600万人いて、そのなかで500メートル以上歩くのはつらい、もしくは歩きづらいと感じているシニアが1200万人いるとされています(出典 500m以上の歩行困難者 65歳以上 全国 政府データ)。にも関わらず、電動車いすとシニアカーを合わせても、年間出荷台数は約3万台にとどまっています。この歩行困難者を母数としたときの流通台数の割合は、たとえばアメリカと比較すると圧倒的に少ないのです」
大塚「日本にはまだ歩行困難者が乗り物に乗るという文化が根付いていないということですね」
池田さん「文化がないため、こうした領域の商品をカバーする保険サービスや分割払いなどの買い方、製品を試す場所など、その製品が流通して発展していくものがない。そこでWHILL社では、クルマと同じようなエコシステムを弊社が中心となってつくっていこうと考えています」
大塚「製品開発にとどまらず、市場そのものを開拓していく必要があったと。そこには相当なご苦労とモチベーションがあったと想像します」
商品ではなく販売現場を変える
大塚「2021年から販路を自動車ディーラーに拡大しました。この狙いを教えてください」
池田さん「最大の狙いは、イメージを変えることです。介護ベッドの横にウィルがあるとユーザーは電動車いすだと認識するでしょう。しかし、クルマのディーラーで展示車の横にウィルがあったら、これはパーソナルモビリティに見えるのではないか。もしも、全国の自動車ディーラーにウィルがあったら、何かが変わるのではないだろうか? そういうイメージで始めた取り組みです」