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更新日:2019.06.17 / 掲載日:2019.06.17
MAZDA3の血統から系譜を辿るマツダ四輪車の源流

マツダ3の歴史を辿ると、それはマツダの四輪車進出そのものに直結する。R360クーペ、キャロルと軽四輪車を発表したマツダは、1962年、その技術をベースに800ccの小型車「ファミリア」を発売。これがマツダ3の源流だ。
●本文:横田 晃
バンから始まったファミリーカー
1960年代前半の日本の自動車産業は、まさに激動期にあった。65年の外国車輸入自由化を控えて、管轄官庁である通産省(現・経産省)は自動車業界の再編を画策、中小メーカーは大メーカーに吸収合併される危機に瀕したのだ。
その一方で、同じ通産省の発案で55年に話題を呼んだ国民車構想以来、庶民の自家用車への憧れと期待は、高度経済成長と相まって膨らみ続けていた。そうした状況の下で、中小メーカー各社は生き残りを賭けて魅力的な小型乗用車の開発に挑んだのだった。
戦前から3輪トラックメーカーとして名を馳せた広島の小メーカー、東洋工業(現・マツダ)が乗用車の開発に取り組んだのも、同じ理由だ。58年に初の4輪トラックを世に出した彼らは、念願の乗用車として、60年にスタイリッシュな軽自動車のR360クーペを発売。61年には他社にない技術を身に着けるために、西ドイツのNSU社とバンケル社が開発に成功したばかりのロータリーエンジンの技術提携契約を結ぶ。
続いて62年には、オールアルミ製水冷4サイクル4気筒という贅沢なエンジンを積む軽自動車、キャロルを発売した。じつは最初から800cc級の排気量を想定して開発されたこのエンジンこそ、本命の小型乗用車開発の伏線だった。
そして63年にこのエンジンを積んだ初代ファミリアが誕生した。最初に発売されたのは、商店の配達車兼用自家用車として普及しつつあったライトバン。続いて、セダン、クーペとバリエーションを増やしていった。
●主要諸元初代ファミリア4ドアセダンデラックス(66年式)○全長×全幅×全高:3765mm×1465mm×1385mm ○ホイールベース:2190mm ○車両重量:740kg ○乗車定員:5名○エンジン(SA型):直列4気筒OHV782cc○最高出力:45HP/6000rpm○最大トルク:6.3kg・m/3200rpm○最高速度:115km/h○燃料消費率:24km/L○最小回転半径:4.4m○トランスミッション:前進4段フルシンクロ、後進1段 ○サスペンション(前/後):ダブルウィッシュボーン式独立/半楕円リーフリジッド○タイヤ:6.00-122PR ○価格(全国統一):54万8000円
ファミリア800のベースになったキャロル600のオールアルミ「白いエンジン」

R360クーペに積まれたV型2気筒もアルミやマグネシウム合金が使われ、当時としては異例の高回転エンジンだった。しかし次のキャロルの4気筒エンジンはアルミ合金化がさらにすすみ、鋳鉄とは明らかに違う見た目から「白いエンジン」と呼ばれている。このエンジンをベースにファミリアの800ccエンジンが開発された。
1stファミリア(1963年~)

オールアルミ製のOHV4気筒エンジンと、当時の東洋工業がデザインを発注していたベルトーネ譲りのエレガントなスタイル。小型車第一号ながら、初代ファミリアは高い完成度を見せ、65年に加わったクーペには、いち早くSOHCの1Lも積まれた。庶民へのマイカーの普及はまだ望めなかった当時、街の商店の配達車兼自家用車となるライトバンから発売されたのは自然な流れだった。ちなみに後発の日産サニーも、まずライトバンの商品企画で役員決済を通している。
カローラ、サニーに先行した1000ccクラスのファミリーカー
・バン
・2ドアセダン
・2ドアクーペ
・ピックアップ
2ndファミリア(1967年~)

・ファミリアプレスト
サニーとカローラが誕生する翌年に登場した2代目は、より大きく、高性能に進化を遂げた。68年には待望のロータリークーペも追加。翌年にはロータリーセダンも投入するほか、70年にはひとクラス上の車格を謳うファミリアプレストシリーズも登場。71年には、上級のサバンナと共通のボディを持つ、グランドファミリアも誕生している。
●主要諸元2代目ファミリアプレストロータリークーペGS(72年式)○全長×全幅×全高:3830mm×1480mm×1345mm○ホイールベース:2260mm ○車両重量:835kg ○乗車定員:5名○エンジン(M10A型):直列2ローター491cc ×2 ○最高出力:100PS/7000rpm○最大トルク:13.5kg・m/3500rpm○最高速度:180km/h○燃料消費率:24km/L○最小回転半径:4.1m○燃料タンク容量:40L○トランスミッション:前進4段フルシンクロ、後進1段 ○サスペンション(前/後):マクファーソンストラット式独立/半楕円リーフリジッド○タイヤ:155SR13 ○価格(東京地区):66万8000円
上級仕様のプレストと韋駄天ロータリーも誕生
・ファミリアロータリークーペ
3rdファミリア(1973年~)

3代目は、ドアなどの骨格は2代目から流用しながらも、全幅を60mm拡大するなどして車格や快適性を向上。全車がファミリアプレストを名乗るようになる。排ガス規制もあり、ロータリーエンジン車は消滅するが、希薄燃焼型エンジンなどにより着実に環境性能を高めていった。
全車に「プレスト」のサブネームが付く
4thファミリア(1977年~)

・5ドアハッチバック
コンパクトカーの標準形となりつつあった2BOXハッチバックの4代目から、欧州ではマツダ323を名乗る。国産車初の5ドアも設定。駆動方式は実績のあるFRを採用していた。高倉健主演の映画『幸福の黄色いハンカチ』では、北海道を旅する彼らが乗る真赤な5ドアハッチバックが重要な役を演じた。
映画でも活躍した最後のFRモデル
5thファミリア(1980年~)

・3ドアハッチバック
FF化された5代目は、全世界でヒットした。日本では、ルーフキャリアにサーフボードを積んだファミリアでナンパにはげむ陸サーファーが、社会現象とさえなった。クルマとしての実力も高く、自動車技術会から顕彰されたSSサスペンションは鋭い走りを見せ、第一回日本COTYを獲得。ヨーロッパCOTYでも日本車最上位に輝いた。
●主要諸元ファミリア3ドアハッチバック1500XG(80年式)○全長×全幅×全高:3955mm×1630mm×1375mm○ホイールベース:2365mm ○車両重量:820kg ○乗車定員:5名○エンジン(E5型):直列4気筒SOHC1490cc ○最高出力:85PS/5500rpm○最大トルク:12.3kg・m/3500rpm○燃料タンク容量:42L○10モード燃費:16.5km/L○最小回転半径:4.6m○トランスミッション:前進5段、後進1段○サスペンション(前/後):ストラット式独立/ストラット式独立○タイヤ:175/70SR13 ○価格(東京地区):103万8000円
デートカーの定番「赤いハッチバック」
6thファミリア(1985年~)
・3ドアハッチバック フルタイム4WD
・カブリオレ
フルタイム4WDやカブリオレも登場
キープコンセプトのデザインで登場した6代目は、話題性では5代目に及ばなかったが、高い実力を誇ったモデル。小型車クラス世界最高のCD値0.35を実現し、日本車初のフルタイム4WDとターボを組みあわせてWRCでも活躍。ディーゼルも搭載した。4座のフルオープンカブリオレなど、ボディバリエーションも意欲的だった。
7thファミリア(1989年~)

・3ドア ハッチバック
初代ロードスターと同じ年に誕生した7代目は、プレーンなセダンとスポーティな3ドアハッチに、リトラクタブルライトを備えたクーペライクな5ドアハッチのアスティナも設定。4WDは前43:後57の駆動力配分でスポーティ色を強め、後期には210PSの1.8Lターボもラインナップされている。
姉妹車レーザーを含め膨大なバリエーション

・5ドア ハッチバック「アスティナ」
8thファミリア(1994年~)

・3ドアハッチバック「NEO』
より海外市場を意識したデザインへ
バブル崩壊後の94年に誕生した8代目はボディバリエーションを絞り込み、オーソドックスなセダンと、大胆なデザインのネオと呼ぶ3ドアハッチの構成。 95年には生産累計1000万台も達成し、世界約120か国で販売されるが、国内では不発に終わった。
9thファミリア(1998年~)

・5ドア「Sワゴン』
5ドアのショートワゴンが人気
9代目では3ドアハッチを諦め、国内にはセダンと、Sワゴンと呼ぶスポーティな5ドアのラインアップとなった。スタイリッシュなSワゴンは好評を博し、強力な2Lエンジンを搭載したスポルト20は最後のファミリアとなったこのモデルの代表車種となった。
WRCで活躍したマツダ323
ファミリアは82年から初代FFモデルで海外ラリーに参戦し、86年からは、6代目がマツダ323 4WDの名でWRCに挑んだ。87年と89年のスウェディッシュと89年のニュージーランドでは総合優勝も飾っている。ライバルの大排気量、大パワー化に追いつけず、92年に参戦を終了したが、そのハンドリングは高く評された。
6代目ファミリアに追加されたラリー競技仕様に快適装備をプラスしたGT-Ae。1.6LのDOHCターボ+フルタイム4WD。ストラットタワーバーや100Wのヘッドランプなどを特別装備した。
1987年WRCスウェディッシュラリーで総合優勝を飾ったファミリアフルタイム4WD。89年の同ラリーでも優勝するなど冬のレースにめっぽう強く「雪の女王」と呼ばれた。
○ファミリアとアクセラの変遷
1963年ファミリア800バンデビュー。
1964年ワゴン、セダンを追加。
1965年1.0Lエンジンのクーペ追加。
1967年2代目ファミリア1000にモデルチェンジ。
1968年ファミリア1200追加。
ロータリーエンジン車を追加。
1970年ファミリアの上級版「プレスト」発売。
1971年サバンナのレシプロ版グランドファミリア発売。
1973年ファミリアロータリー廃止。
3代目ファミリアプレスト発売。
1977年4代目ファミリアAP発売。
1980年FRからFFに変身。
5代目ファミリアが大ヒット。
第一回日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞。
1982年4月の登録車月販台数でトップとなる。
1983年ファミリアターボ追加。
1985年6代目ファミリア発売。
1986年ファミリアカブリオレ追加。
1989年7代目ファミリア発売。
ファミリア「アスティナ」発売。
1994年8代目ファミリア発売。
1995年ファミリア生産累計1000万台を達成。
1998年9代目ファミリア発売。
2003年ファミリアからバトンを受けた初代アクセラ発売。
2009年2代目アクセラ発売。
2011年スカイアクティブ技術導入車を追加。
2013年3代目アクセラ発売。
2016年アクセラの累計販売台数が500万台を突破(マツダ車最短記録)。
2019年アクセラからMAZDA3へ。
華麗なるメタモルフォーゼ
日本のマイカー元年は、サニーとカローラが誕生した66年というのが定説だ。事実、それ以前に登場した初代ファミリアは高く評価されながら、爆発的な人気とはいかなかった。しかし、67年に生まれた2代目ファミリアは、サニーとカローラを相手によく戦った。
その大きな武器となったのが、コスモスポーツから移植された10A型ロータリーエンジンだ。本来はリッターカーのファミリアのボディに、100馬力のロータリーエンジンは強烈な走りをもたらし、若者たちの注目を浴びる。
その人気ぶりは、トヨタも本気にさせた。2代目カローラにセリカ用DOHCを押し込むという荒業で生まれたレビンの商品企画は、明らかにファミリアロータリークーペの対抗馬。事実、初代カローラを開発した長谷川龍雄主査は、ライバルとしてサニーよりファミリアを強く意識していたという。
そうして若者の心を捕らえたファミリアは、77年の4代目以降は、世界の小型車のトレンドとなったハッチバックを主軸に据え、海外市場にも積極的に進出する。
日本国内では、FRからFFに転身し、プレーンなデザインと優れたハンドリングで第一回日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した5代目が、社会現象とも言えるほどの爆発的な人気を得た。このモデルは81年のヨーロッパCOTYでも、日本車最高位となる総合4位を獲得し、北米やオーストラリアなどでも賞を得ている。
以後、日本初のフルタイム4WDを搭載してWRCにも挑んだ6代目、ハッチバック実用車の概念を覆す流麗なアスティナを擁した7代目など、ファミリア(欧州名マツダ3)は海外で高い評価を得る。日本車は走りもデザインもまだまだと言われていたころ、ファミリアはいち早く群雄割拠の欧州でも高く評価されたのだ。
そして今、初代ファミリアから数えて13代目の子孫が、日本でも「3」を名乗る。より一層グローバルカーへと進化したその実力を、いよいよ故郷の日本で問うことになる。
1stアクセラ(2003年~)
・スポーツ
3ナンバーボディの世界戦略車へと変貌
03年に登場した事実上の10代目ファミリアは、世界戦略車としての立ち位置を鮮明にした。欧州のライバルの動向に合わせて、ボディサイズを拡大。日本では3ナンバーサイズとなることから、車名もアクセラ(英語で加速するの意)に改めた。ボディはスポーツと呼ぶハッチバックとセダンの2タイプ。
●主要諸元初代アクセラスポーツ20S(04年式)○全長×全幅×全高:4485mm×1745mm×1465mm○ホイールベース:2640mm ○車両重量:1260kg ○乗車定員:5名○エンジン(LF-DE型):直列4気筒DOHC1998cc ○最高出力:150PS/6500rpm○最大トルク:18.7g・m/4500rpm○燃料タンク容量:55L○10・15モード燃費:163.8m/L○最小回転半径:5.2m○トランスミッション:前進4段オートマチック○サスペンション(前/後):ストラット式独立/マルチリンク式独立○タイヤ:195/65R15 91H ○価格(東京地区):175万円
2ndアクセラ(2009年~)
・スポーツ
スカイアクティブ技術を導入
狙い通り世界でヒットしたアクセラの2代目は、キープコンセプトながら全方位に進化した。独自のアイドリングストップシステムを搭載するなど環境性能も高レベル。11年にはパワートレーンがスカイアクティブ化されている。ボディは5ドアのスポーツとセダン。
3rdアクセラ(2013年~)
・セダン
ディーゼルとハイブリッドも誕生
・スポーツ
魂動デザインとフルスカイアクティブを採用した3代目には、クリーンディーゼルやトヨタから技術供与を受けたフルハイブリッドシステムも搭載。最新のコネクテッド技術も採用されている。マツダ独自の味付けがなされたハイブリッドの走りは、本家のトヨタも唸らせた。