新車試乗レポート
更新日:2019.05.22 / 掲載日:2019.02.21
スバル新型フォレスターを豪雪地域でロングドライブ! 実力派SUVの実力をチェック!

文と写真●ユニット・コンパス
2月14日のバレンタインデー、スバルからのプレゼントはチョコレートではなく、真っ白な雪国でのスノー・ドライブだった。
本格的な冬の時期になると、各メーカーは雪上でのクルマの振る舞いを体験できる機会を提供してくれるのだが、今年のスバルが企画したのは「試乗会」よりもリアルワールドに近い「スノードライブ」。4WDにこだわりを持つブランドとして、長時間、長距離を試してもらうことで、より深いところまでの理解を促すという意図がそこにはある。短時間の試乗会を立食パーティに例えるならば、こうした半日以上の試乗はデートのようなもの。より、一緒に暮らしてみたときの振る舞いがリアルに想像できるというものだ。 訪れたのは山形県の肘折。2018年には445cmもの積雪を記録した豪雪地域であり、これは気象庁の統計によれば2000年以降では歴代2位となるという。まさにスノードライブを行うには格好の舞台だ。
スタート前のプレゼンテーションでスバルは、いわゆる悪路走破性だけではなく、雪国においてのクルマ全体としての使い勝手のよさ、たとえば運転席からの見とおしのよさやエアコンの効き、最低地上高の設定などを含めた総合的な安心感を体感して欲しいと説明した。
リアルワールドでこそ実感できる使い勝手

まずステアリングを握ったのが「フォレスター X-BREAK」、つまり2.5Lガソリンエンジン搭載モデル。午後には同じくフォレスターながら、マイルドハイブリッド搭載の「Advance」を試乗できることになった。言うまでもないが、いずれも4WDで、タイヤはブリジストンのスタッドレスタイヤ「BLIZZAK VRX2」が装着されていた。
山形国際ホテルからスタートし、乗り換え地点である肘折温泉までの片道約100kmを走り始める。出発時刻が出勤時間と重なっていたこともあり、交通量は多め。エアコンが本格的に車内を暖める前に、雪道に慣れた地元ドライバーたちの列に紛れ込むことになった。
国道13号を北上し、木工で有名な天童市を通過。歴史を感じさせながらも現代的に洗練された街並みに後ろ髪を引かれつつもフォレスターを走らせる。スタート時に入れたシートヒーターはLOWでもすでに暖かすぎるくらい。個人的な話になるが、冬場はエアコンの送風を足元にしてシートヒーターを効かせるのが好みなのだが、新型フォレスターではフットダクトを大型化し、吹き出しモードも多段化させたという。頭寒足熱、温風によりのぼせがちになるのを防ぐ意味でも好ましい。また、シート表皮に変わりなく全グレードにシートヒーターとステアリングヒーターが標準装備されるというのも嬉しい心配りだ。
路面状況が悪くても、走る、曲がる、止まるのバランスがいい

それにしても新型フォレスターは乗り心地が洗練された。とくに段差を乗り越える際の振動吸収が上手になっており、プラットフォーム刷新の効果を大きく感じる。流れに乗って走るかぎりエンジンの音も非常に静かだ。
尾花沢市に入り標高が上がってきたのか徐々に路面の路面に残る雪の量も増えてくる。アスファルトと雪がまばらに顔を出すようなこうした状況でも、ステアリングの手応えは変わらず車線をまっすぐに捉え続ける。もうひとつ嬉しいのがブレーキ操作に対する車両の反応が穏やかかつ正確なこと。厚底靴であっても気を張らずに操作できるというのは、言うまでもなく安心感につながる。もちろんアクセルもそう。車体側のキャパシティが大きく引き上げられたおかげで、ドライ路面では少々おとなしいと感じられた2.5Lガソリンエンジンも、こうしたスノードライブにはまさにジャストフィット。走る、曲がる、止まるのバランスが綺麗に揃っているのは、良いクルマに共通するポイントだ。
国道を淡々と走っていても面白みがないので、コースを右に逸れて銀山温泉に立ち寄ることにする。江戸時代に銀山として栄えた延沢銀山に由来する温泉郷で、大正、昭和時代の湯治場を現在に伝える風情が人気のスポットだ。温泉へのルートへ進んだ途端に路面は完全に雪で覆われ始めたが、フォレスターとブリザックというコンビにはまったく影響なし。というよりも、地域の住民にとっては生活道路であるため、坂道であっても路面に消雪パイプが整備されているし、除雪も適切に行われている。適切な備えさえしていれば、観光客でも安心して訪れることのできるのは、考えてみれば当たり前である。
銀山温泉の景色を楽しんでルートへ復帰し、山形自動車道で高速走行を体験しながら目的地の肘折温泉に向かう。高速では溶けた雪で所々ウェットであったが、速度を上げても安定感は変わらず、車内も静か。白線が隠れてしまうのでツーリングアシストによる車線維持は難しいが、ロングツアラーとしての才能も感じられた。
良い意味でモーターの存在を感じない「Advance」

肘折温泉付近でのワインディングと昼食を楽しんだあとは、車両を「Advance」に乗り換えてゴールである庄内空港を目指す。途中、出羽三山神社や鶴岡市、坂田市といった地域を散策したが、そこは割愛。「Advance」の印象を簡単にまとめると、2Lエンジンにモーターによるアシストを加えたシステムは、あまりハイブリッド車であることを感じさせないナチュラル系。街中での発進時などモーターのみで走行するシーンもあるが、基本的にはモーターは縁の下の力持ちとして働く。個人的にはもっと電動車らしさを高めた設計に期待していたが、価格設定など難しい部分もあるのだろう。暮らしに密着したアフォータブルなSUVというフォレスターのキャラクターは魅力であり、そこの舵取りは難しいところだ。
雪国におけるタフな相棒がもっと使いやすく快適に

今回、ほぼ1日という時間をフォレスターと一緒に過ごし、200km以上もの雪道を走ったわけだが、日本有数の豪雪地帯であっても、一般的な使い方ではその実力は完全にオーバークオリティだった。なにしろ走破性を高める「X-MODE」の出番は一度としてなかったのである。さらに、スバルのこだわりである視界の良さが、狭い道でのすれ違いやバックモニターが雪で覆われてしまうような状況でのUターンで心強いことも実感できた。今回はひとり旅で荷物も少なく、ツーリングのような取材になってしまったが、もっと大人数で荷物も満載した方が、良質なツールとして、このクルマのよさがもっと感じられただろう。
2Lから2.5L級のガソリンエンジンを搭載するコンパクトSUVには魅力的な選択肢がいろいろあるが、本格的な悪路走破性、運転のしやすさ、室内空間の居心地のよさ、そして使いやすい荷室を求めるなら、フォレスターは改めていい選択肢であることが再確認できた。