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更新日:2026.03.20 / 掲載日:2026.03.20
ホンダは何に惑わされたのか?【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●ホンダ
すでに多くのニュースを賑わしている通り、ホンダは2026年3月期の連結通期見通しを大幅に下方修正する見込みを発表した。現時点では各種損失を合算すると最大で2兆5000億円と試算している。同時にEV3車種「Honda 0 SUV」、「Honda 0 Saloon」、「Acura RSX」の開発・発売の中止など、戦略枠組みの再整理と競争力の再構築を進める発表を行った。
平たく言えば、EVシフトへの投資に失敗し、多分野での損出が発生し、戦略の転換を余儀なくされているということになる。

2021年4月、三部敏宏CEOは社長就任会見で、大胆にも2040年に、ハイブリッドなどを含む内燃機関からの完全撤退を宣言した。先進国トータルで30年にはEVと燃料電池車(FCV)を40%、5年後の35年には80%まで推し進めるという他に類を見ない野心的な目標設定だった。
2020年と2021年と言えば、まさに全世界にEV旋風が猛威を振るっていた最中であり、大手新聞社などは、「EVシフトに頑強に抵抗するトヨタと、果敢に新時代を切り開こうとするホンダ」という図式で散々書き立てていた。そうやって囃し立てる側に立っていた新聞が、今、ホンダと三部CEOをさながら断罪するかの様な記事を書いているのを見ると、「まずは己の不明を恥じよ」と思う。
その社長就任演説の時、筆者は「内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ」という記事をIT media ビジネスオンラインに書いている。
実はこの三部CEOの就任会見は2部制になっており、確かに第1部では、内燃機関からの撤退とEV・FCVシフトを明確に宣言していた。がしかし、第2部の質疑応答では、全く異なるEVシフトの難しさを、他ならぬ三部CEO自身が説明していた。
世界中の量産自動車メーカーのフロントランナーとしていち早く明確に内燃機関禁止を宣言したことに対して、具体的な方策を問う質疑が向けられ、三部CEOはエンジニアらしい誠実さで、それらに何がどう難しいのかを説明したのである。

以下にそれら回答をざっくり要約して記載するので、元の回答がご覧になりたい方は前述のリンク先でオリジナルの記事をご一読いただきたい。
まずは方針転換の理由については「政府提案の13年比で30年に46%削減という目標は極めて妥当な数字であると思います。非常に厳しい高い目標ではあるかとは思いますが、ホンダとしても全面的に支持するとともに、全力を挙げて達成に向けて取り組んでいきたいと思います」と回答しており、それはつまり政府の申し入れに従うことが事の発端であることを示している。
次にバッテリーの調達問題については「原材料を含めたバッテリーの調達といった問題については、これだけでも相当ハードルが高いと考えています」と答えており、バッテリーの調達にはまだ目処が立っていないことと、そこに相当な困難が伴うことをはっきりと認識していることがわかる。
ホンダにとっての重要マーケットである北米で果たしてEVが売れるのかについては「今のガソリン車(の使い勝手を)そのままEVで置き換えるということはまだまだできておりませんし、そういう顧客視点で買っていただけるEVが30年までに供給できるかで、普及するしないがだいぶ変わってくる」と説明しており、商品のポテンシャル不足も、技術的飛躍がなければ普及が難しいことも理解していることがわかる。
充電インフラの普及については「想像していただくと分かると思うのですが、皆さんが住んでいるマンションに、充電設備がないところがたくさんあると思うのですが、すでに建っているマンションに充電環境が作れるかというと非常に大きな課題があると思います」と危惧を認識する発言となっている。
つまり、三部CEOは、決してEVシフトを舐めてかかったわけではなく、幾多の難しい問題が山積していることを正確に認識していたことが発言からもわかるし、現場で直接聞いた筆者も「これは第1部と第2部の内容が完全に矛盾している」と受け止めた。そしてむしろ三部CEOがより自分の言葉で語ったと感じたのは、第2部の方だった。
となると不思議である。これから社を挙げて臨む大掛かりな戦略転換に際し、トップが実現が難しそうだと認識しながら、大転換を発表したことになる。謎としか言いようがない。

筆者が理由を考えるとすれば、第1に当時猛烈な勢いだった、機関投資家からのEVシフトへの転換圧力。次に環境団体やグリーンビジネス界隈からの、威力的なロビイング活動あたり。そうした株価や取引を人質に取った巨大な圧力によって、CEOと言えども屈っさざるを得なかったのではないか。
実際トヨタなどは、相当に悪質な営業妨害広告を頻繁に出されており、証券筋や金融市場での取引に影響が出てもいたのである。
少なくとも三部社長が、エンジニアとして正しい状況認識下にあったことは間違いない。がしかし、それがどうしてCEOとしてのああいう経営判断になったのかは全くの謎である。ホンダ自身がその理由を説明しない限り、永遠に謎のままになると思われる。