新車試乗レポート
更新日:2025.11.06 / 掲載日:2025.11.06
究極のスポーツカー! マクラーレンの世界を紐解く【石井昌道】

文●石井昌道 写真●マクラーレン
F1の名門コンストラクターを礎としてエンジニアリング優先主義を貫く姿勢が魅力のマクラーレン。
モータースポーツの名門が手掛けるスーパーカー

初の市販車は1992年に登場したマクラーレンF1でアイルトン・セナ&アラン・プロストの黄金時代にテクニカルディレクターだったゴードンマレーが究極のロードカーを目指して開発。カーボンファイバーを贅沢に投入するなど話題のモデルだった。1995年にはロードカーをベースに最低限のモディファイを加えたレーシングカー、マクラーレンF1 GTRでル・マン24時間レースに出場し関谷正徳選手が乗る59号車が総合優勝を果たし、翌1996年には全日本GT選手権で圧倒的な強さでチャンピオンを獲得したことは日本人にとっていい思い出だろう。
日本での市販車の展開はMP4/12が導入された2012年から。販売台数は初年度が42台、2016年には初の3桁で179台と順調に伸びていき2024年は290台。フェラーリやポルシェに比べると少なく思えるかもしれないが、世界のなかでアメリカにつぐ2位であり、日本は今や重要なマーケットになっているのだ。
その背景にはユニークだといわれる日本のマーケットに合わせて体制を整えたことにある。2019年にマクラーレンとしては世界初となる認定中古車センターをオープン。高価格帯になればなるほどリセールバリューは重要で、そのためには中古車にもしっかりと価値をもたせるのが肝要だ。認定中古車はマクラーレンが定めたプログラムに沿って認定メカニックがしっかりとメンテナンスして良好なコンディションがキープされる。他のスーパースポーツに比べると硬派なユーザーが多く、サーキット走行にいそしむケースもあるから、メンテナンスの重要性は高いだろう。認定中古車によって裾野が広がり若い世代を引き寄せ、リセールバリューが向上するにつれて新車の人気も高まっていく。
また2022年にはテクニカルPDIセンターを設立してさらにクオリティを高めた。こうして好循環が生み出されたことで世界2位のマーケットとなったのである。
その功績が評価されたからか2025年9月10日には初の日本専用リミテッドエディションの750S 96が発表となった。車名の96は、1996年に全日本GT選手権を制したラークマクラーレンへのオマージュであり、ゼッケンが61だったことから61台限定となっている。専用のエクステリアとインテリアが与えられたほか、MSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ)のHDK(はいダウンフォース・キット)も装備。クーペとスパイダーが選択できるが、スパイダーでHDKが用意されるのはこのモデルのみ。つまり日本以外では手に入らないものとなっている。
マクラーレンの最新モデルを一気乗り!

現在のラインアップはアルティメイトシリーズのW1、スーパーカーシリーズでV8の750S(クーペ/スパイダー)、同じくスーパーカーシリーズでV6 PHEVのアルトゥーラ(クーペ/スパイダー)、GTシリーズのGTS。今回はW1を除く3モデルに改めて試乗した。
750S

750Sに搭載されるレーシングエンジン直系のV8エンジンは熟成を重ねてきている。以前は実力は高いもののビジネスライクなところもあったが、いまでは官能的なエキゾーストノートを兼ね備えている。750PSものパワーを誇るが柔軟性が高いため扱いにくいなんてことはまったくない。
どんなシチュエーションでもドライバーの意図に忠実だ。右足に力を込めれば凄まじい加速が味わえるのだが、そのときに感じるのはシャシーの能力の高さだ。サスペンションはそれ相応に引き締まってはいるものの、じつに綺麗にストロークして荒れた路面でもタイヤをきっちりと押しつけている。だからRWD(後輪駆動)でも躊躇なくアクセルを踏んでいけるのだ。絶品なのがステアリングフィールで、数多あるスーパースポーツのなかでも最上の部類。操舵力は重すぎず、それでいてインフォメーションが豊か。握った感触も素晴らしい。速度が高まれば高まるほどにボディが路面に吸い付いていくがあるのはエアロダイナミクスの効果だ。


GTS

GTSは乗り降りのしやすさや、信じられないほど快適な乗り心地などでなるほどグランドツアラーなのだと思わせる。これならロングドライブでも疲れは最小限に抑えられるだろうし、日々の使い勝手もよさそう。これはマクラーレンに共通するところなのだが、視界の良さや車両感覚の掴みやすさがあって、見た目やボディサイズよりもずっと扱いやすいのだ。派手な演出に見えるディヘドラルドアだって開閉時の横方向への張り出しは他の同様のドアよりもずっと小さくて安心感があり、一般的なドアよりもスマートに低いコクピットへ滑り込める。機能性の高いドアなのだ。
これなら日常的に付き合いやすそうだと思えるGTSだが、ワインディングロードでの振る舞いは紛うことなきスーパースポーツだ。コーナーへのアプローチを速めていけばプロアクティブ・ダンピング・コントロール・サスペンションはほどよく引き締まって一体感が高くなっていくのだ。


アルトゥーラ

アルトゥーラのV6は、他のV8に比べると少しばかり大人しい印象を受けるが、そのかわりに電気モーターとの見事な連携で素晴らしいドライバビリティをみせる。早朝や深夜の住宅街をEV走行できるというだけではなく、電気の力で新たな走りの魅力を引き出しているのだ。さらにカーボンモノコックは設計が新しいだけあって洗練度が高く、重心の低さもあいまってハンドリングの一体感は一際高い。スーパースポーツにも電動化の波が押し寄せPHEV化されたアルトゥーラだが、環境性能を高めただけではなくシャシーのポテンシャルも超一流なのだ。


スポーツカーファンの憧れを叶える存在
マクラーレンはどのモデルもカーボンモノコックを採用していて、アルミニウム主体の同クラスのモデルに比べると150kg程度は軽く、剛性は同等以上。カーボンはしっとりとしたフィーリングをもたらすのも特徴で他にはない洗練された乗り味もあるのだ。スポーツカー・ファンとして一度はカーボンモノコックのモデルと付き合ってみたいものだが、実現しやすいのはマクラーレンだろう。自社生産にまで取り組んでいるから、内容のわりにはリーズナブルとさえ言えるからだ。V8のピュアエンジン車はAEB(衝突被害軽減ブレーキ)を搭載していないので、日本国内では2026年7月からは販売できなくなるから、新車で購入できる期間はわずかしか残っていないのが残念だ。