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更新日:2025.08.15 / 掲載日:2025.08.15
第1四半期決算へのトランプ関税の影響【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

文●池田直渡 写真●マツダ、フォード
2025年第1四半期発表の自動車メーカー各社の決算発表が行われ、国内メーカーのほとんどが利益をダウンさせた。第1四半期の3ヶ月を通して、トランプ関税により、米国向け輸出に25%関税が課されたことが原因である。ただしこの状況が長く続くわけではない。価格は相対的なものだからだ。
そもそも関税とは輸入品に課税して売価を高くすることで、相対的に安い国産の販売を促進することが目的である。当然のこと輸入車が高くなり、国産車が安くなければ成立しない。
欧州や韓国など、日本以外からの米国への輸入車は多少の税率の差こそあれ課税対象となるはずで、日本と条件はイーブン。中国に至っては100%課税で、米国マーケットから締め出しを食っている。

つまりトランプ関税下の米国内市場で課税された日本車と競合するクルマは、他国からの輸入車ではなく「実質的に米国内で製造される米国車と他国籍車」だ。ところが、20年ほど前から国際分業化が進み、米国内生産のクルマも人件費の安いメキシコからの部品調達がコスト削減の主要手段となっている。米国内産のクルマのかなりの部品がカナダやメキシコ製なのだ。
これはUSMCA(米、カナダ、メキシコの非関税貿易協定)を利用した国際分業生産システムだったが、今回の一連のディールの中で、紆余曲折の末、米政府は「USMCA圏内からの輸入でも、金額ベースで米国製でない部品代(例えば50%)は課税対象にする」という無茶な要求を突きつけて紛糾中。これがまだ決着していない。
もし本当にUSMCA圏からの部品比率に応じた課税対象になるのであれば、日本からの輸出車のみならず、他国からの輸入車も、米国国内生産車も、多少の税率の違いこそあれ全部課税されることになる。
天秤の両側に比較対象が乗るまでどちらが上がるか下がるかはわからない。いずれにしてもUSMCAの扱いがどうなるかに依拠するので、それまでは日本が有利とも不利とも言えない。当然巷間に膾炙(かいしゃ:知れ渡り評判になっている)する個社に対する悲観論も楽観論も根拠がないことになる。
それでもひとつ言えるのは、国籍単位で考えれば米国の自動車メーカーはかなり純度の高いドメスティックブランドであり、日本でも欧州でも中国でもASEANでも、およそ海外で売れない。つまり販売台数のほぼ全数が米国内販売であり、ほぼ例外なく今回の関税政策に巻き込まれる。一方で日本のメーカーは、仮に米国で利益が飛んでも、母国や他国では従来通りのビジネスができる。そう考えるとあながち日本が不利とは限らないように思える。
では何故国内各社は、第1四半期利益を大きく減らしたのかと言えば、この3ヶ月の方針として、ひとまず関税25%を価格転嫁せずに、利益から吐き出したからだ。8月7日には関税率が15%に下がる見込みだったが、自動車についてはその発動日が例外で未定ということで、まだ25%が続いている。今回の交渉は米国側が押したり引いたりを繰り返し、落とし所が一向に決まらない。その中で経営判断をする側は大変だと思う。

無論いつまでも、価格転嫁を回避したまま引っ張るわけにはいかない。ただしできればどこの社も、価格転嫁の先頭を切りたくない。できれば、USMCAの交渉が不調に終わって、米ビッグ3辺りが値上げの口火を切ってくれることを待っているのだ。
また日本メーカーの経営層数名に取材したところ、仮に関税が続くとしても、米国への生産移管は考えにくいという。米国の高い人件費と物価を織り込むと、仮に当初の25%の関税だったとしても日本で作った方が安いというのだ。
結局、今回のトランプ大統領の無茶な政策の根本にあるのは、米国の賃金が高いことに端を発している。USMCA圏で、カナダやメキシコに製造業がシフトしたのは米国の人件費、土地、物価が高いからに他ならない。上で述べた経営陣の発言に鑑みれば、米国が日本の人件費に対抗するためには25%の関税でも補正しきれないということを意味する。
実際、こうやって関税をかけて、各種製造業が米国内回帰を図れば、人件費の需給が締まってより高騰するだろう。完全な逆風を自分で呼ぶことになる。政策や規制で経済の自然規律を動かそうとすると莫大なコストがかかる。それは台風や地震のエネルギーと戦うくらい大変なことだと思うのだ。

ということで、長期的にはトランプ関税は米国に大きなインフレを招くことが予想され、米国民の支持が受けられないと思われる。雇用を増やし、所得を上げるための政策のはずが、おそらくは企業の健全な発展を妨げ、物価高を招く。この関税を根本的に見直さない限り多分そのルートは避けられないと思われる。
ただし結果が出るまでにはある程度時間がかかる。それまでの過渡期においては、個社それぞれに振り回されることになるだろう。そこは我慢のし所だと思うので、強い意志を持って耐えてくれることを祈る。